自分は見えない その5

 仕事帰りの一杯を求めて、行きつけの居酒屋に来ている。

カウンターのど真ん中に座って、キンキンに冷えた生ビールをグビッと……。

 くーっ、たまらん!

そんな至福の時を過ごしていると、右奥の座敷から会話が聞こえてきた。


「まったく、近頃の若者は……。年寄りは頭が固いだの決めつけやがって」


 ああ、よく聞くセリフだ、なんて思いながらツマミに手を伸ばす。

マヨネーズのたっぷりついた、このアスパラベーコンが最高だ。

 それを串からかじり取り堪能していると、今度は左奥の座敷からも会話が漏れてきた。


「まったく、年寄りは……。 若者は根性がないだの決めつけやがって」


 むう…… どちらの言い分も正しい。正しいが自分はまったく見ていない、棚上げだ。

 こんな事聞かされてちゃ、酒もまずくなる……か。


 よし、帰って一人で呑み直すとしよう。


「大将、お勘定」


 威勢のいい大将に金を渡し、俺は店を出た。


「ふぅ、これだから酔っぱらいってやつは……」


 そう言って家路についた。

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