「採点の時間」(3)

「……すまんな」


「だから謝らないでください。そしてお腹が空いたのでご飯をください」


 欲望に忠実な奴だな……。

 この話の流れで飯を催促出来る奴はそうはいないぞ。


「出来ればパンが良いです」


「……おお」


 注文まで付けやがった。本当に自由な奴だ。

 まあ、でも。そのおかげで色々スッキリしたところもあるし、さっきのもこいつなりに話を変えようとしたのだろう。

 そんな気遣いに、俺は飯でもって応えようじゃないか。


「えーっと、何かあったかな」


 布団を跨いで台所へと移動する。

 一人暮らしの男だから、インスタントの類は色々あるものの、こういうのは米か麺ばかりだ。パンは無い。いや、あるかもしれないが、少なくともこの家には無い。最近バタバタしていて買い出しに行けてないし、そもそも、賞味期限の短いパンは普段から余り買わない。


 つまりパンは無い。


「ごめん、パンないや」


「ええ! パンが無い!? 何故ですか! 何でパンが無いんですか! パンが無いと元気が出ないじゃないですか! 一体何考えてるんですか!」


 鬼気迫る表情で地団太を踏むナナ。

 こっわ。中毒かよ。


「パンでも米でも何でもいいだろ……。カレーにするか? レトルトだけど」


「カレーパンならウェルカムですが、カレーライスはノーです! ノーノーです! 無いなら買いに行きましょう! パン!」


 圧が凄い。こんなパン好きキャラだっけ。やっぱりスペードの言う通りかもしれない。一週間やそこらで分かった気になるのは早かったな……。


「買いに行く、ねえ」


 正直、朝食にそこまで手を掛けたくない。俺個人としては用意がなければ、食べなくてもいいくらいである。そもそも、こんな時間に開いてるスーパーとかあるのか……あ。


「……コンビニ、行く?」


「行く!」


「……マジか」


 言わなきゃ良かったかもしれない。心の底から面倒くさい。

 ナナは狭い狭い家の中を、飛んで跳ねて喜んでいる。そんなに好きか、パン。というか埃が舞うからちょっとやめてほしい。だが楽しそうにしているナナを見るとそんなことも言えない。


「じゃあ、着替えるか……。ナナはそのままでいいのか」


「良いですよ。というか、これ滅茶苦茶動きやすいです。気に入りました」


 気に入っちゃったか。人間界的にはダサいと判断されがちなのだが。まあ、メイド服で出歩かれるよりは良いか。


 俺は寝室に戻り、布団を蹴り飛ばしながら着る物を探す。何枚か服が出てきたが、これって洗ったやつだっけ?


「あたしは顔洗ってきまーす」


 俺と入れ違いにナナが部屋を出ていく。妹と暮らしていた時期を思い出すな、これ。別に今更泣いたりもしないけど。

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