第3話「探偵」


梨沙はまず例の動画をひたすらに見続けた。当時の状況、犯人の特徴、美樹の言葉など何かヒントになりそうな部分がないか、繰り返し再生し続けた。


そしてその中から推測の材料となる部分を所々見つけた。

まず、美樹は動画を撮影している最中小声でずっと「ヤバイヤバイ……。人が……。」と言っていること。

そして、撮影されていた大男の特殊メイクと思われる顔は、飛び出しそうなほど大きな目、口からはみ出ている牙、尖った耳が特徴的であったこと。


動画だけでなく、LINEの文面からもある程度推測できることはある。

梨沙が例の動画の旨について質問した際『きい』とだけ帰ってきたということはあの時既に襲われていた。

そしてその後『どうがをよこせなんのどつがだ』というLINEが来ていた。まず何故ひらがなのままなのか。焦っていたのか、若しくは外国人説を鑑みて漢字が読めない説か……。

その他に犯人から送られてきた文面は2つ。

『いえみたのだろう』

『けいさつにいつたらこいつをころす』


「うーーん……。わっかんないな……。たった数十秒の動画だけじゃ……。」


梨沙はただの女子高生。これだけでは何も分からない。


「あっ……。そっか、この動画だけじゃ分からないなら、他から情報を探せばいいんだ。」


梨沙はTwitterで 特殊メイク などの大男について何かツイートされてないか検索した。


「………………。」


なかなか見つからない。


「特殊メイク ヤバい なら……。」


「これも……コスプレのツイートばっか引っかかっちゃう……。」


この他にも梨沙は大男が連想できるワードを使い、目撃情報を検索し続けた。

SNS以外にもネット掲示板でも探し続けた。

しかし


「もーー!全く情報が手に入んない!!」


普通の女子高生である梨沙の力では簡単に見つかるはずもなくただただ無駄な時間が過ぎていった。



「……こうなったら、直接現場に行くしか……。」


梨沙は母親にバレないようにひっそりと家から出た。バレたら確実に止められてしまうからだ。



「…………着いた。」


案の定美樹の家の周りには多くの警察官が調査をしていて、とても入れる様な状況じゃなかった。


「……やっぱ、ムリかー……。」


もうこの際警察にLINEのことを言ってしまおうか。どうせ言っても犯人にバレはしないだろう。そう判断した梨沙は警察に近づいてゆく。


「あの……。」


1人の中年の警察官に話しかける。


「私、美樹の友達の梨沙っていいます。実は私……。」


「え、美樹さんの友達?駄目だよこんな所に来ちゃ。犯人が捕まるまで自宅で待機してなきゃ。ほら、帰った帰った。」


「いやその。私、犯人の―。」


そう言いかけた瞬間、梨沙の背後から何者かが梨沙の口を塞ぎながら後方へ引っ張る。


「はい、こっち来ましょうねー。」


梨沙を引っ張るその声から察するに若い男性の様だ。


「ーーーっ!?」


「おい何してんだよヒフミ。その子を離してやれ。」


中年警察官がその何者かに梨沙を離すように言う。慌ててない様子からその若い男はどうやら警察関係者らしい。


「ぶはっ!……な、何するんですか!?」


一旦離される。


「ダメでしょ高校生がこんな所にいたら、はい帰りましょうねー。」


「だから私はんに」


「はい、帰りましょうねー。」


「ヒフミ」と呼ばれていた男はまたもや梨沙の言葉を遮りながら追い払おうとする。


「ちょっと、少しは話を聞い」


梨沙が怒りながら言おうとした時、ヒフミは梨沙の耳元に小声でこう囁いた。


「そんな易々と言ってはいけないよ。誰がどこにいるかも分からないんだ。美樹ちゃんが人質に取られているんだろ?」


「……え?」



梨沙はその後、家に送り返してくるという名目でヒフミに連れられ、他の警察官の目につかない小さな広場に来た。木枯らしが吹き、少し肌寒い。時刻は15時を過ぎたあたりだ。


「……で、どういうことですか。」


「何が?」


「さっきのことですよ!何で人質に取られてることを知っているんですか!」


「いやー。僕とっても頭いいからね。」


「はぁ?」


「美樹ちゃんが拉致られた現場は、特に暴れた様子もなく、美樹ちゃんの血痕や髪の毛などは採取できなかった。そして母親からの証言だとガラスが割れた音から1分以内に部屋に向かったが既に美樹ちゃんの姿はなかった。」


「……?」


「え、わかんない?何の抵抗の跡も無いということは美樹ちゃんは暴力をされていないってこと。つまりまだ生きているし、その上で君に何かしらの連絡をよこした。そしてその進入から誘拐までのスピードから分かるのは犯人は人間じゃないってこと。」


「え……人間じゃ、ない?」


「だって梨沙ちゃんもネット上にある例の動画見たんでしょ?明らかに顔が人間じゃない。警察側はそんなこと信じようとしないけど。」


「それはそうですけど……。ていうか警察なのにそんなに喋っていいんですか?機密にしてなきゃいけないんじゃないんですか?」


「うん。だって僕警察じゃないし。」


「えっ。」


「そういえば自己紹介がまだだったね。」


ヒフミはおもむろに立ち上がる。


「僕の名前は 新畑一二三ニイバタ ヒフミ。ヒフミって呼んでね。職業は探偵だよ。」


ヒフミは高身長で、赤より茶髪のセミロングの上にハット帽を被っている。


「探…偵…?探偵って実在したんだ……。映画や漫画だけだと思ってた……。」


「全国的に普通にいるよ?主な仕事は詐欺や浮気の調査とかだけど。」


「へぇー……。」


「僕はここの警察と仲が良くてね。ちょくちょく事件の捜査に携わってるんだ。たまーに、事件解決に貢献してるよ。」


「ってヒフミさん。話を戻して下さい。美樹の誘拐犯人のことを何故あなたが知っているのか。」


「…………君は、僕がどんなことを言っても信じてくれるかい?」


「それは、内容によりますけど。」


「じゃあいいね。単刀直入に言う。美樹ちゃんを誘拐した犯人の正体は「グール」だ。」


「グール……?」


「さっきも言った通り、犯人は人間じゃない。人を喰らう怪物、グールだ。」


「ちょ、ちょっと待ってください。そもそも私は人間じゃないという話しにまず納得していないんですけど!」


「梨沙ちゃん……。この世には信じられないことも起こるもんだぜ?事実例の動画が証明してるじゃないか。」


「そんなこと言ったって……。」


「……僕の職業は探偵だって言ったけど、普通の探偵じゃない。とある案件を負い続けてる変わり者だ。そのとある案件ってのが、グールみたいな非現実的の奴らがバンバン出てくるような世界なんだよ。」


「えぇ……?」


「さ、梨沙ちゃん。依頼してくれ。探偵は依頼さえあれば死ぬ気で動く。」


「依頼って何を……。」


「そんなの決まっているでしょ。依頼する案件名は「探偵さん、私の親友の美樹を助けて!」だね。大丈夫、高校生相手にそこまでお金は取らないよ。」


「…………。」






結局、梨沙はヒフミに美樹捜索の依頼をしたのだった。



空が暗くなり始める。

梨沙はヒフミの話をよく聞くため、ヒフミと共に梨沙の家に戻る。だが、当然成人男性のヒフミが女子高生の家に上がることなど梨沙の母親が認める訳ないため、ヒフミはバレないように窓からこっそり梨沙の部屋に忍び込む。


「さ、色々情報を交換しあおうじゃないか。」


「はい……。」


「ん?何か乗り気じゃないね。」


「貴方に頼るしか手段がないから依頼しましたけど、まだ私はあなたを完全には信頼してないですから……。」


「別にいいよ。それで。その関係性でかまわんよ。」


「…………。」


「えー。まずグールの説明だね。グールは人間を食す生物で、この土地の様に人が多くても隠れ場所が多いような地域に多く分布している。見た目的な特徴は―――。」


それから暫くヒフミによるグールの説明が行われた。聞いた限りでは例の動画に映っていた男の顔とグールの特徴が一致している。


「これだけ言えば犯人がグールだってのに信憑性が充分にあるでしょ?」


「グール……。」


「さて次は君からだ。君だけしか知り得ない情報をおくれ。」


「分かりました……。実はLINEが―――。」


梨沙もヒフミに犯人から送られてきたLINEについて事細かに話した。



「ほーん。なるほどねー。うん、グール確定だわ。」


「な、なんでですか?」


「グールは人間たちの生活の中に潜んでいるとは言え、人間が使う道具や文化などにそれほど詳しくはない。それでもグールは賢い。スマホの操作ぐらいわけないはずだ。LINEの文字が全部ひらがなで、所々誤字をしてるのもそういうことだろう。」


「なるほど……?」


「美樹ちゃんが『きい』と打った瞬間に、グールが美樹ちゃんを急襲。おそらく『聞いて!』とでも打ってる途中だったのだろう。その後のひらがな文面はグールが打った。動画について聞いてるということはグールでも動画が上げられた媒体であるTwitterの存在は知らない。だからこそ、おそらくスマホから削除されたであろう。だから動画の行方を聞いているのだ。だが、グールには撮影された動画の確認の仕方がわからない。もしかして君がその動画について知っていると思っているんだ。」


「そ、そうですか……。」


「大体現時点までの情報の整理はついた。これからは未来の話だ。どうやって美樹ちゃんを取り戻すか。」


「あ、あの一つ聞いてもいいですか……?美樹とは関係ないことですけど……。」


梨沙は信憑性の高いヒフミの推測を聞いて多少は信頼するようになったようだ。


「ん?なんだい?なんでも聞いて。」


「ヒフミさんが追ってる"とある案件"って何なのですか?」


「お、急に踏み込んでくるねー。」


「少しでもヒフミさんのことを知りたいと思いました。」


「しょうがないなー。答えてあげるよ。僕が追ってる案件。それは……。」


ヒフミの表情が真剣そのものになる。





「鉄血仮面についてだ。」

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