第18話 朝礼会場
次の日の朝、六時半の少し前に駐車場へ行くと、すでに十人以上の人が集まっていた。知らない顔もあったが、斉田さんもいたので多分このグループなのだろう。
「お早うございます」
俺は斉田さんのところへ行って朝の挨拶をする。
「斉田さん、待ち合わせはここで良いのですか?」
「良くは分からないけれど、ここみたいだね。会社の車で分乗して行くらしいよ」
斉田さんは心配そうにしていた俺に親切に教えてくれた。とは言うものの誰がどの車に乗るのかは不明である。
そうこうしている内に正田さんも現れた。予定の六時半を少し過ぎている。
「みんな揃っているか?」
当然六時半を過ぎているのだから揃っていなければならない。ところが正田さんが
確認すると一人足りないのである。誰がいないのか? 点呼を取ると浜田さんだった。
直ぐに浜田さんの部屋へ人を走らせる。
「正田さん、浜田さんは居ないみたいですよ。ノックしても声を掛けても返事がありません」
それが呼びに行った人の答だった。
すでに出発予定時刻は疾うに過ぎている。いつまでもぐずぐずとはしていられない。
「取り敢えず四台の車に乗って、先に朝礼会場に行くように」
正田さんの指示で俺達は近くの車に乗り込む。本来なら誰がどの車に乗るのかは、きちんと事前に説明するべきだろう。それがないため、乗り込むまでには少々の混乱があった。乗ろうとした車が既に定員オーバーになっていたりするのである。
朝礼会場へは七時前に着いた。
「朝礼は七時四十五分からだけど、七時を過ぎると車を停めるところが無くなるんだ」
車を運転していた今田さんが教えてくれた。朝礼会場には駐車スペース以上の車が来るので、少しでも遅れるとスペース探しに四苦八苦するという。
朝礼会場は大型スポーツショップの跡地だった。南北に長い建屋の南側には、大量のゼミ机が並べられている。その上には会社名の書かれた三角錐を横にしたような札が置かれていた。
そこがその会社の控え場所であり休憩場所なのである。
俺達は一次会社である野田建設と表記された場所を占拠した。丸新興業は二次会社なのである。二次会社とは言え、作業員は全て丸新興行に雇用契約されていた。
遅れてきた正田さんは俺の近くまでくると、誰に言うでもなく大声でぼやきはじめる。
「浜田のやつ、郡山に帰っていやがった」
不思議に思った俺は、正田さんに素直に訪ねた。
「なんで帰っちゃったのですか?」
「仕事が明日からと聞いて、何を勘違いしたのか昨日帰っちゃったらしい。普通その前に新規入場者教育があるのは分かるだろう」
どうやら新米の俺には新規入場者教育のことも話していたが、ベテランの浜田さんには当然知っているものと、詳しい説明をしていなかったようだ。
「で、どうするのですか?」
「どうするもこうするも、こうなったらどうしようもないだろう」
正田さんは自暴自棄になっていた。
そりゃそうだ。今郡山にいる浜田さんを、もうすぐ朝礼の始まる南相馬に連れてくることは不可能である。
そう思っていると正田さんから意外な言葉が飛び出した。
「もう、親を殺すしかないな」
「……」
あまりにも不穏な言葉に、俺は絶句した。
「いくらなんでも親が死んだと言えばJVもことを荒立てはしないだろう」
そういうことか。なんか複雑な気分だが、それも仕方がないかと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます