第10話

 人間は一日が終わるたびに自ら死へ一歩ずつ近づいていく。それなら「死神を待っている」という言い方は相応しくないのかもしれない。しかし死の方から私へ近付いて来てくれているとわかっていても一日が終わるのを・・・いや、命が尽きるその日が来るのを私は待ちきれない。一日も早く、一時でも早く死神があの世へと誘ってくれる日を待ちわびている。

 

 結婚前の私は知らなかった。欲がなくなるとこんなにも人間は無気力になるのだということを。独身の頃にも死神を待つ気持ちはあったが、今ほど切実ではなかった。何か嫌なことがあったり満たされないことがあったら、その思いを誤魔化すためにどこかへ行ったり食べたりして発散することが上手くできていた。そしていつの間にか死神を待つ思いは消え去り、忙しい日々によって死神の姿も気付けば頭の中から消えてしまっていた。


 今は発散の仕方どころか発散しようとする気持ちすらなくなってしまっている。無意味で無気力な生活は人間から感情ややる気という大事なものを奪い取っていくらしい。そんな心情の中で何とか日々をやり過ごそうとしている私の前にある人物が現れた。

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