詩『仮面(ペルソナ)』の内容について(3)

 前回に引き続き、今回は詩『仮面ペルソナ』の内容説明を行いたいと思います。よろしくお願い致します。


仮面ペルソナ


夜が眠らない 時代ときで過ごす心

知らない間に 両手で温もり隠す


その指先は声を求める度

小さな罪を背負っていく


月夜に消える その人影は

明日へはばたく どこか悲しい

はかない鳥のようね



罰を浄化するため 夢の地図広げ

霧がさまよう中で 辿りついた街は


無機質な微笑こぼす 人が住む

ひび割れた仮面ペルソナの世界


月夜が照らす その人影は

孤高の波に 翻弄ほんろうされた

鮮血の異邦人


(3-a)

月夜を惑わす その人影は

すれ違いの まなざし入り組む

背中合わせの時間


(3-b)

風の鳴き声に 旋律メロディをのせて

このうたを届けましょう


 最初は(3-a)の冒頭文から、説明を行っていきます。基本的には1番・2番と同じ意味で、「月夜を惑わす」とはを表す比喩表現です。これまで彼は夜型の生活としていましたが、ふとした変化(詳細は詩『仮面ペルソナ』の内容について2を参照してください)により、自分自身を探す旅に出ます。

 それからのファントムは(日が出る朝に目が覚め、日が沈む夜には体を休める)を送るようになります。これは空からファントムのことを見ていた月(「月」を人の目線として例えた擬人法です)でさえも、予想しなかった行動です。

 そんな彼の驚くべき行動の変化を、「月夜を惑わす その人影は」という形に比喩表現しました。


 下の「すれ違いの まなざし入り組み」とは、(1)ファントム (2)クリスティーヌ・旅で知り合った人たち、の2を指しています。特に旅で知り合った人たちという意味合いが強く、ファントムと心を交わすということを意識しています。

 ファントムが「安住の地」としてたどりついた場所では、表向きは規則正しく生活している光景が見えます。ですが心の中を覗いてみると、“本当は一人の人間として普通に生活し、将来愛する人と仲良く暮らすことを望む自分(ファントム)”と“その日暮らしの生活をし、今の自分の現状(現在)を維持することが精一杯”という、2つの気持ちのすれ違いが発生します。

 「まなざし」=視線・目の表情・目つきなどの意味があり、言葉では語られることのない彼らの真意を私なりに表現してみました。


 同じような意味合いで、「背中合わせの時間」についても考えていきます。これは毎日街で顔を合わせている、(1) ファントム (2) 街に住む住民たち のことを表現している言葉です。が、1……という意味合いにとらえると、より分かりやすいかもしれません。

 に、この表現法を置き換えましょう。1つの教室やオフィスで勉学や仕事をするため、お互いに知り合い・知人という認識はあるかもしれません。ですが親友・恋人・夫婦といった、特別な関係になることは滅多にありません。

 このような誰もが経験したことがある微妙な距離感を、「背中合わせの時間」=のこと、に例えました。


 そしてこの翻訳が、(3-b)の「風の鳴き声に……届けましょう」へと続いて行きます。この詩の世界観では事件解決後、を歩んでいます。

 「風の鳴き声に」とは主に、「やまびこ」「言霊ことだま」という意味に例えました。やまびこ=山や谷などの広い場所で大きな声を出した時に、その言葉が反響すること。言霊とは霊的な意味も含んでいますが、ここではその言葉自身が持つ力のことです。例えば「ありがとう」というお礼の言葉を聞いた時、。逆に「ごめんなさい」という謝罪の言葉を聞くと、? という疑念が生まれることがあります。

 またクリスティーヌとファントムは、お互いの新しい住まいについて何も知りません。『オペラ座の怪人』の時代では今のようにスマホやメールなども普及していなかったので、連絡方法も必然的に限定されてしまいます。

 そのためどこに住んでいるか分からない相手へ、自分の気持ちを伝えるための方法として、人のいない山や谷などで「大声を出す」という方法を考えました。


 そして旋律とはそのままの内容で、メロディという意味になります。クリスティーヌはコーラスガールという職業なので、となっています。そんな彼女にとって発声練習は日課でもあり、少しでも時間が出来ると一人練習することも珍しくありません。音楽の練習をする合間に、時折ファントムに対し自分の気持ちを伝える、という意味になります。

 一種の遠距離恋愛に条件が似ており、恋人関係ではないもののファントムのことを密かに心配している、クリスティーヌの心情を表現した言葉です。

 さらに「鳴き声」という漢字を使った理由として、この文字には鳥や動物の声という意味があります。動物たちの声には人の心を癒す効果があり、「泣き声」ではなく「鳴き声」という言葉を使いました。


 最後の「このうたを届けましょう」とは、クリスティーヌからファントムへ自分の現状を伝えます、という場面をイメージしました。いわばでもあります。

 原作『オペラ座の怪人』のラストで、クリスティーヌの死後ファントムが勘所に対する純粋な気持ちを例えた文章が書かれています。そのことから、のだと思います。

 ここからは私の想像となってしまいますが、恋愛にまで発展しなかったものの、2人は心のどこかで連絡を取り合っていたのではないでしょうか? 表向きは終わったという風に見えても、実はそうではなかったのかもしれません……


 以上のことを踏まえると、3番の意味は下記の通りとなります。


           『仮面ペルソナ(3番翻訳)』


 [毎日空からあなた(ファントム)のことを見ていたお月さまでさえも、分からなかったことがあったみたいです……まさかあなたが朝型の規則正しい生活をするなんて、誰が思っていたでしょうか?

 そんな規則正しい生活を始めたあなたですが、結局心から愛する・尊敬する人には巡り合えなかったのですね。表向きは一緒に行動する知人や仲間という間柄ですが、物事の考え方はあなたとは正反対です。ごく少数ですが、あなたと同じ考えを持った人もいるでしょう。しかし人が毎日入り組むその街の中では、お互いのことを深く知ることは出来ないでしょう。近くにいながら遠くにいるような感じがする……そんな時間の中で、今日もあなたは生活をしているのですね……


 コーラスガールという職業にいる私(クリスティーヌ)にとって、日々の歌の練習は欠かせない日課です。時折人目を盗んでは山や谷へ行き、一人練習に明け暮れることも珍しくありません。

 新しい住まいの住所・連絡先を知らないため、今の私にはあなたへの連絡方法がありません。そう分かってはいますが、という意味を込めて、今日も私は山や谷のいただきで心からのうたを歌いましょう。やまびこや言霊たちに揺られて……今日も私は……歌います……]


 これが詩『仮面ペルソナ』に込められた、秘密となっています。少し個人的解釈も含んでいますが、主に(愛情ではなく友情に近い)を伝える内容です。


 次回の裏話の内容は未定ですが、もしかしたらこれで『心の天秤』を完結するかもしれません。詳細が分かり次第、近況ノートなどでご連絡します。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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