第6話

  テーブルに料理を並べてコーヒーをカップに注ぎながらソファーにいる夫に声をかける。盛り付けもメニューも変化のない無難な朝食の始まりを伝えた。


 心のこもっていない寝言のようないただきますの挨拶をお互いした後、テレビを見ながら黙々とトーストを齧りサラダにフォークを突き立てる。


 「今日のラッキーアイテムは赤い名刺入れだって。そんなセンスの悪いものを持ってる奴は少ないだろうにな」

 

 「そうね。もっとありきたりなものにすればいいのにね」


 情報番組の占いのコーナーを見ながら内容のない会話をする。内容はなくとも会話があるだけましだと思っている。数時間後には忘れてしまっている会話でも、無言で食事をするよりはずっと居心地がいい。


 「夜は遅くならないよね?」


 「うん、いつも通り」


 「今日の夕飯は牡蠣のグラタンにする予定なの」


 「へえ、楽しみだな。もう熱いものが恋しくなる季節になったか」


 毎年秋口になるとする会話。秋が深まって寒風が吹き出す頃には鍋に関する話題が交わされるのだろう。季節が変わっても夫婦の会話は変わらない。なぜここだけ時が進まないのか、いつも不思議に思う。


 

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