十一之剣 「邂逅」

 ソラは、エレムのもとを離れ、村を歩いていた。妖精の村とはいえ、妖精だけが住んでいるというわけではありません。ソラと同じ人間の姿もちらほら散見されます。

 これらの人々は、魔王たちの支配から逃れ、村に来ていた者がほとんど。幸い、妖精の森はまだ、魔王の手が及んでいないため、ここに訪れる人が多いようです。


 そういえば、俺には、武器がなかった。剣は、壊れてどこかにいってしまったし。ここにも、武器屋があればいいんだけどな。


「そこのあなた、お困りのようですね~。もしかすれば、私があなたのお役に立てるかもしれませんよ~」


 ふと、ソラが横を振り向くと、黒いフードをかぶった女性が座っている。その人物の前には、机があり、まん丸な水晶玉が置いてあります。まさに、占い師。


 胡散臭い。このまま、聞かなかったふりをして通り過ぎるか。


「あなた、もしかして、何かをお探しでは?例えば、敵と戦う武器とか」


「なんで分かったんだよ!!」


 やべー、一気に信憑性が出てきた。


 ソラの占い師に対する信用度が上がりました。ですが、占い師の女性がしたり顔でソラを見つめる。それを見て、やはり過ぎ去ろうか迷うソラ。


「私は、カエナ。この水晶玉を使えば、他人が望むものが分かるのですよ~。あなたが望むものの在りかを教えましょうか?」


「教えてくれるとありがたいけど......」


「なら、教えましょう。武器屋は、そこの道をまっすぐ行って、どんつきを左に曲がったところです」


「そうか。ついでに魔王ノ聖剣のある場所を知ってたりする?」


「魔王ノ聖剣!?やめなさい!!それを取りに行くのだけはだめよ!!」


 魔王ノ聖剣という言葉を聞いた瞬間、カエナは今までの様子とは打って変わって慌てた素振りを見せる。何か、剣について知っていそうな様子です。剣の場所を教えてくれるキーパーソンなのかもしれません。


「そう言われても、俺は取りに行かなくちゃいけない理由があるんだ。頼む、剣の場所を教えてくれ」


 ソラが、カエナに頼み込んだ時です。ソラの後ろから、声が聞こえてきました。


「ソラ、ソラなのか......」


 聞き覚えのある声。ソラは、後ろを振り向き、その人物を見ると目を大きく開ける。


「タナ......お前がどうして」


 ソラに声をかけてきたのは親友のタナです。ソラと同じイマリ村の剣士で、剣神と呼ばれたソラに強い憧れを持っていました。再び、こうして、妖精の森で彼に巡り会おうとは、ソラは思いもしなかったことでしょう。

 意外にも、タナの瞳には、底知れない怒りが垣間見える。拳をぎゅっと握りしめると、ソラの顔面めがけて殴りかかった。これは、不意打ちが過ぎるのではないでしょうか。

 タナの拳は、ソラの頬のあたりにねじ込まれ、ソラは思わぬ不意打ちに地面に倒れ込む。痛そうだ。ソラの殴られた頬は赤く腫れ上がっています。

 間髪入れずに、タナはソラの胸ぐらを掴み、苛立ちのこもった声で叫ぶ。


「ソラ、あなたは三年の間、何をしていた!!あなたが村からいなくなってから、村の人々がどうなっていると思う!!」


 タナ......。


「俺の妻子は、魔物たちにどこかに連れて行かれた。妻子だけじゃない。村のほとんどの人々も同じように連れて行かれた」


 ポワル、テラ、村のみんな。俺のせいでーー。


「お前、言ったよな。俺たちを守ってくれるって。あれははったりだったのかよ!!」


「それは......」


「返してくれ!!俺の妻子を。俺の大切な人を。頼む、頼むよ!!」


 タナは、瞳から涙を流しながら、ソラに訴えかけるように叫び続ける。ですが、ソラは、うまく言い返すことができません。


「あなたの幼なじみのポワルも、連れて行かれた。見てたよ。その瞬間を、助けて、助けてって何度も何度も誰かに向かって叫んでた。きっと、あなたに助けを求めていたんだ」


 ポワルも、やっぱり。俺が守れなかったから。


「魔物に連れて行かれた人々がどうなるか知っていますか。一生、奴隷のように働かされるか、魔物の餌として食べられるんだ!!」


「やめろ!!それ以上は、やめてくれ!!」


 ソラは、耳を両手でふさぐ。それを見て、タナは、ようやく言い過ぎてしまったことに気づき、落ち着いた声で話し始めます。


「すまない......。言い過ぎてしまった。だが、俺は、もうあなたを剣神とは認めない。あなたを越して、俺が魔王を倒す」


「タナ、お前は何を......」


「勝負しましょうよ。剣で。俺があなたよりも強いことを証明してみせますよ」

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