充実の探し方


「昨日言ってたことは本音?」


その質問を投げてきたのは、M市からK町に帰る二時間の道中だった。

あの後、お酒も進んで楽しく呑んでいたが…案の定神経質な一樹は気にしていたようで。



『どうだろうね』

質問の答えにはなってない。けど、今昨日と同じことを言ってしまってば喧嘩になることは目に見えてる。


「何が不満なわけ?家賃とか光熱費とか俺が払ってるじゃん」

『それはありがたいと思ってるの。何だろう…自分でも分かんない』


ごもっともだ。住む前に約束した通り…家賃は全額、光熱費も半分払ってくれてる。


けど貯金もしたい。カメレオにお金を遣いたい。そんな私にとっては光熱費の残り半分と食費を払うのだって厳しいんだ…。


貯金は残り140万。


この間貯金残高を見て、本当に驚いた。私ってこんなにお金が無かったっけ?って…


「たぶらかすなよ」


『いや…昼職って給料安いじゃん』

「それは当たり前だろ?夜の時と比べるなよ」

『分かってるけど、どうしてここまで色々我慢して、これしか給料もらえないんだろうって…そこまでして、K町で同棲する理由ってあるのかなって』

「んじゃどうしたいわけ?美咲は結婚する気がないのか?」


こっちがいくら冷静に話したところで、一樹は食ってかかってくる。

そうさせてるのは、紛れもなく自分なんだろう。


『結婚はしたいよ…けど結婚したら、ずっとK町に住まなきゃいけないじゃん

あたしはもっと遊びたいし色んな世界を見たいの。田舎で生きていきたくない

あんな所で終わりたくないの』


自分がどれほどの人間なんだよって思われるかもしれない。

けど、人生って一回しかないんだよ?それなら気が済むまで人生を楽しむべきだし、お洒落にお金を遣って女を磨いて、良くも悪くも色んな人間に出会うべきだと思う。


何より、自分が大きく働ける仕事をして良い収入をもらうべきでしょ。


「そんなんこと言ったって仕方ないだろ」

『そうだね…あたしが悪い』


野心に欠ける一樹にこんなことを話したって埒は明かないだろう。

お互いに意見がぶつかるだけだ。


「行きたいなら、好きなところに行けよ。俺はずっと待っててやるから」

『バカなの?今の状況でどうやって動けって言うのよ?一年に何回引越しさせるつもり?』


私の発言に一樹は口角を上げて、ふっと微笑んだ。


一樹は上手い…私が絶対離れないって分かっててそういうことを言うんだもの。


けど分かったの…私は一樹のことが好きだから、結婚したいと思ったから、自分がやりたいことも差し置いて一緒に居るんだってこと。


遊べない!遊べる場所もない!

キャバで働きたい!お金がない!

お洒落がしたい!美容に力を入れたい!

貯金がしたい!


今までは全部叶った。全部が満たされていた。

けど今じゃ、これは全部ワガママにしか過ぎない。


そうか…私の考え方がおかしかったんだ。


高飛車になったまま、生活をしていたんだ。


【これも自分で選んだ人生だ。今さらああだこうだ言っても仕方ない

それなら、もういっそのことプライドを捨ててしまえば良い。

お金がないなら、ないなりの充実を手に入れる努力をしなきゃいけない。】

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