第5話 使者との会談

「先輩、何だか、顔がむくんでませんか?」

 わたしを迎えに来たちまりがわたしの顔を見て言った。

「ああ、昨日変なエロい女に飲まされた」

 そう言うわたしをちまりが白い目で見ている。

「変な誤解をするな。お前が思っているようなことは無かった……。はずだ!」

 わたしは、昨日の夜のことを説明したが、ちまりはますます白い目でわたしを見る。

 信じていない目だ。まあ、無理もない。部屋に戻ったらエロい女がいて一緒に酒を飲んだなんて、信じろと言っても信じられるもんではない。無理に信じてもらおうとすると、ますます怪しくなるし、こいつに言い訳するのもばかばかしい。

「さあ、行くぞ」

 ちまりに見立ててもらったスーツを着込み、慣れないネクタイを締め、窮屈極まりない思いをしながら、わたしとちまりは指定されたホテルへとやって来た。謎の女が残して言った薬はよく効いて、二日酔いによる頭痛は消えていた。

 わたしが東京にやって来た時に泊まる安さを売りにしているホテルとはわけが違う。世界のVIPも利用する、超高級ホテルである。約束の時間は午後2時だったが我々は15分前に着いた。

 一階ロビーに、文化庁の真田がいた。わたしたちを見つけると、にこにこしながら近付いてきて、挨拶をした。

「ああ、お二人とも。こんにちは」

 わたしたちも挨拶をすると、

「すみません。約束の時間前なんですけど、先方がすでにいらしていまして……」

 げ。わたしは、この時緊張していた。だが気持ちを落ち着ける時間もないのか。

 真田に連れられて、わたしたちはホテル三階のカンファレンスルームへ。

 真田がドアを開けてわたしたちを中へと促す。すると、昨日と同様ぴっちりした髪型の石田が、

「お二人とも、どうも。さあ、こちらへ」

 と、わたしたちをデューワ王国の使者と思われる三人の前へと連れてくると、

霞ヶ城かすみがしろさん、山寺さん。こちらがデューワ王国からお越しになった方々です」

 と言った。わたしはぺこりと頭を下げる。

「オオ!わざわざお越し下さリ、恐悦至極でござりまするゾ!」

 いきなり耳に突き刺さった大きな声。びくっとなったわたしの目の前にスーツ姿のやたらでかい人物が立っていた。

「あ。見たことある人」

 わたしは、つい口に出してしまった。そう。目の前の大男は今まで何度もニュースや新聞で目にしていた、デューワの大臣だった。

「改めてご紹介致します、霞ヶ城さん。こちらがデューワ王国の外交を担当していらっしゃる、ジガント・ジーゴ大臣です。そして、そのお隣がジーゴ大臣を補佐する、オルシオ・パードさん。そしてそのお隣の女性が、ティオリーナ王女殿下の侍女、アルア・アルラインさんです」

 石田は、わたしたちにデューワ王国の使者達を紹介すると、今度は使者たちにわたしたちを紹介した。

「どうも、こんにちは。霞ヶ城雪鷹ゆきたかです……」

 と、わたしが挨拶し頭を下げるとわたしの手を、ジガント・ジーゴ大臣閣下のでかい手が鷲摑みにした。向こうはただの挨拶の握手のつもりなのだろうが、力が殊の外強く、わたしは慌てた。

「お初にお目にかかル!わざわざお越し下さリ、大変うれしく思いますルゾ!」

「いっだぁ……、あ、ど、どうも、こちらこそ、お目にかかれて、光栄です……」

 あまりに力強い握手が終わると、わたしたちはテーブルに着いた。テーブルに着くと、ジーゴ大臣はわたしに名刺を差し出した。異世界の住人も名刺を持っているのかと感心すると、

「こっちで作ってもらったのでござるン」

 と、大臣は上機嫌だった。どうやら、名刺を渡すのが嬉しくて仕方ないらしい。わたしは改めて三人の異世界の住人を見る。

 ジガント・ジーゴ。三年八か月前のファーストコンタクトの時、山形の住人と一番最初にやり取りした使節団の団長だった人物だ。王女さまの治療のために、日本政府と交渉をしたのもこの人物で、王女がデューワへと帰った後も、日本に残って大使館のような物を作り、引き続き日本と様々な交渉をしている。

 報道で何度も目にしているが、やはりでかい。身長はゆうに2mはある。体付きもがっしりしていて、昔話の中に出てくる鬼がスーツを着ているかのようだ。立派な口髭を生やし、黙っていれば確実に子供が泣いてしまうほどの怖い顔をしているのだが、にこにこ笑い、それが全身からにじみ出てくる威圧感を幾分か和らげていた。

 その隣のオルシノはやはりスーツ姿で、わたしより少し年上だろうか。中肉中背のいたって普通の男で、スーツを着ていると、異世界の住人だとは全く気付かない。

 その隣。アルア・アルラインは、正統派の美人である。長い髪を後ろで束ね、スーツにタイトなスカート姿。背は160cmちょっとあるだろうか。スタイル抜群で、成程、昨日石田が美人だと強調しただけのことはある。昨日のエロい女とは違うタイプの清楚な美人だ。

 はっきり言おう。好みのタイプだ。

 わたしは、姉一人、妹一人のそしてわたしの三人姉弟の真ん中で育った。

 三つ上の姉は、わたしの事を大変可愛がってくれた。

 さらに、近所に住むお姉さんや学校の先輩。どういうわけか、優しいお姉さんタイプの女性によくしてもらうことが多かった。

 今でこそ、いつもぼーっとして、相手にふ抜けた感じの印象を与えるわたしだが、少年時代のわたしは自分で言うのもなんだが、素晴らしく可愛かった。とにかく可愛かった。さらに、ちょっと頼りない感じが、お姉さんたちの母性本能をくすぐったのか、とにかくお姉さんタイプにはよくモテたのだ。

 故に断言しよう。

 わたしは優しいお姉さんタイプの女性が好きだ。

 目の前にいるアルア・アルラインはわたしと同年代だろうか。端正な顔立ちのせいで、年齢よりも少し上に見られるタイプかも知れない。だとすると少し年下か。それでもわたし好みのお姉さんタイプの女性に違いない。できれば、好印象を持たれるようにしたいものである。

 ふと隣りを見れば、ちまりが、何見とれてるんですか、ぶっ飛ばしますよ、という感じの目でわたしを見ているが無視しよう。

 ちまりから視線を戻すと、ジーゴがこちらをじっと見ていた。自国の姫君が招かんとしている男を、品定めをしているかのようだった。

「あの……、テレビ等で何度も拝見しましたがやはり大きいですね」

 わたしはその視線に耐え切れず、無理をして言葉を発した。すると、ジーゴがにかっと笑う。

「オオ、そうでござルかナ?拙者、一族の中ではまだ小さい方でござルが、やはりこちらの方たちと比べると、大きゅうござルカナ!?はっはっは!!」

「いちぞく?ござる?」

「おお?わたくし、日本の時代劇で日本語を学びましてナ!少々日本語が古臭いと言われますル。申し訳なイ!一族というのは、拙者、デューワ王国の北の山奥に住む、オーガニの一族の出でござって。日本でいうところの……、オニ?鬼のような感ジ。そう思っていただけると分かりやすイ!」

「おに?はあ……。でもまさか、角なんて、ないですよねえ」

 ちまりも、うふふと微笑んでいる。するとジーゴが頭を下げて髪をかき上げ、生え際を見せた。見れば、額の上に二つ円形脱毛症のように毛が生えていない部分がある。

「拙者、切っておるんですワ、ツノ」

「は!?」

「シカと一緒。また生えてクルのですワ。こちらの方を驚かせてはイケナイと存じテ、切っておるのでゴザル」

 マジか。

 鬼の角って、シカと同じ?牛じゃなかったの?いやいや、目の前にいるのはあくまで異世界からやって来た『オーガニ族』という種族の人であって、我々が知っている、桃太郎などの昔話に出てくる『鬼』ではない。鬼ではないが……。

 わたしがびっくりしたり、考えたりしていると、オルシノがジーゴに耳打ちした。ジーゴは、ハッとして、

「おお、そうダ。さっそく要件を片付けてしまおウ。霞ヶ城殿、これが姫さまからの書状でござル。どうかお受け取りヲ」

 と言うと、オルシノから渡された立派な木箱を開ける。そして中から封筒を取り出すと、

「これが、我がデューワ王国王女、ティオリーナ姫から託された、貴殿への招待状でござル。どうぞ、お受け取りを」

 と、わたしに向かって両手で恭しく丁寧に書状を差し出した。

 オルシノとアルアお姉さんも、すっと姿勢を正す。

「あ、ど、どうも」

 わたしも雰囲気に飲まれ、がちがちになりながら、卒業証書を受け取る学生のように姿勢を正して書状を受け取った。

 封筒にはしっかりと封蝋してあり、そこには印璽いんじが押されている。

 これを見ただけで、この書状が畏きお方よりの物だとびしびしと伝わってくる。

 さて、受け取ったはいいが、どうしたものか。この、見た目以上に重く感じる書簡をここで開けてよいものか……、と、考えあぐね迷っていると、ジーゴはにこにこ笑いながら、

「それはでござるナ、形式上お渡しする、かたっ苦しい方の招待状でござってナ。王家の威厳を示すために、わざと堅苦しく書いてござル。祐筆が書いたモノをこちらで翻訳したものでござって、そっちは適当に後で読んで下さレ!」

 と、あっさり言った。

「はい?」

 適当でいいの?わたしとちまりがぽかんとしていると、アルアが箱を手に一歩前に出た。箱を開け、中から薄いピンク色の封筒を取り出し、わたしの前に差し出した。

「こちらは、ティオリーナ姫さまが、霞ヶ城さま宛にご自身で日本語で書かれたお手紙でございます。どうぞ、お受け取り下さいませ」

「お姫さまご自身で?」

「はい」

 わたしは再び卒業生となり、両手で手紙を受け取る。

 封筒を見る。女子高生が使うような可愛らしい封筒である。おそらくこの封筒は、日本で求められた物ではないだろうか。表には、『霞ヶ城雪鷹様』と、漢字で書かれている。

「あの、これはここで読んでも良いものですか?」

 わたしが訊くとアルアが頷き、オルシノがすっとペーパーナイフを差し出してきた。わたしはそれを受け取り椅子に座る。そして緊張しながら手紙をペーパーナイフで開封した。その様子を、皆がじっと見ている。こんなに緊張して手紙を読むのは初めてだ。初めてファンレターをもらった時も、ありがたいとは思ったが、こんなに緊張はしなかった。

「……。」

 手紙は便箋十枚にも及び、女性らしい丁寧な字で書かれていた。漢字はやはり苦手なのか少な目で、拙さもある文章だったが、心を込めて書かれたという事がひしひしと伝わる手紙だった。

 時間をかけて、ゆっくりと全ての文章に目を通した。 

 手紙の内容の全てを書き記すことは控えさせてもらうが、手紙には、わたしの作品に出会えたことで、淋しく辛い闘病生活に明るい希望が持てたと、感謝の言葉に加え、作品に対する恥ずかしくなるくらいのお褒めの言葉が書いてあり、是非、直接お礼を述べたいので王国に来てほしいと書かれていた。そして最後にこう締めくくられていた。


「あなたのかいたものがたりが、とてもだいすきです。『白き姫君と剣の少年』にであえたことに、心からかんしゃします」


 わたしは、便箋を封筒に戻すと、ふうっと大きく息を吐き、天井をぼけーっと見上げた。

 そうか。そんなにわたしの作品を、好きだと言ってくれるのか。

 病と闘う女の子に、勇気や希望や幸せを与えることができたか。ならば、流れに乗っただけだとはいえ、わたしのやってきたことは、間違いではなかったということなのだろう。

「先輩?」

 ちまりがわたしの見て声をかける。

「うん」

 わたしは、頭をぽりぽりとかいてから、

「何か、すごく褒めてくれてる」

 と、恥ずかしさをできるだけ隠しながら言った。

「そうですか」

「アニメの関係者にも、伝えないとね」

 ちまりが頷いた。そう。わたしの作品と、お姫さまを結びつけたのはアニメであり、アニメに関わった全ての人たちが素晴らしい仕事をしてくれたからこそ、お姫さまを引き付け、勇気づけることができたのだ。わたしだけの手柄ではない。

「これはあれだ」

「はい?」

「行かないとダメだな。異世界……。面倒くさがっちゃダメだわ。ありがたくお招きにあずかろう」

 そうだ。わたしの作品に関わってくれた全ての人のためにも、皆を代表してお姫さまに会おう。そしてわたしたちの作品を好きだと言ってくれることへの感謝を述べてこよう。

 わたしが、異世界へ行くと決めた瞬間だった。

 ちまりがまた、今度は大きく頷いた。

 すると、ジーゴが歯を見せて、にかっと笑い、

「おお、霞ヶ城殿、我が国に来てくだされルカ!いやいや、良かったでゴザル!石田殿の話では、霞ヶ城殿は我が国への来訪に気乗りがしない様子と聞いていたノデ、気を揉んでいたのでゴザルが、いや、良かっタ!」

 と、嬉しそうに言った。わたしがギクッとして身をすくめるのを見て、ジーゴはまたにかっと笑う。

「我が国は良いところですぞ。日本のように文明が進んでいるとはいえませんがノ。しかし、自然に恵まれタ、とても心休まる国にござル。それに……」

 そう言った後、ジーゴが、身を乗り出しわたしに耳打ちをする。

「見目麗しい女子ガ、多うござるゾ。ほれ、これモンのぼいーんデ。普通のいわゆる人間だけでなくエルフの娘、獣人の一族の娘たち。たとえば猫耳娘。人狼などの娘たちも美人が多いことで有名でござル。日本のアニメや漫画に出てくるような、娘たちがアチラコチラに……」

 おお?この人、何だか話が分かる感じ?昨日オタクだと言っていた真田も、ちょっと鼻をひくひくさせている。

「マジで?」

 わたしが鼻をふんふんさせると、ジーゴはさらにたたみかける。

「姫さまも、かなりてますゾ」

「……、マジで?」

 オルシノもうんうん頷く。

「ジ、ジーゴさま……!」

 アルアがジーゴをたしなめる。ジーゴは悪びれた様子もなく続ける。

「はっはっは。とにかく霞ヶ城殿、お越しくだされば、我が国は最高のオモテナシをいたしますゾ。なにせ、姫様がお招きする初めてのお客人!晩餐会を開き、国民にも、王家が大事なお客人を招いたことを大々的に知らせ……!」

「それ!」

 わたしは思わず声を上げた。

「どれ?」

 デューワ勢が首を傾げた。

「その『』というやつが。堅苦しいのが、苦手で……。何分庶民の出ですから……」

 わたしが恐縮しながら言うと、ジーゴが考える。

「フム。本来なら国賓級の『オ・モ・テ・ナ・シ』をしたいところではござるガ……。では、こうしようではありませんカ。貴方は日本の政府要人というわけではないのですから、堅苦しいのは抜きにして、城におられる姫様と、軽くお茶など飲みながら、楽しくおしゃべりをすル。姫さまも、それを望んでおられるでしょうし。アルア。良いな?霞ヶ城殿は、姫様個人がお招きするお客人。できるだけ庶民感覚を大事ニ。それでいかがかナ?」

 アルアが頷き、

「はい。かしこまりました。それがよろしいかと存じます」

 と言い、オルシノも頷く。

「そんな感じでお願いできますか?」

 わたしが少し安心して言う。

「では、我が国にお越し下さるカ?」

「はい」

「決まった!感謝しますぞ、霞ヶ城殿!」

 ジーゴがポンと手を打ち鳴らして嬉しそうに言う。石田や真田も、少し安心したような様子だった。

「ところで、あの……」

 わたしは、おそるおそる口を開く。

「何でゴザル?」

「できれば、この機会に、デューワ王国を色々見て回りたいのですが……」

「ほお?そんなことですか。どうぞ、お好きなだけ滞在し、見て回られるがよろしかロウ」

「できれば、王都だけでなく、地方の小さな村とか……」

 わたしが希望を述べるとジーゴが不思議そうな顔をする。

「むう?そんなところを見て回っても面白くないと存ずるガ?それでもよろしいカ?」

 わたしは、それでいいと頷く。

「今回は難しいかも知れませんが、ジーゴさんの生まれ故郷なども見てみたいと……」

「かまいませんゾ。ですが、王都からは遠うゴザルな。馬に乗っても二十日はかかるか……」

「そんなにかかりますか」

「まあ、我が生まれ故郷は、次の機会にお越し下さレ。今回は王都と、その周辺を見て回ってはいかがカ。案内役もつけましょうゾ」

「ありがたいです。ぜひお願いします。できれば、その、今回お招きいただいたことや、デューワを見て回って体験した事を、本にまとめられればなあ、と考えておりまして。デューワ王国の事を広くこちらの世界の人たちに知らせる良い機会になったら、うれしいなあ、とか、思っていたりして、ですね……。いや、まだぼんやりと考えているだけなのですが……」

 わたしは、ここで初めて自分の考えを述べた。

 そう。

 見たい。

 こうなったら見てみたい。

 異世界という、わたしたちの住む世界とは異なる世界。

 まだ、分からないことが多すぎる世界。その世界を自分の目や耳で見て聞いて、そして感じたことを、わたしたちの世界の人たちに伝える。

 お姫さまが、わたしを招きたいと言っている、そう聞かされてすぐに思い付いたことではあったが、まだ誰にも言っていなかった。

 ちまりも当然初めて聞いて、驚いた様子だった。

「先輩……」

「それは素晴らしイ!良きお考えと存ずル!!姫さまも、さぞお喜びになることでありましょうゾ!!どうだ、お前たち」

「はい。わたくしも良きお考えかと」

 ジーゴが大きく頷いて賛同し、オルシノとアルアもわたしの考えに賛同した。

 石田、真田もほほう、と声を漏らす。

「石田さん、いいんじゃないですか?霞ヶ城さんが本を書いて出版したら、文化交流という点からも大きな意味を持つと思いますが」

「はい。いいですね。これは我々も協力させていただかないと」

 石田と真田が、何やら話を始めた。

「これは、色々な方面に話を通した方が良いかも知れませんねえ」

「ええ、ええ。そうです」

「は?」

 わたしが、官僚コンビに向かって、不安そうな顔をする。

「あの、ぼく、何かまずいこと言いました?色々見て回るのはNG?」

「いえいえ、そんなことはありません。ただ、たーっだ、邦人に『万が一の事』があっては一大事ということでして」

 万が一?あれ?思っているより、あっちって、やばいの?

「分かりますゾ!こちらとしても姫様のお招きした大事な御方に何かあっては一大事。確かに色々準備せねバ!オルシノ」

 ジーゴがまた、うんうん頷き、そしてオルシノに言う。

「はい、ジーゴ様。分かっております、護衛ですね」

「うむ!然るべき者を選んで、霞ヶ城殿にお付けするのダ!」

「はい、かしこまりました」

 あれ?護衛?

「いや、あの、ぼくはそんなに危ない所に行くつもりはなくてですね……」

「いやいや、万が一でゴザル!」

「そう、万が一です、霞ヶ城さん。我々もできる限りの事は致します」

「我々も、協力をお約束いたしますゾ、霞ヶ城殿。何なりとおっしゃってくださレ!」

 異世界勢と、官僚コンビが何やらわたしを放ったらかしにして、盛り上がっている。

 あれ?ちょっとした思い付きのつもりだったんだけど、何やら変な流れができつつあるのをわたしは感じていた。

 今までわたしは、誰かが作ってくれた流れに乗っかっているだけだった。

 しかし、もしかしてわたしは自分で新しい流れを起こしてしまったのか?

 しかも、何だか大事になりそうな気配。

 あれー?もしかして、もしかすると、やらかしてしまったんじゃないか?

 わたしは早くも、自分の思い付きと発言を後悔しつつあった。


 使者との会談が終わり、帰ろうとして、わたしは「あっ、そうだ」と声を上げ、慌ててアルアを呼び止めた。

「どうかしましたか?」

「あの、昨日、ぼくのホテルにデューワのから女の人が突然訪ねて来まして……」

「はあ。誰でしょうか」

「名前を聞くのを忘れてしまいまして……。ですが、ああいうのはちょっと……」

 アルアが、首を傾げながら言う。

「ああいうの?」

 わたしは、昨日の夜の変な女のことについて話した。ただし、変に思われては何なので、一緒に飲んで酔っ払ったことは省いた。

「ぼくは、お姫さまに近しい人だと思うのですが、心当たりは?」

「……。一人、心当たりはあると言えばありますが……」

 アルアはそう言うと、少し考えた後に、首を横に振る。

「いえ。きっと違いますね。あの方がわざわざ霞ヶ城さまの部屋を訪ねるなんてことがあるわけがありませんもの」

「誰です?」

「いえ。こちらの話でございます。お忘れください。それにしても誰でしょう。姫さまがお客さまとして迎えようとしている大事な方に、先に接触するなんて……」

 結局、アルアに尋ねても、デューワから来たと言っていた、エロい女の正体は分からなかった。

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