第15話 北方四島奪還戦

 台湾海峡を望む中国側の港には多くの貨物船が集められていた。

 それらは台湾侵攻の為に民間から徴発した物だ。

 最新鋭の物からオンボロな物まで、使える物は全て使うという感じであった。

 今にも戦争が始まりそうな緊張感に包まれた港。

 夜明け前。

 中国人民軍の兵士達は海を警戒していた。

 灯台などから、双眼鏡で闇夜の海を眺める。

 そして、旧式ながら、中国人民軍の駆逐艦が哨戒任務を行っていた。

 

 「敵駆逐艦を確認」

 ソナー員が叫ぶ。

 「潜望鏡深度まで上げろ。魚雷を全弾装填。一撃で決める」

 艦長は的確に命令を下す。

 大戦を乗り越えたベテランの潜水艦乗り達は静かに素早く、作業を終えた。

 潜望鏡で月夜に映る駆逐艦の艦影を確認する。

 「魚雷発射」

 艦長の指示で全ての魚雷が発射された。

 中国軍の駆逐艦は潜水艦どころか、魚雷さえも発見する事が出来なかった。それは性能と練度の低さの為だった。当然ながら、回避運動をする事無く、駆逐艦は2本の魚雷を横っ腹に喰らい、轟沈した。

 台湾海峡で同時多発的に中国人民軍の艦船は次々と撃沈した。そして、夜明けが数分後に迫った時、港に向けて、魚雷が一斉に飛び込んできた。

 貨物船は次々と撃沈し、中国人民軍が搔き集めたはずの数百隻の船舶が港で鉄屑と化し、それらによって、港湾は当面の間、使用不可となってしまった。

 この一斉攻撃に対して、毛沢東は唖然とするしかなかった。

 攻撃を仕掛けたのはアメリカか日本だと解っていた。だが、その証拠は無い。

 この攻撃で中国は大半の海上戦力と渡る力を失った。毛沢東は台湾侵攻を諦めた。

 「やつら・・・許さん。決して許さんぞ」

 毛沢東は怒り心頭であった。

 あれだけの混乱の中で、蒋介石を追い出し、この国の全てを掌握しただけでは彼の欲望は抑えられない。より大きく、世界を手に入れる。それが彼の野望であった。それが挫かれた事で、彼のプライドは大きく傷つけられた。

 「アメリカめぇ・・・第二次世界大戦の借りがあるとは言え・・・どうにかして・・・」

 毛沢東は中国を中心とする世界地図を眺める。

 「そうか・・・ここだ。ここを属国にすれば、都合がよい」

 彼は食い入るように地図を眺め、ニヤリと笑った。


 ヴェトナムは太平洋戦争終結後、一時的に撤退したフランスが戻ってきた事で、独立運動が始まった。フランスは独立の機運を鎮める事が出来なかったが、その後を継ぐ形でヴェトナムに独立政権を樹立させたアメリカはホーチミン率いるヴェトコンに対して、攻撃を仕掛けた。この頃、ホーチミンはソ連と中国に協力を要請、亜細亜における支配体制を強める事に野心を抱いていた両国はこれに応じた。

 ソ連と中国の協力を受けた北ベトナム軍は劣勢を挽回し、一層、戦闘は激しくなった。

 中国は台湾侵攻の為に集結させた部隊の一部をヴェトナム国境へと向けた。

 当然ながら、アメリカとの全面戦争を避けたい中国は表面的にこの軍をヴェトナムに入れる事は出来ない。だが、一部の部隊はヴェトコンの恰好に扮装して、ヴェトコンとして、アメリカとの戦闘に参加していた。

 武器も多くホーチミンに売却し、利益を得ていた。

 ヴェトナム戦争は中国にとっても大きな意味を持つようになっていた。だが、それは同時にソ連の野望に水を差す事になった。

 ソ連は軍事顧問を派遣していたが、中国の横やりが入った事で、関係は悪化の一途を辿り始めた。だが、ホーチミンはこの状況は利用すべく、どちらかの協力に対しても断る姿勢は見せなかった。

 それとは知らず、アメリカはこの戦争の泥沼にハマり始めていた。

 この状況は魔女にとって、とても愉快な状況であった。


 北方四島を巡り、戦闘は激化していた。

 大日本海軍の第一機動艦隊はソ連の潜水艦を次々と撃沈させつつ、侵攻を続けた。

 艦隊司令はすでに艦隊の1割が消耗した事に懸念を抱いていた。

 「まさか、敵がこれほど多くの潜水艦を配備していたとはな」

 「数を間に合わせるために海防艦を多く配備していた事が裏目に出ましたな。損害が想像以上です」

 「仕方があるまい。これが日本の現段階の実力だ。国力の差だよ」

 「なるほど・・・勝てますかね?」

 「勝てねば・・・核の恐怖に怯えねばならないぞ」

 「核ですか・・・我が国でも研究がなされていますが・・・」

 「悪魔のような力だ。強い放射線が人体に大きな悪影響も与えるらしい。そんな物を使われたら、日本は亡ぶぞ」

 「なるほど・・・何としてでも北方四島は攻略せねばなりませんね」

 「そういう事だ。敵のロケットが届かぬ場所まで後退させねばな」

 まだ、大陸間弾道ミサイルなど一部の学者の間でしか話題になっていない為、軍上層部の中においては北海道を射程に入れる事が出来る北方四島の存在が大きな脅威だと仮定されていた。

 ソ連軍は北方四島防衛の為に全ての海軍戦力を投じた。

 空母こそ、用意が出来なかったが、巨砲を備えた新造戦艦などが戦列を整えて、北海の荒波を超えて、迫る。

 彼らの到着までを耐えきらねばならない北方四島を守るソ連軍は空の戦いで劣勢に陥った。不意を突かれて、滑走路や地上施設を破壊された事により、ソ連軍の要であった戦闘機群は着陸が出来ず、仕方が無しに燃料が残っている間にシベリアへと退避するしかなかった。

 制空権を支配した日本軍は大和含む戦闘艦による激しい艦砲射撃を上陸地点に放ち、敵を一掃した。

 上陸用舟艇が砂浜にランディングする。

 軽量という点からチハ戦車などが投入された。

 砲塔を主砲を後ろ向きにしたチハは後方に装着した機関銃を放ちながら、ソ連軍の残存兵を次々と駆逐していく。

 激しい戦闘が起きたが、米軍から貸与された兵器を手にした日本兵は圧倒的な火力にて彼らを駆逐する事に成功した。

 上陸戦は1時間に及ばずに終了し、仮設の橋頭保の建設が始まった。

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