大きな耳と小さなボク

「かばんちゃ〜ん!」


ゴコクちほーから帰り、図書館で久しぶりに料理を振舞っているかばんに、明るく話し掛けるサーバル。


「ん?どうしたの?」


「えっとね!その....やっぱりなんでもないや!」


サーバルは、モジモジと言いにくそうにしていたが、やがて逃げるように走っていった。


「どうしたんだろ....?」


かばんは不思議に思うが、特に気にも止めず、料理を再開する。ところが、かばんはどこからか視線を感じる。


「....?」


辺りを見回すが、向こうで待っている博士たちと、その近くで談笑しているサーバル、アライさん、フェネックの他には誰もいない。


「まぁいいや。サーバルちゃん!手伝って!」


「うみゃあ!わかった〜!」


かばんは気のせいだろうと思い直し、料理に専念する。サーバルには、皿によそったカレーを運ばせる。そしてかばんは、余ったカレーをすぐにお代わりできるように、鍋ごと運ぶ。


「うみゃ!出来たよ!博士!助手!」


「たくさん食べてくださいね!」


かばんが博士たちのもとにカレーを運ぶと、彼女らは、食べる前から恍惚とした表情に変わる。


「待っていたのです!」


「待ちくたびれたのです。」


元気な博士と、少々不機嫌な助手が言う。


「ひどいよ!かばんちゃんが頑張って作ってくれたのに!」


サーバルがすかさず反論。目には涙を浮かべている。


「わわ、悪かったのです!サーバル!(ほら!助手も何か言うのです!)」


「わかりました....かばん、長旅のすぐあとなのに、我々のためにわざわざありがとうなのです。」


博士は慌てた様子で、助手はさもめんどくさそうだが、その口からは博士より賢そうな言葉がでてきた。


「なっ!?助手!私を越えてはなりませんよ!」


「え?すいません....?」


博士は嫉妬心から助手にいちゃもんを付けるが、助手はいまいち分かってないようだ。


「ほらほら!もういいから!早く食べて!」


「早く食べないと冷めちゃいますよ?」


サーバルとかばんの一言で、2人はカレーを貪り食い始めた。口元はカレーで汚れて、さらには襟元まで汚れている。


「あー....」


「2人とも汚いなぁ....」


かばんとサーバルはそんな言葉を口にするが、笑顔である。その時。


「カレーができたのに呼んでくれないのはひどいのだ〜...」


「かばんさん、私たちのことも忘れないで〜?」


歩いてきたのは、アライさんとフェネック。少し落ち込んだ顔をしている。


「わわ、ごめんなさい!」


「でもフェネックちゃんたちはここにいなかったよ?どこにいるかも分からなかったから呼びに行けなかったんだよ〜...」


かばんは謝る。それにフォローを入れるサーバル。


「アライさん達はジャパリまんをもらいに行ってたのだ!」


「そうだよ〜。カレーにつけたら美味しそうだと思ってね〜。」


フェネックの一言に、あの2人が食いつく。


「フェネック!ないすあいであ、なのです!」


「でかした、なのです。」


2人はフェネックをべた褒め。フェネックは頬を少し紅く染めている。


「そんな大した事ないよ〜///照れるじゃないか〜///」


そんなフェネックの満更でもない感じに、嫉妬を隠しきれないものが...


「そうなのだ!大した事ないのだ!フェネックよりアライさんの方が凄いのだ!」


「そうだね〜!アライさんはすごいよ〜!」


普通なら怒るような場面でも、フェネックは優しくアライさんをフォローしている。しかし、博士と助手は、不服そうな顔である。


「何を言っているのですか...?お前のどこがフェネックに勝っているというのですか!?」


「しっかりとその辺、説明するのですよ。」


2人から問い詰められるアライさん。


「た、たとえば!フェネックよりもアライさんの方が、手先が器用なのだ!」


「フレンズになった以上、手先の器用さなど、取るに足らないことなのです。」


「むかちむりえき、とゆう奴です」


2人から言いたい放題言われたアライさんは、茹で蛸のように紅く頬を膨らませて、


「もういいのだ!」


そう言い放つと、彼女は森の方へ走っていった。


「待ってよー」


フェネックもあとをついていく。


「なんなのですか?全く....」


「我儘すぎるのです」


その光景を見ていたかばんとサーバルは、


「ボク、連れ戻してきます!お二人はカレーを食べて待っててください!」


「かばんちゃんが行くなら私も!」


そう言うやいなや、アライさん達が去った方へと走り出した。


「はぁ....甘々なのです....」


「かばんは優しすぎるのです...」



─────────────────


場面は変わり、森の中。アライさんはフェネックと一緒にいた。


「博士たちはヒドイのだ.....」


「そうだねぇ....ちょっとあれは言い過ぎだよね....」


フェネックは必死に慰めている。


「でも良かったのだ?」


「....大丈夫だよ〜」


そんな会話をしていると、


「あ、いたよ!」


「やっと追いつきました!」


2人を追いかけてきたかばんとサーバルである。


「....///」


「あ...もう大丈夫なのだ」


「「??」」


アライさんとフェネックのいつもとは違う不自然な態度に違和感を覚える2人。


「あの...どうかしました?」


「」


「な、何でもないよ〜...」


「そそそ、そうなのだ!アライさん達は普通なのだ!!」


フェネックは目をそらし、アライさんは目が泳いでいる。ますます怪しい...


「....早く戻りましょう?博士たちも心配してますよ!」


「そうだよ!それに博士たちの事だから、カレーを2人で平らげちゃうかも!」


「それはダメなのだ!!急ぐのだフェネック!!」


「は、はいよー....」


2人はかばんとサーバルの間を通り、来た道を引き戻し始めた....と思いきや、来た道とは反対方向へ走り出した。


「あの!こっちですよ!」


「なにぃ!?」


「あぁ...そうだった〜」


アライさんは土煙があがりそうなほど勢いよく止まり、方向転換をする。一方フェネックは、少し紅かった顔を、さらに紅く染め、照れたように顔を隠してアライさんについていく。2人が行ったあと、


「サーバルちゃん、フェネックさんの様子、おかしくなかった?」


「え、そ、そうかな〜?」


「うん、ボクにはそう見えた。ちょっと心配かな...」


「かばんちゃんが言うならそうかも!」


そんなことを話しながら、2人も図書館へと戻っていく。


─────────────────


「遅かったのです....待ちくたびれたのです.....何をしていたのですか...?」


「全く....どこまで走っていったのですか...」


2人は呆れた様子で帰ってきた2人を見ている。


「そんなに遅くなってないのだ!とゆうか、博士たちのせいで今こうなってるのだ!」


「自業自得ってゆうやつだね〜」


その言葉で2人の白く透き通った顔は、怒りの赤で満たされた。


「な!何を言ってるのですか!?我々はアライグマ、お前の思い違いを正してやろうという優しい心でわざとお前にきつく言ったのです!」


「お前らのせいなのです!我々は悪くないのですよ!」


次々と出てくるその言葉は、全て自らが正しいと思っているような口ぶりだ。その言葉に嫌気がさしたのか、ついに....


「でもこの出来事が起こったのは博士たちが原因だよね〜?それを私たちのせいにされるのは違うよね〜?」


彼女の紅かった顔は、すっかり元の綺麗な白い顔に戻っていた。そしてその表情は笑顔....であるが、目元は笑っていない。完全に怒っている。


「うぅ....わ、悪かったのです...」


「我々のせいなのです....」


生意気な長2人は、普段温厚な彼女の威圧に耐えられなかったようだ。

と、ここで、


「食べ終わりましたかー?」


「私とかばんちゃんの分も残してある!?」


歩いてきたのか、随分と遅く帰ってきたかばんとサーバル。


「かばん!こいつを宥めるのです!」


「我々の手には負えないのです!」


「え?え?」


困惑するかばん。何が何だか分からない。


「かばんさんは私たちの味方だよね〜?」


「たうぇ!フェネックさん!一体どうしたんですか?」


「いや〜博士たちがわがままを言うからさ〜、私が怒ってただけだよ〜」


「そ、そうですか....」


「もっかい聞くけど、かばんさんは私たちの味方だよね?」


「えぇ!?えっと....」


フェネックは、かばんの顔に、くっつきそうなくらい顔を近づける。その顔はほんのりと赤みがかっているような...?


「えっと....近いですよ///」


「....あ、ごめんね〜」


そう言うとフェネックは、少し躊躇いがちに顔を引いた。


「かばん!我々はワガママなど言っていないのです!」


「我々は我々の意見を述べたまでなのですよ!」


「どっちがほんとなんだろー...?」


博士側、フェネック側の双方の意見聞き、迷うサーバル。


「フェネックさん、博士さんたちは何を言ったんですか?」


「え?えっと...」


かばんの純粋な瞳に見つめられ、一瞬言葉が詰まるフェネック。賢い博士はそこを見逃さない。


「ほら!フェネックは何に怒っていたのか忘れているのです!いや、我々は怒られるようなことはしていないのです!」


「えと...そうなんですか?フェネックさん」


フェネックの顔は紅いのには違いないが、その表情からは怒りを読み取れない。冷めてしまったのだろうか?


「もうこの話は終わりなのだ!もう誰も怒ってないのだ!みんな仲良くかれーを食べるのだ!」


最高のタイミングでアライさんが仲裁に入る。


「それもそうです。我々がムキになることもないのですよ。はかせ」


助手も仲裁に加わる。


「...そうですね。わざわざ我々が怒る必要などないのです!りょうりにありつければなんでも良いのです!」


「え?あぁ...フェネックさんはそれで...フェネックさん?」


喧嘩はどんどん解決の流れに変わっていく。しかしここでかばんはフェネックの異変に気づく。


「....あ、え?なに?」


「フェネックさんどうしました?」


「ど、どうもして無いよ?あ、えと、アライさんちょっと図書館の中に行こ?ね?」


「えー?アライさんもかれーを食べたかったのだー...」


「あとで戻ってくるよー」


「んー...分かったのだ!博士たち!アライさんたちの分のカレーを残しておいて欲しいのだ!」


「えぇ、いいですよ」


「我々はかんだい、なので」


「ほら、行こ?」


「わかってるのだ!それじゃ行ってくるのだ!すぐに戻ってくるのだ!」


「は〜い!行ってらっしゃ〜い!」


フェネックはアライさんを連れ、図書館へ逃げるように去っていった。それを少しだけ心配する者が1人...


「フェネックさん、どうしたんでしょう...大丈夫でしょうか...」


そして、そんなかばんを何か言いたげに見つめる者...


「んみゃー...」

─────────────────


「アライさん、私、どうしたらいいかな...」


淡く陽の差し込む図書館の一角。

椅子に腰掛け、フェネックは顔を隠しながら話す。

そして、机を挟んだ向かい側には、アライグマが静かに聞いている。


「...どうしてアライさんを図書館に連れてきたのだ?」


「えっと、ちょっとアライさんと2人で話したくて...アライさんは私の悩みの事知ってるから...」


「うーん...」


と考え込んでしまうアライさん。


「...そうなのだ!かばんさんとフェネックの二人きりにどうにかしてするのだ!それから、フェネックは勇気を出して、フェネックの言いたいことを言ってみるのだ!」


「私の言いたいことって...?」


自分の気持ちが理解出来ていないのか、ゆっくりとアライさんに訊ねるフェネック。


「ん?フェネックはかばんさんのことが好きなのだ?それをかばんさんに直接言うのだ!」


「.........あっ///」


フェネックは少し考え、やっとの事でアライさんの言葉を理解する。それと同時に、小さく声を上げ、顔を俯かせる。その顔をかつてないほどに紅くなっていた。


「できる...かな...?」


フェネックは再びアライさんに訊ねる。しかしさっきとは違い、とても弱々しい声である。


「大丈夫なのだ!フェネックの気持ちに嘘はないのだ!だから絶対にかばんさんに伝わるのだ!心配しなくてもいいのだ!」


「そう....かな...///」


フェネックは、アライさんが自分の事をここまで考えてくれていたこと、そして、自分の事をよく分かっていてくれるアライさんに、とてもありがたいと感じた。


「それじゃそろそろ戻るのだ!みんな心配してるのだ?」


「うん。ありがとう、アライさん。私の話を聞いてくれて。」


「えっへん!親友として当然なのだ!」


「あはは、アライさんらしいね〜」


そこで2人の会話は終わる。そしてここからはアライさんの奮闘が始まる。

全ては親友であるフェネックの為に...


─────────────────


「2人とも遅いですね...ボク、見てこようかな...」


かばんは2人のことが心配になり、図書館の方へ歩き出す。すると


「あ!かばんちゃん!2人とも来たよ!」


「え?ああ、フェネックさん!大丈夫ですか?」


「えっと...ごめんね?突然居なくなったりして」


「あ、いえ。大丈夫ですよ」


かばんはフェネックを見るなり走り出し、心配そうな目で覗き込んでいる。


「博士たち!アライさんたちの分も残しておいてくれたのだ!?」


「「あ...」」


なんと博士たちは、サーバルとかばんの2人が話している間に、カレーを遺さず綺麗に平らげてしまっていた。二人揃って間抜けな声を出す。


「あ、あぁ!!もうかれーがないのだぁ....」


「も、申し訳ないのです...」


「謝るのです....」


落ち込むアライさんに、謝罪の言葉を述べる博士たち。


「むぅ...じゃあこっち来るのだ!話があるのだ!」


「話...ですか?」


アライさんの無理やりな誘導に、困惑する2人。


「サーバルも食べたのだ!?」


「う、うん...ごめんね!」


「じゃあサーバルもくるのだ!」


無理やりにも程がある。

それでもフェネックは嬉しかった。


(アライさんありがとう...)


少し赤らみが残った顔でフェネックはかばんに声をかける。


「か、かばんさん...少し話があるんだけど...」


「はい?いいですよ」


頬の赤みは増していく。

汗が流れ落ちる。

そんな中、フェネックは自らの気持ちを伝えようとした。

声を溜め、今出そうと。

が、しかし


「あの、フェネックさん」


「あ、うん、なにかな?」


昂った鼓動を抑えながら、冷静を保つフェネック。

ただ、かばんの顔を直視することは出来ず、かばんが顔を赤らめていることに気づかない。


「フェネックさんは...僕のこと...どう...思いますか?」


かばんは途切れ途切れではあるが、しっかりと尋ねる。

フェネックは答えようとした。

しかし緊張のあまり声が出なかった。


「ボクは...フェネックさんのこと...その...」


フェネックはそこでやっと顔を上げる。

そしてかばんの顔が紅いことに気づく。


「か、かばんさん...」


「好きなんです!」


フェネックはかばんが好きだった。

だが、かばんもまたフェネックのことが好きだった。

知らず知らずのうちに両想いとなり、お互いがお互いのことを気にかけ、付き合えないままでいた。


「えと...わ、私も...」


そこまでフェネックが言いかけると、かばんはフェネックを抱きしめた。

友達同士の抱擁などではなく、はっきりと好意を示す抱きしめ方だ。


「かばんさ...」


「フェネックさん...大好きです!」


その時、フェネックは唇に熱い感触を覚えた。

今まで味わったことの無い最高の至福。

実際にはその感触は数秒であったが、フェネックにとっては、永遠に続く幸せにだった。


「ご、ごめんなさい...その、勢い余ってつい...」


かばんはフェネックから離れ、もじもじしている。


「あ...かばんさんもっと...」


今度はフェネックがかばんを抱き寄せ、唇を交わす。

そして、かばんはさっきしたキスとは違う甘さを感じた。

フェネックのねっとりとした唾液は、かばんを虜にさせた。


「フェネックさ...んむ...」


舌を絡ませ、数分の時が経つが、未だに離れない。

フェネックはかばんの舌を貪るように吸う。

まるで獣に戻ったかのように。


「はぁはぁ...私嬉しいよ」


「はぁ...はぁ...ボクも...です...」


フェネックはとろけ顔でかばんを抱く。

かばんも大人しく抱かれる。

返事はなかったが、この行為が返事のようなものだ。


「お〜!上手くいったみたいなのだ!」


「全く、世話が焼けるのです」


「もっと早くくっついとけば良かったのです!」


「やっと伝えられたね!かばんちゃん!」


博士、助手、アライさん、サーバルは思いの丈を口に出す。


「へ...?もしかして見てました...?」


「あ〜やってしまったね〜」


2人は顔を赤らめ、うずくまってしまう。


「いいのですよ、そんなに恥ずかしがらなくても」


「人とはそう言う生き物なのです」


「羨ましいのだ〜!」


「二人とも可愛かったよ!」


その言葉を聞き、2人は顔を見合せ、笑った。

今ここに、人と動物のカップルが初めて生まれた。

人と動物が愛し合うのが当たり前だと言われるのは、遠い未来であることは、まだ誰も知らない。

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