私、突撃します!

私とハリーはカーペット敷きの廊下を併走している。

つり目気味のメイドはぎょっとした顔をしたけれど、すぐに反対方向に駆け出した。


食事室から逃げるように出ていったのだ。


嫌な予感がする――


「フニャァァァ――ッ!」


食事室の前で爪を立ててハリーが叫ぶ。

急ブレーキをかけた彼の体に足を突っぱねて私は方向転換。

私は室内に向かって羽ばたいた。


薄暗い廊下と対照的に煌びやかなシャンデリアの照明が眩しい室内。

奥に向かって長いテーブルには、金色に輝く蝋燭ろうそく立て。

それに照明が反射して一瞬視界が真っ白になった。


テーブルに座っていたジミーと旦那様は私を見上げていた。

青いドレスを着た奥様は、驚いてイスから転げ落ちそうになっている。

それをメイドが二人がかりで支えていた。


私は高い天井の部屋をぐるりと旋回する。


ビリーのそばには大きなスプーンを持ったメイド。

彼女はスープ皿に取り分けているところだった。


「ギルチョッパーぁぁぁ――!?」


スプーンとフォークを両手に握ったビリーが立ち上がった。


「ピッピピィィ(そのスープを飲んじゃだめ)――!」


私はビリーのスープ皿に飛び込んだ。

皿はガチャンと音を立ててひっくり返った。

私の体に飛び散った汁を翼を広げて振り落とす。


「どうしたギルチョッパー!? 大丈夫かい?」


ジミーがのぞき込む。

大丈夫、私まだ飛べるわ!


私は羽ばたき、奥様のスープ皿を床に落とす。


「きゃあー!」


奥様の悲鳴が聞こえる。

私を捕まえようとメイドたちが手を伸ばす。


「だめ! ギルチョッパーに乱暴しないで!」


ジミーの声。

私はすぐに飛び立つ。

次は旦那様のスープ皿!


メイドの手が私の右羽をかすめ、羽毛が飛び散る。

大丈夫、私は飛べる!


旦那様のスープ皿からは湯気が立っている。


「ピッピィー(もう飲んでしまったの)?」


スープ皿の近くにスプーンが置かれている。

まだ飲んでいないみたい。

間に合った!


スープ皿に突進する。


でも――


その寸前に人間の大きな手が私の前に現れた。

私の体は強く握られた。


苦しい。


私は息を思いっきり吸い込み、叫ぶ――


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