2. 研究室と茶室

 拾った資料の端を揃えながら、左門さんは不思議そうに訊いた。


「どこかで、お会いしましたか?」


 そう言われて、私は自分の仕事を鞄から名刺入れを出した。


「私、左門飴也 貴族院議員 の秘書の西村永蘭にしむらえいらと申します」


「あぁ、お祖父ちゃんの秘書さんなんですね。何か病状に変化が? いや、だとすれば電話が来るか。あ、そうだ」


 名刺を受け取り、左門さんは携帯電話を取り出した。


「ひょっとして、この電子手紙の西村さんですか?」


 左門さんが見せた携帯電話の画面には私の送った文面が映っていた。

 そうです、というと左門さんは納得した様子だった。


「お祖父ちゃんの秘書さんだから、もっと歳上だと思ってました。失礼しました」


「お祖父様からお聞きしましたが、左門さんが27歳ですから、私は1歳下です」


「近いんですね。あ、そうだ。これから印刷し直して、卯花垣先生のところに資料を持っていくのだけども、それが終わったら研究室に戻るからそれまで待っていてくださいますか?」


「手伝いましょうか? 印刷機の扱いなら、慣れてますので」


「ありがとうございます。手分けしましょう。僕は研究室のパソコンから原本を印刷するで、それをA4に両面コピーしてください。あ、グラフの入っているものはカラーでお願いします」


「かしこまりました」


「すいませんね。よろしくお願いします」


 ・・・


 全ての資料の印刷を終えて、先ほど左門さんは3号館に向かった。15分もしないうちに戻るので、と私は研究室で待つように言われた。


 ブブ ブーン


 携帯電話に電子手紙が届いたらしい。


「大学会館3階の茶道部の茶室まで、お願いします。そこでお話をお聞きしたいと思います。左門」


 という内容とともに、そこまでの地図が添付されていた。

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