空を超えて-BEYOND the SKY-

釣竿端末

第1章 後悔の転移

プロローグ 『もう1つの地球』


--今日も退屈な1日が始まる。


やる気のなさそうに細めた目で前方を見つつ自転車を漕ぐ。高校2年ともなれば見慣れたこの道だ。無意識のうちにハンドルが動いていく。

快晴とはまさにこのことなのだろうか。目の前を見るだけで雲ひとつない青空が目に入る。顔を掠めて吹き抜ける風が心なしかいつもよりも心地いい気がした。


「今日も授業寝てしまいそうだ…」


そんなことをぼんやりと考えるのも何度目だろうか。刻限ギリギリ登校の上に授業を寝て過ごすなど自分でもクズだなと思い、起きている努力はする。


だが、


「容赦無く襲いかかってくる眠気には勝てない。仕方がない。」


と大抵毎回諦めている。もちろんテストの結果もそれに比例している。


そうした思いに耽るのも束の間。目前には流石に見飽きた白い薄汚れた大きな校舎に開かれた鉄門が見えてくる。

いつものように速度を落としつつ門の間を通っていく。


面倒くさいいつも通りの高校での日常が始まる…



はずだった。




--------------------



「バンッッ!」

  照明の消える音とともに突如教室が暗くなる。

  徐々に教室中が騒めきだしていく。


「えっ、何?停電?」


「よし、これじゃ授業無理だし帰ろうぜー!」


--できもしないのわかってて口に出すなよ。停電くらい騒ぐことでもなんでもないだろ。


流石にこの年齢ともなれば停電ぐらいでは何も思わない。しかし、周囲の反応はそれだけではなかった。


「でも何かやけに暗くないか?」

「確かに…まあ昼だしカーテン開ければなんとかなるだろ。」



--確かにそうかも…


声を聞いたと同時に時計を確認する。時計が指す時刻は14時だった。瞬間先ほどまで停電と思っていた考えは覆る。

当初は誰もが停電だと思い込んでいたが、冷静に考えて状況を整理してみると、一度落ちた蛍光灯はかなり暗いが実際は直ぐに復帰している。

それに加え、先ほどのクラスメイトの予想は正しく、視線を横に向けるとカーテンの隙間から覗く真っ黒な窓が目に入る。


だが、


--はぁ…なんだよこれ。めんどくさい。


いくら異常な事態とはいえ自分にとってはその程度のことである。確実に学校にいる時間に変更が出るためだ。


刹那、

「パリィィィン!!」

何かが割れる音と同時に自分の頬を何かが掠る。


「ッ!?」


猛烈な痛みと共に頬に触れた手に鮮血が滲む。

中途半端にカーテンの開いている真横の席だったのが運の尽きのようだ。自分以外は誰も怪我をしていない。

だが事態はそれだけにはとどまらない。


「ゴォォォォォォォォ」


割れてなくなったガラス窓から強い風が吹き込む。

台風並みの強さのようだ。横目に見える遠くの木が、ありえないほど揺れている。


--結構やばい状況かも…


自身の怪我でそろそろ事態の異常さは理解したが、怯えている時間は与えんとばかりに新たな悲鳴が上がる。


「ちょっと!何…あれ…」


1人の女子クラスメイトが割れた窓の外を指差し、膝から崩れ落ちる。よほど驚いたのか、彼女の膝は震えている。


その反応に引き寄せられるかのごとく、次々にクラスメイトたちは窓から身を乗り出して外を見る。


「えっ!?…」

「すげぇ!!なんじゃあれ!」

「………」


パニック、硬直、興奮。様々な反応を見せていく。

その軍団に便乗し、外を同じように見てみる。


「…!?」


そこに広がる光景は「異常」そのものだった。

本来雲と太陽があるはずの空は、漆黒に埋め尽くされ、星々が広がっていた。

そして見た瞬間それ以上に目に飛び込んできたものがそこにはあった。


--えっ、?嘘だろ?


そう。決して私たちの目の前に現れるはずのない青い星。


----地球が。


彼、片桐大地は驚きつつも目を輝かせた。


感動に耽る時間も束の間。バタバタと靴が床を叩く音が聞こえる。そしてすぐさま音の主が慌てた様子でドアから出現する。


「皆さん、落ち着いてください!教室は窓が割れて危険です!体育館に移動して次の指示が出るまで待機してください!見たこともない状況で気が動転するのも分かりますが、落ち着いて、速やかに行動してください!」



聞き慣れた担任の弱々しい声も今日はこの事態だ。張って聞こえる。


この状況である。流石に直ぐには全員は動き出さない。ザワザワとあちこちで話し声が聞こえる有様だ。


クラスメイトの三分の一程度が歩き出しただろうか。皆それぞれにぞろぞろと前に続き歩き出している。もはや人でぎゅうぎゅう詰めなドアには肩がぶつかる音とともに暴言と謝罪が飛び交う。

並び順など決めていないのがまさかこんな致命傷になるとはと担任は今痛感していることだろう。


---- 一体どうなっているんだろう…


不安と同時に好奇心が頭の中によぎる。


まさか後にあんなことになるとはこの時は思いもしなかった…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る