第13話

 ただ無力にその場に佇む啓太。その姿に周りの取り巻き達が囁きあう。そして民衆の囁きを遙かに上回る剣戟が飛び交っていた。




「ハァアッ!!」




 リーアが短剣をシロエ目掛け突き刺す。その刃の切っ先には稲妻が怒りと共に増徴され宿り、剣戟を上回る速度で放たれた。


 しかしシロエは難なくそれを片方の剣を瞬時に逆手に持ち直した上で受け、姿勢をリーアに向け加速しつつ、僅かに重心を落とす。そしてリーアの一撃が突ききったのと同時に剣戟を受け流す形で体を捻り、反対の腕に携えた短剣をリーア目掛けて加速と共に突き立てる。




「ッ!?」




が、リーアもこれを読んでいた。突ききった際の隙を狙われるのを分かって、下方から懐を狙ってくるのを予想し、リーアの視線は既に自身の下にあった。突き上げられる刃が上がりきる前に足で剣を踏みつけこれを回避する。


 シロエの片手剣を握る手が緩み、片手剣は地面に落ちる。しかし剣を落とした事で僅かな油断が生まれた。それをシロエは見逃さなかった。




「がッ!?」




 懐に片手剣のかわりに蹴りがつき穿たれた。そのままその場に体制を鎮めるリーアだったが懐を庇いながらどうにかその場に立つ。しかしそれが精一杯であった。


そのまま低姿勢になったリーアの頬に鈍い痛みが走る。シロエの回し蹴りがリーアの顔を吹き飛ばした。


力なく衝撃のまま、その場に倒れこむ。




「リーアッ!!」




「おっとぼっちゃん。ちょっと待ってな。すぅぐお相手すっからよ」




「けい……た、さま」




 啓太が駆け寄ろうとするもシロエに制止される。周りの民衆達はリーアの敗北に慌てふためいていていた。


その光景にシロエは笑いながら力なくその場にうなだれるリーアの髪を掴み持ち上げる。そして高らかに宣言した。




「いいかよく聞けッ!亜人の諸君よ。選定の巫女は自分で売った決闘すらまともに果たせん愚図のようだぞッ!魔法武具まで持ち出しておいて恥ずかしい限りだ。そしてその駄目巫女が拾って来た子犬ちゃんはもっと酷い。我々の〝じゃれあい〟なんぞに脅え震える始末だ。これを王と認めていいのかッ!?あぁッ!?だめだよなぁ」




 民衆達はシロエの演説に対し囁きあう。シロエはその様子を見て嘲笑し、言葉を続ける。




「王や選定の巫女なんぞに頼る事が正義なのか?違うだろッ!?こんな愚図共に従い命を散らすか?俺は嫌だねッ!俺達は亜人だ。よそ者はいらねぇッ!混血はいらねぇ!だろ?」


亜人達は一斉に静まり返る。しばしの静寂の中、イノシシの亜人が沈黙を断ち切った。


「シロエが強いのは分かった。王に頼らず生きるって言うのももちろんありだ。だからそろそろリーアちゃんを離してやってくれ。本当に死んでしまう」




「あぁ、そうだな」




シロエはリーアをおろした。一同がほっと肩を撫で下ろした。それは一瞬だった。




「ガハッ!?」




シロエが短剣をリーアの懐に深く突き刺した。リーアの表情が悲痛に歪み、その嗚咽と共に口からは血が滴っていた。




「そ、そんななんで……そこまで」




 先程の亜人が目の前の光景に言葉を漏らす。他の民衆もその光景に唖然としている。




「あ?お前らはだから駄目なんだよ。こんな見てくれだけの女にほだされやがって。それって結局こいつらが言う王に縋ってるってことさ。なら選定の巫女なんていらない。王もな。今からそれを証明してやる。なぁッ?」




嘲笑しながら力なくその場に伏すリーアの頭を踏みつけながら天高く笑う。リーアの周りには少しづつ紅い血だまりが広がりつつあった。




「……やめろ」




「あ?聞こえないぜぼっちゃん」




「やめろ」




「聞こえねぇよ」




 啓太の小さな言葉に苛立ちを覚えたのかシロエは一瞬にして啓太の眼前に現れる。


啓太が顔をあげた時には既にそして拳を握り締め、振りかぶっていた。鈍痛。拳の重みで啓太の顔が歪み、軽く小さな体は衝撃に流されるがまま吹き飛びそのまま力なくその場に伏す。




「ッ!?啓太くん!?」




「はっ……気ほどもねえな。所詮ガキはガキだ。そんなんだから家族死なせちまうんだよ」




 勝ち誇るシロエに対し、啓太は言い返す言葉が無かった。そして同時に思い出していた。




(僕は……母さんと姉さんを……そうだ。僕のせいで二人は)




「お前はどうしようもないクズだな。あ?」




 啓太の頭を何度も何度も力いっぱい踏みつける。何度も。何度も。




「また死なせるか?ありゃ持たないぜ?まぁ俺あいつの事きらいだったしいいけどお前はもうちょっと楽しめそうだわ」




そういって力なく伏すリーアのほうへ首を振る。


民衆はこの光景に怖気づき誰もリーアを助けに行こうとしてはいなかった。




(そ、そんなッ!?あのままじゃ……しんじゃうよ)




「あ?てめぇ……なんのつもりだよ」




 シロエが踏むのをやめ、啓太の姿をあきれた顔で見下ろしていた。


その視線の先には土下座をしてシロエの足元に這い蹲る啓太の姿があった。




「あ……お、おねぎゃいしますッ!リーアさんを助けてくださいッ!お願いしますッ!僕はどうなっても


いいから、お願いしますッ!!」




力なき啓太が唯一思いついた方法であった。その光景に一同静寂が流れる。高らかな嘲笑が後に静寂を打ち消した。




「ははは……こりゃ傑作だわ。とりあえず顔あげろよッ」




啓太が顔をあげる。その瞬間顔面に痛みが走る。




「世の中そんなあまくねえよッ!ばぁか!」




何度も啓太の顔面を踏みつけた後、蹴り上げる。




「ぐぁ……あ……あ」




「滑稽なガキだ。さてそろそろ……」




そして仰向けに倒れた啓太の心臓に剣を一突きつき立てた。手際よく突き刺し、確実に殺すためつきさした後穿る。




「が、あぁぁぁああああ……」




啓太があまりの苦痛に叫ぶ。その光景には思わず皆目を背けていた。


その刃についた血を舐めあげる。




「まっず……王様の血ってなんていうか高貴なイメージあったけど泥の味するわ」




「り、り、りーあさん、お、を、を、たす、たすけ」




 口から溢れてくる血でうまく喋れない。シロエは満身創痍の状態の啓太の腹を容赦なく踏みつける。




「あ?だからきこえねぇってッばッ!」




啓太が喋ろうとするたびにシロエは腹部を強く踏みつける。口からは咳と一緒に大量の血液が漏れ出していた。




「もう、もうやめてよぉ!!」




その叫びシロエの視線がそちらに向けられる。その叫びの主は誠であった。

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