三十三之剣 「狂炎」

「実は、私、聖剣の在処を知ってるんです」


 カエナが、つぶらな瞳でソラを見つめながらソラに言います。輝かしい、純粋な目。なんだか、癒されますね。


「聖剣の場所を。でも、なんで、俺にわざわざそのことを伝えに来てくれたんだ」


 前に会った時は、聖剣の場所を伝えたくない雰囲気を醸し出していた。ですが、今回はカエナ自ら言い出してきました。どういった心の変遷があったのでしょう。


「聖剣のある場所はとても危険な場所なの。普通の人が行けば、戻ってはこれないようなところ。でも、魔族を倒すほどのあなたなら話してもいいと思ったの。それに......」


 カエナは、突然、神妙な面持ちになる。それを見て、ソラも、これから言う彼女の言葉を真剣に聞き始めます。


「私には、兄がいて、前に森にある聖剣を取りに出かけたことがあったの。だけど、それ以降、兄は戻ってこなくて。良かったら、兄を探してきてほしいの。危険なお願いだということは分かってる。村の人々も、誰一人として、兄のいる場所には近づこうともしないわ。だから、あなたにしか頼む人がいなくって」


 どうやら、カエナは、お兄さんを探してほしい模様。真剣な眼差しでお願いしてきます。これは、断るに断りづらい状況だ。


「そうか。お兄さんが行方不明なのか。お兄さんがいなくなってどれくらい経つんだ?」


「もう、一年ぐらい経つの。だから、もしかしたら、お兄さんはすでに」


「なら、早くお兄さんを探さないとな」


「えっ」


「行こうぜ。そのお兄さんの元へ。どうせ、俺もお兄さんのいるかもしれない場所に行かなきゃならねーしな」


「じゃあ、お兄さんを探してくれるの!!」


 カエナは、嬉しさのあまり、目を輝かせながらソラを見つめる。ソラは、少し頬赤らめ恥ずかしんでいます。やはり、最近、婆さんと男ぐらいしか話していなかったためでしょうか。


「ああ。今すぐにでも、行ける」


「さすがに、今すぐは無理かも。いろいろと準備したいから、明日でもいい?」


「かまわない。そちらの都合で、動いてくれ」


 ソラたちは、明日、出発する事を決めると、妖精の村まで歩く。

 二人が歩く森は、風が吹き抜け、音を立てながら不気味に揺れています。


 その頃、妖精の村で、まるで狂ったように一人でなにやらつぶやく少年がいた。この少年は、フードの男とともにしていた少年。名は、エトランゼ。


「ソラ、君に会うよ。あの人には、止められたけど、やっぱり、自分では、抑えられ......ない。あんな戦いを見せられて、見てるだけなんてことできる訳ないじゃないかあああ!!!」


 頭を、両手でつかみ、突然、叫び出します。


「だめだ。だめだよ。あの人のいうことを聞かないと......」


 叫んだと思うと、次は、弱々しい声でつぶやく。かなり、情緒が安定しないように見えます。近寄り難いですね。


「そんなこと分かってる。分かってる。抑えられないって言ってるだろ!!ああ!!」


 再び、叫び出すと、今度は自分の頭を壁に何度も叩きつける。


「1、ニ、3、四。よーし、落ち着いたか。僕」


 四回叩きつけたところで、動きを止め、エトランゼは、清々しい、不気味な笑顔を浮かべます。ですが、頭からは、壁に叩きつけたことで血が流れます。口の辺りまで流れた血を舌を伸ばしなめようとします。


「うっ、、あれ、、舌が届かないや。まあ、いいや」


「何をさっきから、大声で叫んでるんだ!!」


 エトランゼの叫び声を聞いて、一人の男性が様子を見に来たようです。なかなか、顔を真っ赤にして苛立っています。


「ねえ、君も叫んでみる?」


 エトランゼは、微笑みながら男に向かって言った。


「はっ?お前は、何を言って......」


 燃えろ。


 話している最中、男性の服が急に燃えだし、炎に包まれる。炎の中で、必死に男は、手足をしきりに動かし、叫んでいます。


「な、なんでいきなり、炎が熱い!!うああああ!!!」


 これじゃあ、まだまだ足りない。ソラ、君を迎えるには、もっと刺激的な演出が必要だと思うんだ。


 だからーー。


 街中に、たっぷり油を塗ってきた。この油は、特殊でね。魔力を含む火に触れると、瞬時に爆発するんだ。こんな風にね。


 炎に包まれた男が、壁に塗られた油に触れると、激しい轟音とともに、爆発する。そして、それをきっかけに、たちまち街中に爆発の連鎖が起こり、妖精や人々の叫び声に包まれる。

 エトランゼは、両手を広げ叫ぶ。


「さあ、派手で刺激的なショーの始まりだ!!」


 ドオオオオン!!!


 村のある方向から、凄まじい爆発音が聞こえ、ソラたちは慌てて、そちらを振り向く。


 一体、何が起こったんだ。村に。


 ソラは、空に伸びる黒煙を見ながら、急いで村へと向かいます。

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