二十九之剣 「恐怖」

 突然、銃声が響き、カゲツの頭部を弾丸が貫通する。カゲツは、エンゲツの手によって、息を引き取り、呆気なさすぎる終わりを迎えます。

 カゲツが動かなくなった後でも、妖精たちは、容赦なく、手を止めず、噛みついています。まるで、肉食獣が弱った草食獣に襲いかかり、貪っているかのよう。


 なんて、悲惨な終わりなんだ。魔族は、憎いけれど、こんな終わり方はあんまりだ......。


 ソラは、目の前の光景を見ながら、何ともいえない気持ちがこみ上げてくる。

 ソラがカゲツを眺めていると、カゲツの背中の辺りが動いていることに気づきます。


 もしかして、まだ、カゲツは生きているのか。


 いや。


 身体の内部で何かが蠢き背中を突き破ろうとしている。


 カゲツの背中には裂け目ができ、手のようなものがそこから出てきて、裂け目を広げようとしています。

 裂け目は見る見るうちに広がっていき、中から、血まみれの男の魔族が出てくる。全身は真っ白で、細身の魔族。心臓が、急に止まってしまいそうなほど不気味だ。

 カゲツを貪っていた妖精たちは、手を止め、細身の魔族の男にへばりつくと、どろどろに溶けて男と一体になる。どうやら、妖精たちは、この魔族の分身だったようです。


「何者だ!!」


 ソラは、魔族の男を見た瞬間、全身に戦慄が走る。目の前の人物は、剣を構え、戦闘体勢に入る。


「何をそんなに恐怖している?」


 誰だ、後ろから手が。


 ソラの右肩に後ろから、何者かが手を置く。ソラは、後ろを振り向こうとするが。

 後ろの人物は、ソラの顔の横に、顔を近づける。


 すでに、後ろに。


 なんと、知らぬ間に、カゲツの中から出てきた魔族の男がソラの後ろに回り込んでいた。ソラは、決して、警戒心を緩めてはいませんでした。ですが、ソラに動きを悟られず、後ろに回り込んだ。カゲツとは、比べものにならない実力者であることは間違いなさそうです。


「恐怖などしていない!!」


「いや、お前は、恐怖している。この私に。心臓の鼓動が荒々しい。語尾に力が入っている。身体は、わずかに硬直している。お前の体は、私に恐怖していることを教えてくれる」


「うるさい!!」


 “光”


 ソラは、危険を察知し、光の剣で後ろの魔族に向かって攻撃を加える。魔族は、回避する素振りがない。さすがに、ソラの速攻についてはいけないか。


 ポキッ。


 鈍い音とともに、一瞬で、ひびが入り、剣は折れていた。確実に、魔族の男に直撃していた。男は、剣に触る素振りもなかった。なのに、剣は折れた。男の身体に触れた瞬間。


「なんだと......」


「受け入れろ。私に対する恐怖を。己の弱さを。私は、お前より上だということを。自覚しろ」


「こんなのあるはずが、ない。こんなことが」


 ソラは、力を使い果たし、膝から崩れ落ちます。

 突然、現れた謎の敵。敵の未知の強さに圧倒されるソラ。ソラは、この窮地を抜け出すことはできるのでしょうか。

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