これだけは知っておきたい異世界転生の新常識(これ新) 二 ~コンテスト出品用にサブタイトルつけようと思うんだけど、長いほうが目立つから有利なんだよね?~

阿井上夫

第一話 物語導入部のインパクトは重要

「食レポ――ですか?」


 俺が怪訝な声でそう訊ねると、冒険者協会のクエスト受付係を勤めるサキュバス嬢は、無駄に豊満な胸を揺らしながら、そっけない声でこう答えた。

「はあ、そうですが何か問題でも」

 どうして異世界の受付係は大抵が巨乳の年増女で、しかも外見だけ変にインテリないしはドSな雰囲気なのだろうか。そういう採用基準がデフォルトになっているのだろうか。それとも単に大人の事情によるものなのか。

 俺は頭の片隅でそんなことを一瞬考えたが、もちろん今回のポイントはそこではない。

「いやまあ、ちゃんとクエスト完遂時に報酬を頂けるのなら問題はありませんが、しかしこれが本当に勇者のクエストかと考えると……」

 俺の戸惑いを、受付係が右手で制する。その動きでいちいち乳が盛大に揺れるのが、なんだかとてもわざとらしい。

 瞳を輝かせながら、眼鏡のフレームを右人差し指と中指でくいっと持ち上げる動作にまで乳揺れが付随するのは、さすがにやりすぎというものだろう。

 しかし、そんなことには一切関知することなく、受付係は鋭い視線を俺に向けると、小さく息を吐いてから(しかも、それで無駄に乳を揺らしながら)、一気に言い放つ。

「いいですか。最近のトレンドを考察しますと、勇者というのは『ただ強くて優しいだけの存在』ではいけないのです。すでに世界は新しいパラダイムにシフトしており、勇者というカテゴリーにも新たなアピールポイントが求められております。例えば卓越したファイナンスのスキル――これは内政方面への展開を可能とし、それによって新たな支持層を獲得するチャンスを生み出します。あるいは末っ子気質でもよいでしょう。兄貴肌の魔王に末っ子気質の甘え上手な勇者が立ち向かう姿を、あなたは見たくはないですか? 見たいですよね? ね? そんな微妙で隙間なラインをあえてついてくることで、潜在的なクライアント層をですね……」

 さきほどまでの冷静な表情から一転して、血走った眼を大きく見開き、息を荒げながら力説している窓口係を見つめていると、横から獣耳女がこう呟いた。

「意識高い系の変態コンサル、って感じだね」

 相変わらず、毒のある適切な表現である。

 窓口係はその後十分間ほど独自の勇者論を展開すると、最後に息を荒げながら言った。

「はあはあ、つまりですね、はあはあ、時代は新たな勇者像を求めているわけです」

「はあ」

「にもかかわらずですね、はあはあ、カズマさん」

「はい」

「はっきり言ってもいいですか」

「はあ、構いませんが」

 だいたい、わざわざこう断ってくる時点で失礼なことを言ってくるに決まっているのだが、嫌だと断っても結局のところ言うだろうから、俺は素直に了承した。

 窓口係はやっと息を整えると、最初の冷静な視線を俺に向けて言った。

「あなたにはそういったユニーク・スキル、ないですよね。転生者だということ以外」

 だいたい想定の範囲だが、失礼なことに変わりはない。

 しかも、俺のパーティー仲間までが後ろでこう言い始めた。

「ああ、そういえばないよね」(獣耳女盗賊)

「ない、かな。ふむ、そういえばそうだったかもしれないな」(脳筋騎士) 

「そんなことないですごしゅじんさまはやさしいしつよいし――やさしくてつよくて――あれ?」(メイド忍者)

「そりゃあ、作者が安易に自分の欲望を投影しただけの勇者なんだからさぁ、無能な作者の劣化版コピーにしかならないよね。なに今さら気がついたようなこと言ってるのさ」(幼女魔法使い、思わず地が出る)

「さすれば闇に墜ちよ、我が主。我が未来永劫、冥府魔道、空前絶後の境地に……」(ヤンデレ爆乳魔王、ぎりぎり聞こえるぐらいの小声)

「ZZZZ……」(聖なる女神様、相変わらず聖水作成中)

 俺が怒りで小刻みに震えていると、獣耳女盗賊がこう言った。

「でもさ、それでどうして食レポなのさ?」

 それは俺も聞きたかったことである。

「そんなの決まっているじゃないですか――」

 その場にいた人々の視線が集中する中、窓口係は胸を張りながら(その勢いで無駄に乳を揺らしながら)高らかに言い放った。


「――旬のネタだからですよっ!! 他に何があるっていうんですかっ!?」


 そのあまりの潔さに、俺は清々しさすら覚えた。

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