私は犯罪者ですか?

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精神主義国家

 西暦2105年。


 ロボットやアンドロイド、ホログラムが現実として人の日常に溶け込んだ時代。それは、きっと誰もが予想できた未来だろう。車には自己判断が出来るAIナビ、ゴミを拾い集めて街中を綺麗にする掃除ロボット、テレビは実態型のスクリーンからフィルムスクリーン、或いはホログラムへと変わり、仮想現実型のゲームも数多く普及されている。


 時代が進むにつれ、世界も確実な変化を遂げていた。


 だが、それでも人の生活は変わらない。どんなに便利な機械が身近に置かれていても、それを取るか取らないかは人の自由だ。ロボットに頼りきった生活をしている者がいれば、身の回りのことは自身で片付けようとする者もいる。

 言い換えるならば、「此処」は夢のような便利機器が発明され、ただポンとデパートや家電量販店に置かれるようになった時代だ。街中や駅にもロボットは存在し、自動販売機などを含む全ての物はタッチスクリーン式のフィルム形へと変わってはいるが、それ以外は昔と変わらない。それが、今の風景。


 だが、一つだけ決定的に違うモノがあった。


 始まりは2060年7月7日。

 この日を境に、日本を含む殆どの先進諸国は《クリミナルスワイプ》という名のシステムを作り上げた。人の知性や体力などに関わる能力よりも、まず《健全精神クリアメンタル》を主の基準とし、それで人を識別する社会的システムだ。


 特に自殺や殺人などのケースが増え続けている日本はこの精神主義にはどの国よりも積極的に取り組み、増える犯罪を抑えるため、思い切った行動をとった。

 万引き、盗撮、ストーカー行為などを含む全ての犯罪行為は、最低10年の懲役。窃盗罪は被害額が1000万円を超えるようなことがあれば、死刑。盗撮やストーカー行為も同様に、裁判官の判決次第では死刑がありえることとなった。そして殺人罪も裁判を起こすまでもなく、全て――死刑。


 このあまりにも理不尽で横暴な決定に世界は衝撃を受け、当然、日本国民は非難の声をあげた。こんな馬鹿みたいな法案、日本でまかり通るはずがない。だが、それもを使った政府の力によって押さえつけられ、一人の大臣の言葉が、騒動を徐々に鎮火していく。


 ――罰が怖いなら、罪を犯さなければ良い。


 聞いたものが絶句してしまうような、独裁者のような発言だった。だが、間違ってもいなかった。

 時が過ぎるにつれ、国内で行われた改革運動は、徐々に下がりゆく犯罪率として結果を表し、人々はこの言葉を最もだと思いだしたのだ。改変された学校教育のもと、新しい理念を見聞きしながら育った子供たちが、社会の一部として活動する年代に達したとき、《精神主義》は多数派の考えへと変わっていた。


 精神主義の考えは、こうして人々の中で強く根付きはじめた。



 ――他人のもの奪うべからず。害を与えず、嘘つくことなかれ。

 ――これを犯すは、大罪。

 ――命をもってして償え。

 ——法こそが正義。正義は絶対。


 ◆  ◆


 西暦2105年。

 一見、昔と変わらぬ生活、人、習慣。

 だが世界……否、《日本》は、犯罪に対し過敏になっていた。


 罪を犯せば、法は必ず鉄槌を下す――たとえ、相手が誰であっても。





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