「ちょっと、嫉妬しちゃったな」(3)
「えっと……手品ですか?」
この数日で散々非常識な目に遭っているというのに、まだ自分の納得できる範囲で事を収めようとしている。全くもって救いようがない。
「面白くないなー、彰彦ちゃんは。綺麗ですねーとかそういうのは無いの?」
白雪先輩、改めスノーホワイトは俺を羽交い絞めにする。むう。背中に胸の感触が……。ってそうじゃない。
「白雪先輩も魔法少女だった……ってことなんですか?」
「うん。そうだよん。魔法使いにはならなかったけどね」
言いながら俺から離れて、向かいに座る。
相変わらず口調はふざけてはいるが、どこか弱々しい感じを受ける。しおらしいというか。無理もないか。故郷に帰れずに……?
「えっ?」
「ん? どうした」
「魔力は失ってないんですか?」
スペードの話と違うじゃないか。ついでに魔法少女って年でもない。そういえばナナって何歳なんだろう。
「ないよー。アタシめっちゃ強いもん。ジョーカーとかいうやつが来たけどさ、ぶっとばしてやった!」
あっはっは! と大声を出して笑う。そうしている分にはいつもの、俺の知っている白雪先輩なのだが……。まさか身近にも魔法少女がいたとは。
「ずーっとつまんないって思ってたのよ。だから試験で人間界に来てこっちの方が楽しそうじゃない? って思っちゃってさ。後は試験そっちのけで遊んでた。名前考えたりバイトしたり。何人かジョーカー以外にも追手が来たけど、全部ぶちのめしてたらもう来なくなっちゃった。だから魔法も久し振りに使ったのさ」
しおらしいとか思ったのを今すぐに訂正しようと思った。やっぱり俺の知っている通りの人柄というかキャラクターだった。
つかつかと姿見の前まで移動し、全身をくねらせる白雪先輩。
「うっへー、恥ずかしいなこりゃ。いい年して着るもんじゃないわ」
とか言いながら何か楽しそうである。白雪先輩いくつだっけか。大学三年ってことは……。あ、そうだ。ナナ。
「そういえばナナには言ったんですか?」
「いいや。言ってないよん。これからどうなるにしろ本人が決めることだしね。アタシみたいな前例がいるって知らない方がいいと思うし……ねえー、これ辞めていい? 本当に恥ずかしくなってきた……」
「ああ、どうぞ」
俺が言い終わる前に先ほどのポーズをとって何らかの魔法を使ったらしい。今度は逆に部屋が真っ暗になって、気が付けば先ほどまでのコンビニの制服姿に戻っていた。
「やっぱりこっちが落ち着くねー」
「戸籍とかどうしてるんですか? 大学とかバイトとか……」
「それはねー。何とかなるもんなのよ」
何とかなるのか。そんなあっさりと。
「ねえねえ、アタシからも聞いていい?」
「? どうぞ?」
俺から聞きだしたいことなんてあるのか? 俺の方はまだまだ聞きたいことがあるんだが。
「ただの人間にされるって言ったじゃない? アタシの時と同じっぽいんだけど、誰が来てるか魔法少女……ナナちゃんから聞いてる?」
「確かスペードとかいう」
「スペード!」
だんっと思いっきり音を立てて机を叩く。旧知の仲なのか?
「あいつ嫌い!」
「……ああ。白雪先輩は嫌いそうですもんね。ああいうの」
「大っ嫌い! あいつら一族揃って偉そうなんだもん。うわー、そうか……。ナナちゃんの味方したくなっちゃったけど……。アタシもあんまり目立ちたくないんだよなー」
そこまでか。ナナはそんなに悪く言ってたっけ? ……あ。
「すいません。ナナ探しに行くの忘れてたんで、これで!」
急いで立ち上がり返事を待たずにバックヤードを後にする。
コンビニを出てさあ、東西南北どこを探そうかと途方に暮れていたら白雪先輩からメッセージが来た。
『彰彦ちゃんが味方してやってよ! アタシの分もお願い!』
全く。どいつもこいつも。
携帯をポケットにねじ込んで、取り敢えず真っ直ぐ走り出した。
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