デューワ王国見聞録 ~ラノベ作家異世界を行く~

こやつともとも

第1話 プロローグ

 大きな湖のすぐそばに通された北に向かう街道。その脇に広がる平原を日本の自衛隊の高機動車が猛スピードで走る。走る走る、突っ走る。舗装などされていない地面の凹凸に合わせて車体が跳ね、我々の身体も上下左右に大きく弾むように揺らされる。必死に掴まっていなければ、車外に体を放り出されそうだ。

高機動車の屋根は大きく破壊され、ふと顔を上げれば広い空。白い雲、そして爽やかな陽の光。

しかし、空を悠長に眺める余裕はない。

我々は、追われているのだ。

敵はすぐ真後ろを高機動車に負けないスピードで追ってくる。

「きゃあああああああっ‼いやああああああああっ……!」

 わたしの後輩にあたる小柄な女は慌てふためき、青ざめた顔で悲鳴を上げる。窓から身を乗り出し、89式小銃で応戦する友人の自衛官が、

「くっそ!やっぱあんま効いてねえっ……!」

と、イラつきながら叫ぶ。

「く!」

 ハンドルを握る女性自衛官は、必死に前だけを見て逃げ場を探す。彼女が運転を少しでも誤れば車は横転し、我々の命運はそこで尽きる。

 我が妹は果敢にもビデオカメラを構え、追ってくる巨大な敵を撮影し続ける。その足元では、身体を丸め縮こまりながら震える少女。そして、少年魔法使いは顔面蒼白になりながらも背後から迫る脅威を前に、何とかしようと考えを巡らせている様子だった。

 

 グガオオオオオオオオオオオッ……!


 敵が、ドラゴンと呼ばれる巨大生物が、怒り狂い、身の毛もよだつ恐ろしい声で吠えた。

 後輩はまた悲鳴を上げ、少女はますます身を縮こまらせて怯える。

 そう。我々はドラゴンに追われているのだ。

 巨大な口に並ぶ歯はどんな固い物でも食いちぎれそうなほど大きく鋭い。赤い口内の奥から発せられる、聞くだけで寿命がすり減ってしまいそうな、全てを震え上がらせる大きな声。どんな獰猛な獣の声にも勝る恐ろしい声が、すぐ真後ろから我々の鼓膜へと突き刺さる。

 わたしは、この危機的状況に何故陥ってしまったのか考えを巡らせていた。

 罰が当たったのだろうか。だとすれば何に対しての罰か。

 仕事をさぼって、きれいな女性がいるお店で鼻の下を伸ばしていたからだろうか。

 それとも、姉に止められていたにもかかわらず、可愛い姪っ子におもちゃを買い与えまくり、甘やかしまくった罰だろうか。

 それとも、妹から借りたゲームをぶっ壊してしまったが、黙っている罰か。

 いや、いや、SNSでやり取りしていた女の子からの連絡が、ぷっつり絶えてしまったことにむかついて、今、震えている後輩に、八つ当たりしたことが、いけなかったか。

 いや、待てよ。こいつが何かやらかして神さまを怒らせ、わたしたちが巻き込まれているのか?

何にせよ、これはまずい。大変まずい。ああ、あの大きな口に噛みつかれたら、痛いだろうなあ。何とか神さまにお許しをいただかなくては。罰を下されるにしても、これはあまりに御無体な。

何が神さまの逆鱗に触れたのかは分からないが、どうやら相当お怒りのご様子。今までに無いほどの、きつい試練をわたしたちに下されている。て、いうか試練は乗り越えることができるものにしてほしい。これは我々がクリアするにはレベルが高すぎる。

 わたしは、そんな神の怒りを具現化したような恐ろしいドラゴンをもう一度見て、ふうっとため息を付いたのち、――非常に場違いな、緊張感のかけらすらない、とてもゆるい口調で言葉を漏らした。

「ははぁん……。こりゃあ駄目だな。どうやらぼくはここで死ぬらしい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る