第2話


 とうかさん祭り。


 他県の親戚をこの祭りに連れて来たとき、ここは21世紀の日本か? と笑われたことがある。確かに2000年を跨いで数年経つが変わらずこの三日は広島市の中心本通りを特攻服を着た暴走族の集団が、喧騒の中、それを取り囲むギャラリーと共に練り歩く。


 最近は、警察との緊張関係が激しくなったが、一般人すべてが警察を応援しているとは限らない。当然、お目当てはいるわけだが……。



 中村祐樹……17歳の年下の特攻隊長が私のお気に入りだ。


 ライバルは多い。大抵、キレた取り巻きがいる。




 その日ちょっとしたトラブルがあった。バイト仲間と一緒だった私は偶然、高校の同級生と会い、なんとなく一緒にテキヤを回っているうちに、その同級生が暴走族の取り巻きに絡まれてしまったのだ。




「おばはん、うっといんじゃ」


 赤い髪の少女が同級生を殴り、裏路地とはいえ周りは一時騒然となる。


 15歳くらいの少女の筋肉に圧倒され、私は動くことが出来ない。


 幸い、近くの居酒屋の店長が少女を取り押さえてくれたのだが、相手のグループを納めている最中、店長がどうやら向こうよりなのが雰囲気で分る。知り合いなのだ。


 口の中を切った同級生と私達に殴られた理由を説明するでもなく、この場は帰った方がいいと無言でせかされた。まあ、シンナーか薬をやっている奴にまともな理由を求めてもしょうがないが……。


 別れ際、少し嫌味を言われた。見ているだけだった私にやりきれない気持ちが向いたのだろう。いじめの一員ではなく比較的仲が良かっただけにちょっと悲しかった。





「祐樹君かっこよかったね」

 さっきまでの憂鬱が消える。松田恵は25歳でバイト仲間のお姉さん的存在。彼氏はホストで、彼女はバイトの他にラウンジでも働いている。通りを見下ろせるカフェで二人は時間を潰すことにした。


「告白とかせんの?」

 同世代の有名人に近づくことは難しい。しかも年下。モテ過ぎて、彼女が何人もいそうで想像すると怖い。下心丸出しの、その他大勢とは違う。


「あ、あれ、祐樹君と違う?」

 恵さんが指をさした。


 警察との小競り合いで解散したのが、再び商店街に集まって来るのが見える。


 私はガラス窓に額を押し付け、仲間と談笑している祐樹をうっとりと眺めた。


 数組の少女のグループが、それぞれお目当ての特攻服に声を上げる。








 約束の時間が迫ったので2人は慌てて店を出た。待ち合わせ相手の立花真央は、見た目遊んでそうな外見と裏腹に、時間に厳しい。中学を卒業して直ぐ働き出した彼女は、今年18歳になる。将来の夢はカメラマンで、その資金作りの為、仕事は決して休まない。 


 恵さんの休みに合わせ、自分はバイト終わり合流し、翌朝そのままバイトに行くつもりなのだから、二人とは気合いが違う。



「祐樹君かっこ良かったかい?」私のほっぺに自分のほっぺをくっ付け、


「もうーあんた祐樹、祐樹、うるさいねん」笑いながら私の胸をぎゅっと掴む。


「きゃっ」私は思わず、カラオケボックスのソファーに転がり込んだ。



「全部モニターに映ってるちゅーに。従業員にサービスしてどうするん」

 恵さんに軽くたしなめられたが、二人はなおもじゃれ合う。

 呆れ顔で、恵さんは二杯目のピーチフィズを頼んだ。




「今の人、ちょっとかっこよくない?」

 フィズを運んで来た店員を、恵さんが目で追う。


「彼氏がおるのに色目を使うなあ。そして貢ぐなああぁ」

 真央がジョッキを振り上げた。


 ホストの彼氏のことをひねくられた恵さんは、「うるさいわい」っと、少し酔って真央の頭をパンパン叩く。


 



 朝5時過ぎ、私は真央とコンビニの前で座り込んでいた。


 恵さんはもう限界だと先に帰り真央の出勤時間まで私が付き合うことにしたのだ。



 真央は昔アルバイトで嫌な目にあったとかで、コンビニでは無茶苦茶をする。


 駐車場の車止めに、殆どスープの残ったカップ麺をギリギリに置き、を半分頬張っては、残りをそれに投げつける動作を延々と続けていた。

 本人曰く、全部食べると太るからだそうで……。




 まあこんなのはまだほう。彼女が働いていた時にはゴミ箱に猫の死骸を入れられたこともあるらしい。反撃がこないと分かっていれば人は平気で何でも出来る。


 徐々に客も増えだし、下着丸出しで座っているのもきつくなってきた頃、ようやく真央が重い腰を上げた。 ……これから彼女は8時間の労働へ、私はベッドの中へ。




  1つ年下の金髪を、私は尊敬している。















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