5話:アバターネーム(②)


 牧田先輩が初めてマスターに会ったのは、彼女が「世界の交差」を初めて経験した二年前、中学一年生の初夏のことだったそうだ。


「マスターはね、今も昔もほとんど変わらない。当時も暗くて、怪しくて、近寄りがたくて……。父の職場によく来てたんだけど、私もよくその手伝いをしていたから、見るたびに変な人だなって思ってた」


「牧田先輩のお父さんって、何の仕事をしてるんですか?」


 僕が訊くと、牧田先輩は少し目を丸くする。が、「今回はそこまで関係ないかな」と言って微笑んだ。


「全部話す」と言ったくせにまだ秘密主義が抜けきっていないところはなんだか気に入らないが、確かに家族のことなんて関係ないかもしれないし、もしそうだったら話したくないだろう。僕だってそうだ。自分の家や家族のことなんて他人にべらべら話すようなことじゃない。


「……じゃあ、どうして先輩はマスターと話すようになったんですか。『変な人』だったんでしょう」


「まあ、ね」


 見ると、彼女は何やら今まで見たことがない類の表情をしている。苦虫を噛み潰したような……いや、そうなんだけど、どこか違う。


「……私が話しかけたの」


 彼女はその表情のまま話す。僕が続きを待っていると、彼女は大きくため息を吐き、諦めたように口を開いた。


「あのね、本当に一生の汚点なんだけど……。私、マスターのことが好きだったの」


「…………え?」


 ぽん、と放り出された言葉に、僕の思考が停止する。「好き」って、その、アイラブユーの「ラブ」の部分のこと?


「だから、当時の話! 今は違うから! 本当に!」


 両手をブンブンと振る彼女の様子を眺めながら、僕はまだその言葉の意味を受け取れないでいる。


 牧田先輩に、マスターに、「好き」。まったく結びつかない単語同士が、頭の中をくるくると舞っている。だって、牧田先輩はマスターのことが「嫌い」なはずだ。「嫌い」だったら、どうして? いや――。


「……ほんとうに、」


 おもむろに彼女は口を開く。その表情には先ほどにはなかった嫌悪感が滲んでおり、僕はこっちの顔の方が見慣れていた。今思えば、さっきの彼女の表情は、「気まずさ」だったのかもしれない。自分の過去の恋愛事情――その失態や後悔を、僕なんかに吐露しなくてはいけないと気付いた彼女の。


「それさえなければ、今頃、全然違っていたんだと思う。ただ、その時は、純粋にあいつのことを知りたくて、あいつと話をしたくて、仲良くなりたかった……『好き』なんだって思ってた」


 椅子に腰かけた彼女はもう一度「好き」を繰り返す。それが事実なんだって、確かめるみたいに。


「馬鹿だったんだ。中学の時ってさ、あいつくらいの年齢の男って魅力的に見えるんだろうね。……浅はかだったんだ」


「……」


「だからこそ、私はあいつに『近付いた』」


 突然、きっぱりとした口調に僕は彼女の顔を見る。僕の視線に気付いた彼女は、ダークブラウンの瞳で僕を見下ろした。


「彼に惚れてしまった私は、ずっと考えていたの。あの人が何を考えているのか。どういう女の子が好きか。どうやったら仲良くなれるか――彼に『お近づきに』なれるのか」


 彼女は薄ら笑いを浮かべながら、歌うように語る。


「でも、そんなのいくら考えたって答えが出ないでしょ。だから、直接聞いたんだ。『私はあなたのことが知りたい』……ってさ」




 私はあなたのことが知りたい。普段はどこで何をしているのか。いつも何を考えているのか。私はあなたに興味があるから、あなたの事を教えてください。




「……えっと、中学一年生ですよね?」


「うん」


 こともなげに頷く彼女に、僕は少しくらっとする。マジかこの人。大人しそうな見た目のくせに、昔からこうなのか。


「ま、若気の至りってやつだよね。かなり情熱的でしょ」


 「情熱的」と言うのかどうかわからないが、とりあえず頷いておく。


「はじめて『ラブ』を知った、無知な中学生だったんだよね。……駆け引きなんてできなかったから、私はそれですべて上手くいくって思ってた。馬鹿だよね。でも、おかしなことに、『上手くいった』の」


「……それって」


「マスターは『すべて』を教えてくれた」


 僕はどきりとする。彼女の瞳は薄く曇っている。


「父の仕事が終わって……当時のあいつの家に行った。今と場所は違うけれど、中は巴くんが見たとおりだよ。たくさんの機械とコードがあって、何かIT関係の仕事をしてるのかななんて考えてた」


「先に教えてもらってなかったんですか?」


「あいつが言うわけないでしょ。……『俺の家に来ればわかる』って言われてたの、それで、何にも考えずに行っちゃった。今思えば本当にバカ」


 その時は何も知らなかったから、と牧田先輩は早口で付け加える。牧田先輩が言いたいことくらいわかる。だから、できるだけつまらなさそうな顔で息を吐いておく。


「……私はそこで、『それ』を見た」






 暗く、異常なほど温度の低いその家の、光の漏れる奥の部屋。


 そこに通された彼女は、制服の上から腕をさすりながら、モニタの明かりを頼りにその中を歩き回る。


「こんなところで、何の仕事をされてるんですか」


 真っ黒の男は俯いたまま、何も答えない。「不審」も「不気味」も、すべてが「ミステリアスで素敵」に変換されるのだから、恋って恐ろしいよね、と彼女はドライに笑った。


「お掃除、苦手なんですか」


 口調は明るいが、コードに足を引っかけないように、慎重に進んでいく。せっかく家にまで来れたんだ、こんなところで怒られて、追い出されるわけにはいかない。


 彼女の足はコードを避け、紙の束を避けながら、その奥の方へと導かれていく。冷たく、埃っぽい空気を吸い込みながら進んでいく彼女に、男は何も言わなかった。ただ、真っ黒の瞳で、その様子を見ていた。牧田先輩はそれだけだと思っていた。だから、進んだ。その奥の奥へ、もう、「引き返せない」場所まで。


 ――そんなわけないのにね、と、彼女はどこか諦めたような声で言った。




「……ひっ‼」


 ガタン! と音を立てて、機材が倒れる。そして、積まれた資料とそこに積もっていた埃が舞い上がる。


「……見たな」


 腰を抜かし、その場に座り込んでしまった彼女はその声に振り返る。男はいつの間にか彼女のすぐ後ろに立っていた。暗すぎるせいでその表情はまったく見えない。震える彼女はそこで初めて、自分がとんでもない過ちを犯してしまったことに気付く。しかし、助けを求めようにも声が出ない。引き返そうにも足が動かない。


 男はそんな彼女に目もくれず、その横を通り過ぎる。彼女は目が離せなかった。男は「それ」の前まで来ると、その場に跪き、恭しくその「手」をとる。薄暗がりの中、彼が浮かべていたのは恍惚の笑みだった。


「! いやっ……!」


 ようやく絞り出した彼女の声に、男は振り返る。


「美樹」


 男は彼女に手を伸ばし、両頬を掴んで容赦なく引っ張る。彼女の両目から大粒の涙が零れる。


「よく見るんだ」


 冷えた涙で頬を濡らしながら、彼女は悟る。この男が家まで自分を連れてきてくれた理由は、興味でも、親切でも、もちろん好意でもなんでもないということ。この男は待っていたんだ。自分にとって都合のいい、自分の「共犯者」となりうる存在を。




 暗闇に慣れてしまったその目は、嫌でも「それ」を捕捉する。


 部屋の一番奥、わずかなブルーライトに照らされて、ぼんやりとその存在を主張する「それ」は。




 「それ」は、おびただしい量のコードに繋がれていた。


 それは、さらさらの黒髪と、透きとおるような白い肌をしていた。


 その肌のあちこちから、真っ赤な筋肉と、内臓が覗いていた。


 それでも、安らかな表情で瞼を閉じていたのは。




「――よく、出来ているだろう」




 裸の少女の形をした、一体の機械人形だった。








「――私はそこで、大体のことを聞いた。『世界の交差』のことも、マスターのことも、その女の子のこともね」


「あの、もしかして、『それ』って……」


 僕が言うと、少し疲れた顔の彼女はこちらを向き、力なくニコ、と笑った。




「そう。ゼロちゃんだよ」




 僕はぞくりとする。と同時に、マスターとゼロに関わるいろんなことが、一気に繋がった気がした。


 ゼロのことで挑発したとき、発狂じみたキレ方をしたマスター。中年の女に物を投げつけられても、「また来ます」と花を供え続けるマスター。氷のように冷たく真っ暗な部屋で、いつまでもキーボードを叩いているマスター。――そこに落ちていた紙も、金属もコードも、すべて「それ」のために必要だった。散らばっていた紙に書いてあったあの図は、本当に、「設計図」だったんだ。




「マスターはね、彼が高校生の時に、『こっちの世界』にいたゼロちゃんと死別しているの」


 二人は同級生だったんだって、と彼女は付け加える。


「あまり詳しくは知らないんだけど。今は『世界の交差』を使って、『こっち』の世界で失われたゼロちゃんの魂を、『あっち』に移動させて、長持ちさせてるんだって」


「、そんなことができるんですか?」


 そんなことができたら、それこそ奇跡だ。しかし牧田先輩は無表情に頷く。そして話を続ける。


「実際、上手く行っているみたい。きみもゼロちゃんと話したでしょ?『話せた』ってことはつまり、そういうことなんだと思う」


 僕はゼロとの会話を思い出す。確かに、彼女の意思はマスターとは別個で存在しているようではあった。けれど、それが本当に「死んでしまった人間の魂」? 


「ただ、マスターは、ゼロちゃんの魂が『あっち』の世界にあり続けていることには、満足できないみたいでね。……だから、作ってるの。『器』を」


 牧田先輩は腕を抱えると、忌まわしげに顔を歪めながら言う。


「『こっちの世界』での肉体を失い、宙ぶらりんになった魂を注ぎ入れるための肉体。でも、基本的には心と体ってセットだから、肉体のない精神も、精神のない肉体もないでしょ。だから、作るしかなくて――そのために、『世界の交差』を起こす必要があるんだ。もっと、もっと多くの『想像力』を集めて」


 僕はそこまで聞いて、ようやく話の全貌が掴めてきた。


 マスターは、昔にある少女と死別した。が、「世界の交差」によって、その少女の魂だけを「Lの世界」に移行し、現存させている。しかし、マスターの最終的な目的が、牧田先輩が言ったように「『こっち』の世界に取り戻したい」ということであれば、まだ彼の願いは叶えられたわけではないから、再び「世界の交差」を起こす必要があるわけだ。そして、そのためにより多くの「想像力」がいる。僕や牧田先輩みたいな、あいつとはまったく無関係の人間たちを騙してでも搾取さくしゅしないといけないくらいの。


「……いろいろやってみて、今の方法が一番いいって思ったみたい」


 彼女は静かに言う。僕はそれに耳を傾けた。


「家を一個まるごと取り換えるみたいに、『世界の交差』で『器』を現前させようとしたことも、そもそも『彼女と死別した』っていう歴史を塗り替えようとしたこともあるみたい。でも、上手くいかなかったんだって。どっちもかなり大きい『世界の交差』になるらしくて、その分の『想像力』が足りないんだって言ってた。特にゼロちゃんに関しては、すでに大掛かりな『世界の交差』をしているから、他のものよりもずっと大きなエネルギーが必要なんだって」


 そこまで言うと、彼女はふうと息を吐く。垂れてきた黒髪を後ろに払った彼女は、先ほどよりかは幾分か落ち着いた瞳で僕を見つめる。その奥に、暗くてしずかな意思が揺れている気がした。




 ――僕は今まで、彼女のことをどう理解していただろう。


 ただ、ほんの少しだけその話を聞いただけなのに、僕はさっきまで彼女に対して抱いていた感情や思いがわからなくなってしまった。おそらく、ただただ胡散臭いだとか、気障だとか、裏で無知な僕を嘲っているんだろうなんて推察して、勝手に嫌悪していた。もちろん、今のたった一瞬で彼女からそんな面が消え去ったわけでもない。僕の中にも彼女に対する疑いは残っている。でも……「それだけじゃない」と思うのはなぜだろう。どうして、まだ僕は彼女のことを、「嫌なやつ」だと決めつけられないのだろう。




「……巴くん、聞いてもらいたいことがあるんだけど、いいかな」


 牧田先輩はおもむろに唇を開く。僕は無言で頷いた。まだ、僕は彼女の話を聞きたかった。




「巴くんは、『死』って、私たちが簡単に扱っていいものだと思う?」




 その言葉の意味を咀嚼し終えた僕は、首を横に振る。牧田先輩も黙って頷いた。


「人の死って、そんな簡単にどうこうできるものじゃないはず。それは、きっと誰だって――きみだってわかってくれると思う」


 僕は頷く。


「普通は、人って、死んだらそれで終わりでしょ。いくら悲しくても悔しくても、『戻ってきてほしい』って願っても戻ってこない。それが自然の摂理でしょ? だけど、あいつは諦められないんだ」


 彼女はどこか遠くの方を眺めながら話し続ける。


「私だって、突然大切に思う人を喪ったら、ものすごく悲しいことはわかるよ。だから、あいつの『ゼロちゃんを取り戻したい』っていう気持ちもわかるの。……でも、わかるけど、普通は『取り戻したい』って思っても、『でも、どうしようもない』って諦めるはずでしょ。なのに、あいつは未だに願い続けている……。ゼロちゃんを取り戻すためにどうすればいいかを考え、試行錯誤し続けているの。今までずっと、何年間も」


 閉じられた空間に、彼女の綺麗な声はよく響く。彼女の声色は、さっきよりもずっと落ち着いていた。それは非常に心地よく、聞き慣れた子守唄のようだ。それを聞きながら――僕は、彼女がマスターのことをどう思っているか、少しわかったような気がした。


 牧田先輩は一旦言葉を区切ると、僕を見て少し笑った。僕はその表情に目を奪われる。


「きっと、それってさ。あいつの中にまだ、『もしかしたら戻ってくるかもしれない』っていう希望があるから。……あいつが、『不幸』なことに、『世界の交差』なんていう超常現象を味方につけているから――っていう風には、考えられない?」


 視線を外すことなく――僕は頷いた。


 言われてみれば、きっとそう。「普通」ならば、どこかのタイミングで諦めがつくはずなんだ。


 まだ身近な人間の死を体験したことがない僕だが、一般論として、「死」という現象が不可逆的な現象だということは理解している。僕たち人間は無力で、死に対して出来ることといえば、それを悲しみ、悼むことくらいで、死そのものに対しては何もできないのと同義だ。


 僕たちは結局、「死」のあとにアクションを取ることができるけれど、「死」という現象そのものに関与することは出来ない。


 だからこそ、どうしようもないからこそ、普通は起こった「死」を諦めることができるんだ。そして、諦めることによって、人は進んでいくんだ。嫌でも前に向かって、自分の人生を。


 だけど、マスターは、幸か不幸か、「無力」じゃなかった。


 彼には、「世界の交差」なんていう、「普通」であれば起こすことのできない「奇跡」を起こし、管理人マスターとして制御する力がある。


 彼はゼロを失った時から、ずっとその「奇跡」を信じて、ゼロを生かそうとしている。だから、彼女が亡くなってから何年か経った今でも、まだ、彼女の死を諦めることができずにいる。彼の時間は止まったままなんだ。




「――って考えると、ものすごく愚かだと思わない?」




 口調の割に、彼女の声は凪のように静かだ。


「私はね、最初に彼の家で説明を受けている時、始めは『この人は危険だ』ってものすごく怖かった。だけどね、話を聞けば聞くほど、その怖さはどこかに行った……。そうじゃなくて、私は、『この人は愚かだ』って思うようになった。私は、人間って、一度死んだら二度と生き返らないものだと思っているから」


「……僕もです」


 彼女は微笑んで頷く。


「下手に『力』を持っているから、『奇跡』を起こせるから、彼は永遠に『生』を諦めきれずにいる……。それってとっても不毛で、可哀想だと思わない?」


「『生』を諦められない――……」




 ――「死ぬのが怖い」のは、恥ずべきことじゃない。当たり前のことだ。だから、お前はそれに従って生きればいい。


 ――生きている限り死を恐れ、生きている限り生きつづけろ。そうやって、人間は、生きていくんだ。




 最後に、男に言われた言葉が次々と蘇る。


 無気力で不健康そうな見た目の割に、「生」への執着が激しいマスター。そういえば、尚人先輩もマスターに言われたんだっけ。「『世界の交差』は、人を生かすためのシステムだ」って。




「私はね、マスターに『諦めてほしい』んだ。『死んだ人を生き返らせよう』とか、そんなことに時間を割かないでほしい。あいつが頭を使おうがいくら頑張ろうが、無理だってことをいい加減わからせてやりたいの。それが私の本当の望み。『創作部部長』でも、あいつの『手先』でもない、『私』の本当の願い」


 彼女は膝の上で掌てのひらを組む。その瞳の奥には彼女の意思が、炎のようにゆらめいている。


「さっきも言ったけど、私は、死んだ人はどう足掻いても生き返らないと思っている。でもそれはね、マスターにいくら言ったところで無駄なんだ。たぶんあいつは、自分でいろいろとやってみて、試行錯誤して、その結果『無理だ』って思いきるまで、決して諦めようとしないんだ」


 そこで不意に、彼女がこちらを向く。


「だからね、」


 その時の、彼女の顔。を、処理しきれないうちに彼女は次の言葉を発する――見たこともないような悪い顔で。


「私は考えた。そして、決めたの。私がマスターを全力でサポートしようってね」


「……え?」


 間抜けな声で聞き返すと、牧田先輩はいつもの、不敵な笑みを浮かべた。そして、なにか文書を読み上げるように、高らかに唱え始める。


「諸々の事情を知っている私が、全力で、マスターの願いを叶えるために欲しがっている材料を集めてあげる。そして、マスターが最大限の力を発揮するための舞台を整えてあげるの。そしたらマスターが、あいつの考える理論で、そして最大限の力で彼女を生き返らせようとするでしょ。でも、私の考えが正しければ、それは絶対に、何があっても実現しないんだ。あいつがどれだけ知性を振り絞って、技術を駆使して頑張っても、無理なものは絶対に無理なんだから! 私はあいつがそうやって、『いくら頑張ろうが無理なんだ』ってことを実感するとき、ようやくあいつ自身が、彼女の『生』を諦められるんじゃないかと思っているの」


「マスターがちゃんと、諦められるように……」


 牧田先輩は楽しそうに笑う。彼女は一見僕の反応を見て楽しんでいるだけにも見えるが、おそらく、その笑顔は僕だけじゃなくて、彼女が「愚か」だと言うマスターにも向いているのだろう。彼女は今、彼女の中に存在するマスターの像を嘲り、笑っている。


「そう。だから中学三年生のとき、私は自らマスターに提案したの。高校に入学したら、そこに、マスターにより多くの『想像力』を供給することのできる『部活』を作ったらいいんじゃないかって。『私が高校に入ったら、今よりずっと多くの想像力を集めてきてあげる。多くの希望ある高校生から想像力を集め、あなたの願いを叶える糧としてあげる』、ってね」


 僕にまっすぐ向き合うと、牧田先輩は笑顔で、しかし言葉は僕に刃を突きつけるように、強く、言葉を言い放った。




「私は、マスターに従うことで、マスターの考えが間違っていることを証明する。きみの願いも『マスターの世界をぶっ壊すこと』って言ってたけれど、私も私のやり方で、マスターの願いを全否定するの。……ほら、私たち、結論だけ見たら、ちょっとだけ似てるって思わない?」




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