第3話 異能バトルの登場人物ほぼ例外なく、身体能力高すぎる件。


 バスケットコートを実に4面分も備えた広大な体育館。そこでは、少年と少女とが互いに【ギフト】を用いての模擬戦闘を行なっていた。


「『青の支配域エア・スタイル』!」

「『ポムポムバリアー』」


気の抜けた声が、空気の弾ーー不可視の弾丸を薄い、翡翠色の膜で受け止める。ドムッ、ドムッドムッ!と、連続で射出される弾はそれだけで、青アザでは済まない程の威力を誇る。


「お返し」


 しかし、やはり気の抜けた声でそう言って、まるで日常の一コマのように、本来ならば受け止められるはずのないそれを、極限まで伸びた膜をーー弾いた・・・

 ギュン!勢いよく弾いたーーと言うよりゴムを離す感じで押し出される不可視の弾丸。術者の意に反した、四方八方から迫り来る目に見えぬ脅威はしかし、場を支配する少女のみが、簡単に制圧出来る。ーー筈だった。


「おぉ?ーーおっ!」


 四方八方から襲い来る不可視の弾丸ーーそれまではいい。しかし、不規則な動きでやって来る・・・・・これは何だ?

 あくまで打ち出したのは空気の弾。弾かれはするし、先程同様に反射………される筈ないのだが、まあ、される時もあるだろう。うん。だが、言って仕舞えば唯の空気の塊が何故、バウンドなどするのか・・・・・・・・・・


「ポムポムのマル秘生命体その3」

「ーーーーッ」

「保護色」


 伸びた灰色の髪から覗く、群青に光る双眸。声に覇気は灯らずとも、その瞳に映るは明確な“相手”ーー故に、その“相手”とやらは、燃え上がる。

 自らが打ち出した風の弾を変質させ、改めて支配下に置き、アクロバットな動きで、顎と腹とをつけ狙う不可視のスライムを冷静に対処する。その動き、一つ一つが洗練されており、当たり前だが唯の少女とは程遠かった。


「いいねぇ!いいねぇ!一詞君!やはりそれだから君は面白い!」

「俺としては何故に早退届けを受理するのが貴女なのか小一時間ほど問い質したいのですが、ね!」

「それは私が区長だからさ!」

「じゃあ直ぐに帰してくださいよ!生き別れた妹が昨日倒れてて、拾ってなんか起きたみたいなんで!」

「時間系列が滅茶苦茶過ぎて君が何を言っているのか微塵も理解出来ない」

「なら貴女を倒して無理矢理にでも突破してやらぁ!」

「望むところーーーー」



「『赤の支配域ブラッド・スタイル』!」

「ポムポムバズーカ(それなりにちゃんとした版)!」



 声に覇気が宿る。ぶつくさ言いながらも、次々と翡翠色に輝く陣を空中にて展開する。そこから高速度で吐き出されるスライムモドキ。細かな調整こそないが、確実に相手の意識を刈り取りに来ている。

 対して、少女は変質させた風の弾ーー火球とゲル状のボールとの激しい応酬。やっている事は泥団子や雪合戦となんら変わりないのだが、両者共に必中の威力を無駄に秘めているが為に、どちらかと言うと躱す事を念頭に置かれた戦闘スタイルを貫いている。

 方や重力を無視した殆ど化け物じみた動きで、方や自らが生み出した部下を足場に。

 時折、非常に気の抜けた声と、ともすれば童女のような、快活な声に混じり『フギャ』とか『ヒギッ』とか聞こえるが極力無視している。理由としては『何言ってるのか分からない』が8割を占めるのだが……それは置いておこう。


「『無の支配域アンノウン・スタイル』!」

「ーーーーは、なんですそれ?」

「教えるとでも?」

「ですよねー……ポムポムバズーカ!」


 むんず。スライムモドキの天辺。ちょっとツノっぽく出っ張っている箇所を掴み、極限まで伸ばしーーーー勢いのまま振りかぶっ……投げた!

 空気抵抗の関係やらやらなんやらでスライムモドキーーポムポムは、翡翠色の弾丸と化す。

 殆ど棒に近い形状に変化したポムポムは、真っ直ぐ快活な声の主ーー長い黒髪を振り乱すように戦う、戦闘スタイルが獣じみた女ーーここ、一地区区長にして町立一地学園生徒会会長、【万象の支配ザ・ワールド】こと鷹結たかむすびはるかへと真っ直ぐ向かう。


 ーーーーが、しかし。


「嘘だろ、おい」


 無駄に説明っぽくなった文を遮るように、絞り出した言葉は疑念の混ざった声だった。

 ポムポムバズーカ(ちゃんと以下略)は、灰色の髪の少年ーー一詞と、遥との間で停止していた。と言っても、時空間を停止する類のものではない。故に、数秒の後、ポムポムは重力に従い落ちる。


「『キュッ』」

「ーーッポムポムハンマー!」


 ポムポムを足場に、木製の床を滑るように移動し瞬間移動を思わせる素早さで遥へと詰め寄る。と同時、バウンドしたポムポムを掴み、先程同様に大きく振りかぶる。超近接物理的攻撃【ポムポムハンマー】!

 その威力は、そこら辺のバットをいとも簡単に砕く程。


「っ、これもか……」


 同じように、木槌を模したポムポムはまるで、空間に固定されるが如くその勢いを失っていた。スルリ、と手から離れる不思議な感触。触っているようで触れない。個体と液体の中間のような、とにかく上手く説明出来ない触感はやがて、床に染み込むように消えて無くなる。


「何故消し……」

「間違えたは選択はしてないよ」


 ーー多分。

 そう言って、一詞は右手に小さな陣を作り出す。翡翠色に輝く陣。遥自身、何度も見たお馴染みの色だ。


「だがそれは!」

「ポムポムバズーカ!(ちゃん以下略)」


 パァンッ!僅かな空気抵抗さえ真っ正面から砕いた・・・翡翠色の弾丸は、一詞の掌から吐き出されるようにして発射された。


「『無の支アンノウ』ッ!?」

「ポムポム第四のマル秘能力……」


 ふいに、遥の体制が崩れる。後頭部を鈍器で殴られたような、そんな感触。


「増殖!」


 遥の後ろーー風景と同化していたそれは、やがて半透明な翡翠色へと変わっていく。

 そこには、確かに、体育館のシミへと化した筈のポムポムがいた。

 そしてーー


「がっ!」


 ポムポムバズーカにより、数メートル吹き飛ばされる遥の身体。確認するまでもない、間違いなく気絶している。それも、脳に後遺症が残りそうな感じで。


「………ふぅ」


 余韻を残し、空気を小さく吐く。汗が頰を伝い、木目へと吸い込まれて行くのをゆっくりと眺める。


「お疲れ様です、一詞様」

「……ん、ああ。どうもです、鷲守さん」


 音もなく現れたのは、鷹結家御付きの方、或いは家政婦でもある鷲守わしくみ宗穣そうじょうさん。

 肩でザンバラに切る形のショートと鷲を思わせる鋭い目付き、右目下の泣き黒子が特徴的だ。あと何故か丈の短いメイド服。残念ながら僕にはメイド属性と言う数年の厳しい修行の末に手に入れる事が可能(らしい)萌え感情は持っておらず、いや確かにこう……来るものはあるのだが、あくまでそれ止まりだ。

 メイド属性云々を抜きにしても、言葉の節々に丁寧さが滲み出ており、支える人としての礼節を誰に対しても、何処であっても忘れないその姿勢に感服さえ覚える。

 何より、支えているはずの御主人の命令を忠実に受け入れ、奔放な足に輪をかけない所だと思う。いやまあ正直、かけて欲しいのだけれども。


「えぇと、毎度の事なんですけれど……良いんですか?ソレ……」


 区長相手にソレ呼ばわりする僕も僕だが、鷲紐さんは目を回している鷹結さんを一瞥した後、「ぺっ」えいま唾吐いた?吐いてないよね!?鷲紐さんに限って、ねぇっ!?


「此方こそ、毎度毎度、本当に申し訳ありません。校外活動に忙しい身でありながら……」

「い、いえいえ……」


 一地学園に限らず、六花町における殆どの学校、学園は無能力者・・・・のアルバイト許可を出していない。その理由としては、バイト内容が危険なものーーモンスター退治などにーーが多いからだ。それこそ、スーパーの店員なんかは外部に情報をあまり漏らさないよう、必要最低限の人数しか雇わない。自ずと、学生が自由な金を手に入れる方法と言うのは限られてくる。

 その公認のグレーゾーンを提示してくれたのが鷹結会長だ。区長と言うのもあり、教師は勿論、区の優位者よりも立場が上の存在なのだ。


「じゃあ、校外活動に勤しんで来ます」

「はい、お気をつけて」


 学生のアルバイト含め諸事情以外の早退など、公認のグレーゾーンは全て、校外活動或いは校外実習の括りに入る。故に、故意にそれを口に出す事はあまりしないのだが……今日は事情が事情なので、臨時の校外活動という程を取らせて頂いている。


「ったく、一詞様が貰ってくれりゃぁ私とて楽が出来るのに……」


 後方にて聞こえた声は空耳と言う事にしておく。


 体育館を出て、汗を拭きながら校門へと向かう。たまたま体育はやっていなかったようで、目立たずに済んだ事に胸を撫で下ろす。別段、そう気にする事でもないのだろうがそこはお家事情と言うやつだ。


「ーーーー早く、帰らないとな」


 結局、帰路に着くことが出来たのは、連絡が来てから三時間過ぎての事だった。


 ☆



 糸田一詞の預金残高額

 224560円

 支出額

 漫画、小説含む諸々の娯楽物 ー12566円(税込)

 燃えるポムポム×10 ー150円

 凍るポムポム×1 ー10円

 深淵の魔手【固定型】×1 ー1500円

 ポムポム×20 ー???円

 ポムポム×13 ー???円

 増殖分×1 ー???円

 支出総額

 14226+???円

 決算額

 210334ー???円

 成。

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