第12話

 真夜中の見張りを引き受けたクラヴィウスは、夜が更ける前に拾得物の品定めを済ませるため、持ち運んできた荷物を手元に取り寄せる。

 遺体の持ち物だったのだろう、布鞄や背嚢、小袋に加え、ネフラリムの内容物と思しきガジェットと星石や鉱石、そして、ネフラリムの砕け散ったかけらのうち、手頃な大きさで使えそうなものはひとつにまとめて持ってきていた。


 クラヴィウスの目利きは確かなもので、利便の効くもの、売れるもの、直せば使えるものなどを手際良く選り分けていく。


 そんなクラヴィウスの手腕に見とれながら、チトセは鉱石の判別だけでも力になろうと手伝いを買って出ると、まだ手付かずだった白灰色の布鞄を掴み、引き寄せて中身を覗いた。


「きゃぁっ!」


 途端に彼女は声を上げ、布鞄を放り投げる。


 声に驚いたカディンが、シーザーを膝の上に抱えながら雑記帳を書き付ける手を止めてチトセに視線を向けた。


「どうした?」

「えー……あの、その、まって」


 しどろもどろになりながらパニックに陥っているチトセに、クラヴィウスが落ち着くよう促す。


「大丈夫よ、どうしたの?」


 チトセは言われた通り深呼吸をして、なお落ち着かないまま、もう一度布鞄に手を伸ばした。


「なんか。えええ……」


 三人と一匹に見守られながらチトセは布鞄に手を突っ込み、その元凶を手探りで掴む。震えながらも取り出したのは、白と青と灰色の入り混じる、人のあたまに似た形の石塊。

 チトセはそれを見るなり思わず小さな声を上げ、石塊を落としてしまった。


 床に転がる石塊を目で追い、それが何であるかを悟ったカディンの表情が固まる。


「……まじか」

「師匠、とても変な顔してますよ」


 ポートがカディンの表情につい突っ込みを入れる。


「そりゃあな」


 カディンはシーザーをポートへ預け、筆記具を雑記帳に挟み、脇に置いて立ち上がると、床に転がった石塊を手に取った。


「チセ、これがなんだか、分かるな?」

「あ、はい。うん。はい、とても。同族の感じがひしひしと」

「だよなあ」


 カディンは大きく肩を落とし、洞の隅に寝かせておいた四つの遺体を睨みつけた。


「やってくれたなこいつら……面倒なことしやがって」

「なんなんですか、それ」


 カディンの持つ石塊を見て、ポートが首をかしげる。


「なんだと思う?」

「なんか、人のあたまみたいな形をしてますけど」

「その通り」


 カディンはポートの目の前に石塊を突きつけてみせた。


「これは鉱族リベラノの頭蓋だ。あたまのホネな」

「え、え、はー?」


 ポートは驚いてシーザーのからだを強く抱きしめた。シーザーがたまらず小さく唸る。


「なあチセ、この石を見て、何か気付かないか?」


 チトセは急に話を振られて戸惑いつつ、おそるおそる石塊を眺める。青色の部分に注目すると、まぶたを瞬かせてはっとした。


「このひともしかして、磨けば宝石になります?」

「そう。これは青い鋼玉の原石になった鉱族リベラノだ」


 それを聞いたチトセの目が急に輝きだす。


「わあ……は、初めて見た。なんて素敵な……と、とてもうらやましいです」

「そうだな、チセにとっては憧れの姿だな」


 それまで臆していたチトセが羨望の眼差しで石塊に見惚れているのを他所に、ポートがカディンに手を挙げて尋ねる。


「これがあると何かまずいことでも?」

「まあ、単にこいつらの拾いもんなのかもしれねえが、問題はここがキュレイスだってことなんだ」

「どういうことです?」


 ポートはいまいちピンとこない表情で首をかしげる。


「あの四人は立入禁止区域に入った可能性があるってことよ」


 そこに、作業を進めていたクラヴィウスが口を挟んだ。


「立入禁止なところなんてありましたっけ?」

「ああ。俺たちは行かなかったからな」


 カディンは手荷物を手繰り寄せ、中から紙束を取り出して紙を一枚抜き取ると、夕方にポルティッシュと戦った広場より奥にある分岐点を図に書き出して説明する。


「三日前に俺たちが潜り始めた頃、この辺りで道が二本に分かれていたところがあっただろ? 俺たちはそこを左に行ったわけだが、右側の坑道にその立入禁止区域がある。

 そこには鉱族リベラノたちの葬送跡があるんだ。ここが廃坑になったのは、昔それが見つかったためなんだ」


 カディンは床に胡座を掻き、石塊を床にそっと置いて片手で支えた。

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