第2話

 君のアルバイトが終わり、一緒に帰り道を並んで歩く。

 夕日はもう半ば隠れていて、夜のとばりが降りようとしている。


「わたし、人混み苦手なの」


 そう言って下がった目尻が、とても愛らしくて僕の心をくすぐった。


「それなら! 花火を買ってきて川辺で、二人で楽しみませんか?」


 頬と耳を赤く染め、口早に言葉を紡ぐ。

 そこに下心などは微塵も無く。


 ただ、君の事を知りたくて。

 君の興味を引きたくて。


「……なら、線香花火。――飽きるまで、線香花火がしたいな」


 微笑した君の顔に夕日の橙色が重なり、幻想的な雰囲気を漂わせる。


「――っ! 線香花火! いっぱい買ってきます、僕!!」


 その表情が妙に色っぽくて、体温が急激に上昇するのが分かる。

 心臓の鼓動が早まり、呼吸をするのが苦しい。


 それくらい、君の微笑みはとても破壊力が大きかった。


 触れれば消えてしまいそうな程、儚い笑顔に胸が、ぎゅっと見えない何かに掴まれた様に締めつけられる。


 隣に君がいる。


 君の左手が微かに触れてしまい僕は気恥ずかしくなり、さりげなく二十センチほど距離を開けて歩き続ける。



「じゃあ、わたし駅こっちなので、また」


 君は夕日に照らされながら、右手を少し上げて小さく手を振る。


「うん、また」


 僕も同じ様に手を振り返す。


 君が駅のホームに消えて見えなくなるまで、僕はその後ろ姿を見送った。


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