9. 中川幹事長と帝産新聞記者

 深く礼をして、陸羽代表の議員事務室を出たあと、日本改新の会顧問である公爵議員の村田純むらた じゅん先生と、武野紹海たけの つぐみ先生の議員事務室へも挨拶に伺った。

 村田先生、武野先生の両先生は日本改新の会の創始者であり、今は陸羽代表を支える存在として顧問を務められている。現在、2人とも70代である。公爵議員ということで、旧皇族系議員をにも関わりがある。


「陸羽くんがお認めになられたのだから、凡そ信用できる方であると存じます。貴族院でお待ちしておりますから、どうぞその若い力で日本改新の会を、貴族院を、日本を発展させる先導する存在となられるよう、期待しております」


 村田先生も武野先生も同じようにそう仰って微笑み、楽吉さんと握手を交わした。

 顧問という形で、2人の先生は他の執行部の議員への助言役と調整役に徹する、ということらしい。


 次に私たちは中川丈幹事長の議員事務室に向かった。


 トントントンッ


「失礼します。左門飴也事務所の西村です」


「はい。あぁ、左門先生のところの秘書さんね」


 中川幹事長の男性秘書は議員事務室の扉を開けてそう言った。


「ご連絡していた通り、左門楽吉さんをお連れしたのですが、今お時間はよろしいでしょうか?」


「一応、新聞記者の取材を受けているところだが、まぁ、大丈夫でしょう。あれは何かきっかけがない限り終わりそうにありませんから」


 そう言われて、私と楽吉さんは首を傾げたが、そのまま議員事務室に通された。

 少し奥に入ったところにあった応接机に、中川幹事長と女性記者がいらっしゃった。


「中川先生、左門飴也先生のお孫さんの楽吉さんがいらしているのですが、よろしいでしょうか?」


 遠慮がちに秘書さんがそういうと、中川幹事長は私たちのほうを向いた。


「おぉ、よお来てくれはったんやね。まぁ、そこらへんに座りぃや」


 そう言われて、楽吉さんは応接机の椅子に座らされた。隣には新聞記者の女性が座っている。年齢は私と同じくらいだろうか。


 私と中川幹事長の秘書さんは互いの主の近くに立つ。


「紹介しよう。彼女はこの2月から政治部でうちの会派担当となった帝産新聞の記者だそうや」


中川幹事長にそう言われて、記者さんは自己紹介を始めた。


「帝国産業新聞の政治部担当記者の奥村希絵おくむらきえと申します。これから、宜しくお願い致します」


「それで、彼が件の左門飴也代表代行のお孫さんや」


「左門飴也の孫の左門楽吉です。宜しくお願い致します」


 そう言って、2人は名刺交換をした。


「それにしてもこのブンヤさんは可哀想に、こんな弱小会派の担当記者やなんて、ね?」


自嘲も混ぜた苦笑いで、中川幹事長はそう言った。


「いえいえ、貴族院会派の担当記者なんて、若手ではなかなか担当させてもらえないので、大変嬉しいです! それに、貴族院議員の先生はもっと恐い方かと思っていたのですが、日本改新の会は中川先生のようなお話ししやすい方々で良かったです」


「まぁ、『貴族』ってゆうても、僕は男爵やからね。それに、うちの会派は他のとこよりそんなに偉そうにしてない議員も多いかもしれへんね。

あ、でも大西先生のところは気ぃ付けや? あの先生も悪い人やあらへんのやけど、奥村さんや楽吉くんみたいに若いモンには厳しい人やで」


大西清蔵先生は左門飴也先生と同じ子爵議員で、70代。総務会長の大物議員だ。


「そうなんですか。これからお伺いするのに、なんだか心配になってきました」


「あ、日本改新の会からの公認は俺が太鼓判を押しとくさかいに、大丈夫や。まぁ、大西先生と同じ選挙区になるやろうし、機嫌を損ねんことやね。まぁ、何かあっても俺が仲を取り持ったるし、気にせえへんでええから、元気よく行っといで!」


「え、あ、はい! 分かりました。行ってきます!」


楽吉さんはすっかり中川幹事長の調子に合わせられてしまっている。

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