第2話(番外編)カズとマサユキ

その日の晩、僕は、部屋で一人手帳を抱えて、声を出して泣いた。


人によっては、自分でも知らないうちに病気を抱えていたり、障害を持っている事実を知らないまま生涯を終える人もいるらしい。僕だって、もし自分に対して何も疑問を持たずにこのまま生きていれば、障害を抱えている事を知らずにこれから先も平和に生きて来れたはずだ。


ああ、何で病院の門を叩いてしまったのだろうか。本来なら知らなくても幸せに暮らせていたかもしれないのに。何で、わざわざ開かなくてもよく扉をこじ開けてしまったのだろうか。


こんな事、誰にも伝えたくない・・・。だけど、周囲の人に話さないと迷惑になる事だってあるかもしれない。病気に対して理解さえ持ってくれる人が周囲に少しでもいれば僕も心強いのかもしれない。僕は、唯一チーム内で信頼できたカズにだけその真実を伝える事にした。


もっと驚かれると思ったけど、カズは「ふぅん。そーなんだ。」とだけ言った。


「そんな事よりも、僕が今日の練習までに作った宿題ちゃんとやって来たの?


ターンの練習と、ステップの練習。前回練習した箇所が、今日の練習でちゃんと出来てるかどうか!さあ、練習はじめるよ!」と言って、手をパァンと叩いた。


その後も、彼は何事もなく僕にスパルタ指導を続けた。しかし、彼は本番の前日の最後の自主練で事故してしまった。


本来なら、祭りの前日には練習よりも体調管理を万全にすることが大切だ。怪我などしたら困るからだ。


つまり、普段なら練習しなくてもいいような人を本番前日まで練習に付き合わせるという事は、よっぽど僕が問題児だったということだ。


祭り前日にカズと僕のワンツーマンの練習

が行われたのだが、そこでカズは練習後に公園の階段を降りる所で足元を崩して転げ落ちてしまった。


僕は、必死に何度も「カズ!大丈夫か!車、車今から乗ってここまでくるから!病院つれてくから!」と、叫んだ。


死に物狂いで、車に向かって走ってカズを担いで車に押し込み、無我夢中で、夜道を迂回しながら病院を探し続けた。


そんな中、彼は後部座席で「あの時のお前の動きは、ここが足りないんだよなぁー。もっと、あそこをこーしてさぁー。」と、懲りずアドバイスし続けていた。


馬鹿野郎。こんな時まで、俺のアドバイスしてないで。自分の心配しろよ。


僕は、涙を瞳に押し込んで運転し続けた。


土砂降りの雨の中、他には客はいないかもしれないけれど。今日は、最高のお客様が一人いるよ。さぁ、みんな。最高の笑顔で、行くぞ!


カズは、傘をさしてニコニコ嬉しそうに僕らに手を振っていた。


僕らが踊り終わるまで。ずっと。


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