第6夜 朽ちた街

 線路を歩いていた。

 ゾロゾロと行列を成して歩く人の中で、線路に沿って歩く。

 何処へ向かっているのか解らない。

 解るのは、決して幸せな場所ではないということだけ。

 旧日本軍の軍服もいる。

 スーツもいる。

 老若男女がボロボロになって歩く群れ…その中に私はいた。


 トンネルを抜けると線路は途切れ、長い下り坂が続いた。

 降り切ると、蒸し暑いコンクリートの街並み。

 埃っぽく汗が噴き出るような夏の日差しにコンクリートが嫌な匂いを放つ街。

 皆、バラバラになって街に散って行く。

 私は水の音のする方へ歩いた。

 そこは、金魚を売っているお店、店主の姿は無く、コンクリートの四角い池に鯉や金魚が泳いでいる。

 不衛生な店、濁った水の中で泳ぐ魚は生臭く、決して涼やかな感じではない。

 しばらく店内を見回すが、人の気配はなく、ただただ暑い。

 棚に並べられたガラスの水槽には濁った緑色の水が張られ中にはナニカ生き物が動いている。

 それがナニカは解らない、ザリガニのような…ヤドカリのような…。


 店から外を伺うと日差しが強く、外は外で不快だと思い、奥にある池の淵に腰を下ろす。

 苔むした池から鯉が時折、浮かび生臭い口を開けて再び潜って消えていく。


 夕焼けが差し、コンクリートの街がオレンジに染まる頃、私は海を目指して歩き出す。

 長く続くアスファルトを独りでひたすら歩く。

 海岸は地中海のような青い海にヤシの木が生え、狭く長い砂浜の果てにカフェが見える。

 あそこに行けば、水が貰える…だけど、こんな私に水をくれるだろうか?

 砂浜には人はおらず、ビーチパラソルが差してあり、桟橋にはボートが繋いである。

 リゾートのような海岸、自分には似つかわしくないように思え、私は反対側の荒れ果てた海岸で砂浜に腰を下ろす。

 荒れた海、ゴミだらけの砂浜。

 遠くから波がゴミを浚っていく…いずれ私も浚われるのだと思うと、なぜか安心して海で嗤っていた。

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