第4話 拉致

「やはり、光には戦場は危険すぎる。今度獣人との戦闘中にあいつが来たら、一度釘を刺さねぇとな」


 自室のベッドに座りながら、光少年のことを考えるゴウキ。普通に考えても彼がこの考えに行き着くのは遅すぎるくらいなのだが、彼は迷っていた。光のことを考えるならどんな手を使っても彼を戦場から遠ざけるべきだということは当然わかっていた。だが、ゴウキ=ブレイブレオは彼の声援が嬉しかったのだ。


(俺の力をもってしても、獣人達の攻撃からあいつを守り切るのも限界がある。手遅れになる前に、俺自身の口からあいつに話すか)


 そう考えながら、ベッドに横になるゴウキ。


(あなたがいるから巻き込まれてしまう人もいるんです。なるべく私達には関わらないでください)


 光のことを考えているうちに、光の母親から以前言われた言葉を思い出すゴウキ。


(逃げ出すことが正しいとは絶対に思わねぇ。だが、光の母さんの言うとおりなのか? 俺がいるから、光や周りの奴らが危険な目に遭うのか?」


 彼らしくもなく、悩むゴウキ。しばらく悩んでいた彼だが、やがて考えることを止める。


「悩んでも仕方ねぇ。俺が戦わねぇと、人間は獣人に滅ぼされちまうんだ。だったら、俺は人間を守るために戦う。それだけだ!」


 そう結論付け、1人つぶやく彼。


「俺も不自由になったもんだ。人間1人のためにこんなに悩むなんてな」


 そう言いつつも、それが不思議と悪い気もしない彼であった。


……


 次の日、街の中心部でビーストウォリアーズの獣人、鷲獣人が暴れているという情報をキャッチしたゴウキは即座に異形のヒーロー「ブレイブレオ」に変身し、現場に向かった。


「そこまでだ、鷲野郎!」

「来たか半端者! 貴様が来るのを待っていたぞ!」

「待っていただと?」

「こうやって人間共をいたぶっておれば、奴らの守護者を気取る貴様をおびき出せるというわけだ! 獣人の血を持ちながら、人間に与する愚か者の貴様をな!!」

「なら最初から俺だけを狙えばいいだろ!! 関係ねぇ人間を巻き込むな!!!」

「どのみち人間も裏切り者の貴様も殺すのだ! 同じことだ」

「ふざけんな!! 勝手な理由で人間を傷つけやがって! これでもくらいやがれ、フレイムバレッツ!!」


 獣人の言い分を聞き頭に血が上った彼は、自身の周囲に無数の炎弾を作り出すと両腕を鷲獣人に向け一斉にそれら全てを放つ。


(ふっ、ここまでは計画通りか……)


 自身に向かってくる無数の炎弾に対し、鷲獣人は自身の周囲に無数の細長いクリスタルを展開した。


「そんなもの、マジョリティーガード!!」


 鷲獣人がそう叫ぶと、彼が自身の周囲に展開していた無数のクリスタルは組み合わさり、それらは鷲獣人を守る無数の盾となった。


ドガァーン!!


 鷲獣人のクリスタルの盾にブレイブレオの炎弾が炸裂し激しい爆発が起こった。爆発の煙が晴れると、そこには傷1つ無い鷲獣人の姿があった。


「相殺する。貴様の炎は私には効かん」

「そうかよ。だったら、直接ぶん殴ってやる!」


 そう言って、鷲獣人に突撃するブレイブレオ。


「愚かな。クリスタルアロー!!」


 接近戦に持ち込もうとするブレイブレオに対し、鷲獣人は自身のクリスタルを矢のように飛ばす。ヒーローに飛来する鋭利な無数のクリスタル。


「くっ!」


 ブレイブレオは自身の能力である円形のバリヤーを自身の周囲に展開し、それらを防ぐ。


「どうした? かかって来んのか? ブレイブレオの名が聞いて呆れるな、臆病者!」

「何だとこの野郎!!」


 困難から逃げないことを信条とするブレイブレオにとって、鷲獣人の言葉は最大級の侮辱であった。怒りのあまり、青筋を立て歯が砕けそうなほど歯ぎしりをするブレイブレオ。


「だったら、てめぇの望み通りにしてやるよ!!」


 怒りのあまり相手の挑発に容易くのってしまったブレイブレオはバリヤーを解除し、鷲獣人に再度突撃する。鷲獣人のクリスタルの矢が、ヒーローの肉体を切り裂いていく。


ザシュ、ザクッ!!


(痛ってぇ!! だが、傷だらけになろうが、そんなこと知ったことか! 俺は逃げねぇ!!」


 全身切り傷だらけになりながらも、鷲獣人との距離を縮めていくブレイブレオ。そして、遂に鷲獣人の目前にたどり着く。


「終わりだな、てめぇの負けだ!」


 拳を振り上げるヒーロー。


「それはどうかな! クリスタルシールド!」


 鷲獣人はクリスタルを結集させると、自身の前面に強固なシールドを作り出す。


ドゴッ!


 ブレイブレオの拳は無情にも、そのシールドに阻まれてしまう。


「ち、畜生!!」


 ガクリと片膝をつくブレイブレオ。鷲獣人はシールド越しに右手をブレイブレオに向けると、光のエネルギーを右手に凝縮した。


「単純馬鹿め、サンシャインビーム!!」


 そう言った鷲獣人はシールドの解除と同時に高熱のビームを傷だらけのヒーローに放った。


「ぐぁーーー!!!」


 叫びながら、遥か後方に吹き飛ばされるブレイブレオ。


「ハァ、ハァ、この、野郎!!」


 ふらつきながらも、なんとか立ち上がるブレイブレオ。


「とどめだ、ビッグクリスタルブロック!」

「ハァ、こんなもん!!」


 自身の拳で向かってくるその巨大なクリスタルの塊を砕き割るブレイブレオ。そのまま、鷲獣人に再度攻撃を加えようとしたその時だった。


「ライオンのおじさん!!」


 ブレイブレオが振り返ると、先ほど砕き割ったクリスタルの塊が無数の破片となり光を取り囲んでいた。そして、その破片は再度クリスタルの形となり光をその中に閉じ込めた。クリスタルの中に閉じ込められた光の隣に組織の科学者であるネズミ獣人が姿を現した。


「この子供は貰っていきますよ。組織の繁栄に役立ってもらいます」

「待て! そいつは関係ねぇだろ! 狙うなら、てめぇらを裏切った俺を狙えばいいじゃねぇか!!」

「この子供があなたと親しいという情報が以前の入れ替え作戦に参加していた戦闘員からもたらされましてね。この子供には利用価値がある。だから、頂いていきますよ」

「ライオンのおじさん、助けて!」


 クリスタルの中から、必死に助けを求める光。


「待ってろ、今助ける!」


 光を助けようと、近づこうとしたブレイブレオの背後から無数のクリスタルの矢が飛来する。


「ぐぁ!!」

「私を忘れてもらっては困るな」


 鷲獣人の攻撃にうつ伏せに倒れるブレイブレオ。


「くっ、この鷲野郎!」

「では、私はこの子供を連れて行きます。後は頼みましたよ、鷲獣人」

「ライオンのおじさーん!!」

「光ーー!!」


 うつ伏せに倒れた状態で、必死に光に手を伸ばすブレイブレオ。だが、その手が届くはずもなく、ネズミ獣人と光は突如空に現われた黒い裂け目に消えてしまう。


「無力なものだな、半端者! あのガキは貴様と関わったがために狙われたのだ!」


 厳しすぎる現実を突きつけられたブレイブレオは、静かに立ち上がり鷲獣人に向かい合うと彼の言葉に答える。


「ああ、そうさ。てめぇの言うとおりさ。俺なんかと関わっちまったせいで、あいつは狙われた。俺は結局、周りを不幸にするだけの疫病神かもしれねぇな」

「自分でもわかっているではないか、半端者。そうだ、貴様は所詮」

「だがな! こんな俺をあいつは応援してくれた! 疫病神かもしれねぇ俺を必要としてくれた! だから、あいつはこの命にかえても必ず助け出す!!」

「無理な話だ! 貴様はここで死ぬ! あのガキも助からん!」

「あいつは俺の存在意義そのもの!! だから、絶対に、あいつは助ける!!! うぉおおおおーー!!」

 

 ブレイブレオは叫び、残っている全ての炎の力を全身に纏わせる。強力な熱を帯びたブレイブレオは、跳躍するとまるで全身をドリルのように回転させ始める。


「ブレイブトルネード!!」


 ドリルのように全身を回転させブレイブレオは鷲獣人に向かっていく。


「させるか! クリスタルシールド!!」


 鷲獣人は再びクリスタルを結集させると、強固なシールドを作り出しヒーローの攻撃をガードする。しかし、強烈な熱を帯びたヒーローの全身を使った刺突は鷲獣人のシールドを徐々に溶かしそのまま鷲獣人を焼き尽くす。


「こ、この私が、半端者ごときにーー!」


 断末魔の叫びを上げた鷲獣人は光の粒となり、消滅した。敵を倒したボロボロのヒーローは、俯き、自責の念にかられていた。


「光、すまねぇ。本当にすまねぇ。俺のせいで……」


 自身の存在に対する暗い気持ちが強くなったことを感じ、俯いていたブレイブレオは必死に自らの心を奮い立たせる。そう、ここで意気消沈している場合ではないのだ。


「だが、だからこそ、お前は俺自身の手で必ず助け出す。必ず!!」


 固く誓ったブレイブレオは、その顔を上げて咆哮した。

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