第四話

 それから二十日が経ったある朝。

 町長宅の前に魔族の文字が刻まれた木箱が放置してあった。見つけたのは町長の執事。

 その中には、肘から下で切断されてどす黒く変色した右腕が入っていたという。少し歪んで不格好な装飾が施されたモリア銀の腕輪をはめていた。

 勇者敗北の報を、アンナは店でいつものように剣を磨いている時に知らされた。もらった玉の小刀は、紐を通して肌身離さず首から下げてた。服の上から小刀を握りしめる。血がにじんだ。

「今回もだめだったか……」

 オルスは肩を落とした。

「町長がすぐに山へ捜索隊を出すそうだ。オルス、お前も来るだろ?」

 隣で炭家をやっているコトンが言った。勇者の件を知らせてくれたのもコトンだ。

「当然だ。アンナはどうする?」

「行きます」

 アンナは一点の迷いなく言い放った。


 オルス、アンナをはじめ、ファマス町民はみな最高級品の武具に身を包んで町長宅に集結した。

「さて、そろそろ行こうかね」

 のんびりとした口調の町長。当然彼も光り輝く鎧をまとっている。

 この日はいつもより少し暖かいように感じた。一行は列をなして、トルーシ山の崖を進む。よく鉱石を掘りに来ているだけあって、みなトルーシ山の道には詳しい。先頭を歩くのはオルスだった。

 魔物の襲撃もあったような気がしなくもないがよく覚えていない。十年間、魔王城の目と鼻の先で生きてきたファマスの人々にとって、魔物との戦闘は日常茶飯事であった。北の王国では悪霊の神々とまで呼ばれ恐れられるアトラス、バズズ、ベリアルら上位の魔物たちですら、ファマスの人々にかかればまるで作物を刈るかのように討伐されていく。当然、それらの魔物に本国では大仰な二つ名がついていることなど、彼らは知る由もなかった。

 ついさっきアンナも煉獄魔鳥を追い払ったところだ。上空から灼熱の息を吐いてきたので、ふーーっと吹き消し、ジャンプしてパンチをお見舞してやった。脳漿をまき散らしながら谷底に落ちていったので、多分勝ったと思う。

 そうでなければ、「最後の町」では生きていけないのだ。

 最後の町。

 雪と氷に閉ざされた北の最果て。

 敵の本拠地の目と鼻の先。

 最強クラスの魔獣魔物がひしめくこの土地で、十年間、人々は強く強く生きてきたのだ――。

 オルスは「アルテマソーーード!」と叫びながら数百体の魔物を一撃で薙ぎ払い、コトンは「今のは豪炎魔法ではない……火魔法だ」とか言いながら天まで届く火柱で魔獣の群れを焼き払っていた。町長必殺の超究武神覇王斬も相変わらずの切れ味で、勢い余って谷が一つ増えた。

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