第5話(番外編)夢見る頃を過ぎてもなお

実は、私こと由香里は女子会メンツに内緒にしている事があった。実は、最近真弓のクズ兄貴と偶然コンビニで再会したのだ。


クズ兄貴の健二は、私とは殆ど話した事もない癖に「よぉ、久しぶりだな」と、声をかけて来やがった。


健二が麻里子と交際していた頃、いつも私は麻里子が「健二君に会いにいくの、ついて来てくれる?」と私をお供にしてきたのだ。


真弓=健二の妹。最初は、誘っていたらしいが、激しく嫌がるから辞めた。


小春=小悪魔。美人。駄目、こんな女と一緒に行ったら彼氏が取られる!


美咲=将来は占い師になりたいと言う、危ない女。


いつも黒魔術や白魔術の研究ばかりしていて「これは修行だから」と昔から変な女だった。


初対面の人にも「あんたの肩に、死んだグレゴリー伯爵が血まみれで乗っかっているわ・・。」と、訳わからん事ばかり言うので。ある意味危険で、彼氏に会わせられない。



そんな訳で、消去法で私が選ばれたのだ。


健二君といっても、一個上の先輩。しかも、健二君のいる学年は無茶苦茶荒れており、クラスの付近に近づく事はもはやジャングルの冒険に等しい程、命懸けなのだ。


「てめぇ!何しにきたんだよォ!」と、スカートの丈がやたら長い先輩達がビニール傘持って屯している所を、


「す、すいません。」とビクビクしながらいつも小声で小走りしてた。


ああ。なんで、こんな事に付き合わされなきゃならないのさ。別に大して会いたくもないような男に会う為に・・。


私は、健二君のクラスについても健二君と話すことは特に無かった。麻里子が、ずっとひたすら目をハートにして話しているのをいつも眺めてた。


妹の真弓の家に遊びにいく事も特に無かったから、健二君と会うのはこの時だけだったのだが。


真弓の家は、複雑な事情を抱えた家らしく基本的に人を招く事は無かった。


健二君の彼女だった麻里子でさえ、足を入れた事は無い。健二君が、あんなコトやこんなコトをするのは。いつも、麻里子の部屋だったそうだ。


そんな健二君と、20年ぶりにまさかのファミリーマートで再会する。ファミリーマートで、雑誌の立ち読みしていたら、何処かで見た男が本のコーナーで同じように立ち読みしてた。


あら。やだ。私とした事が!うっかり、「週刊大衆」の「企業秘密!芸能人のイニシャルトーク特集」なんてゲスいモノを立ち読みしていたら・・・。まさか昔の知り合いに会うなんて・・・。


でも、向こうは私以上に見られたら不味そうな風俗情報誌を堂々と読んでた。全然恥ずかしがる事もなく、堂々としている姿は寧ろ清々しささえ覚える程だ。


健二君は、学生時代のヤンキー風なルックスが抜けて、インテリ系のナイスガイへと変貌を遂げていた。


ガッチリした体型に、スーツがとてもよく似合う。黒髪で短髪な姿が良く似合う、好青年になっていた。それにしても健二君のスーツ、パリッとした生地で凄く高価そう・・・。一体、健二君は今何をやっているのだろうか・・。


妹の真弓からは、健二君の話を殆ど聞かないから、私も何も知らないのだ。


「由香里ちゃん、久しぶりだね。すっかり綺麗になって!もしよかったら、折角だし。今からお茶しない?」


と、健二君が、まさか私を誘ってきたのだ。軽い。めちゃくちゃ軽いよこの男。まさか会ったら秒速、口説くタイプとか?昔から、手が早いとは聞いていた。


今はいくらインテリ系イケメンとはいえ、昔は生粋の暴走族で、覚醒剤とか余裕でしてて。刑務所入りも経験してる男・・。そして、妹の真弓を男友達に売った男・・。真弓の人生を、トラウマでメチャクチャにした生粋のワルだ。


それに暴走族時代に、この男。何人か、喧嘩で半殺しにもしてるのだ。絶対、ついてったら知らない国に売り飛ばされるとか。現地にいったら、知らない男が沢山いて犯されるとかじゃないの?


私、まだ、35歳バージンなんだけど!今まで、「大切な人が出来たら」って、大事にずっととってたんだけど!ねぇ!由香里、今人生初の大ピンチなんだけど!ガタガタ震えが止まらない。ああ。どうしよう・・・。


私、知らない国に売られるの?怪しい店に売られるの?健二君の男友達集団に、襲われるの?しかし、健二君はそんな私に「どうしたの?」と、心配そうに声をかけた。


大きくて綺麗な瞳に、思わず吸い込まれそうになったが、「だ、駄目!」と、理性で何とか持ちこたえた。


「わ、私!かっ、帰ります!」と、訳も分からず半泣きで逃げようとする私を、健二君は「待って!」と言って腕をしっかり掴んだ。


そして、「前からずっと。君と話したいと思っていたんだ・・。やっと、やっと話せるって・・」と、言いながら、私の目を至近距離でウルウルした瞳で真っ直ぐ見つめる健二君。あまりの美しい目力に、ノックアウトした私は、結局健二君とハラハラしながらご飯を食べに行く事になった。


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