追憶のパスト・リザレクション

鰹 あるすとろ

序章:始まりの“黒“棺 - dead kNights -



 ―――ここは、どこだろう。


 私は周りを見渡す。

 辺り一面、光の一つもない漆黒の世界。


 そうだ、既に私は死んだのだ。

 私の名は■■■■■■■・■■■■■■■■。


 かつて水晶の中に浮かぶ世界にて、悪逆に手を染め命を散らした愚か者。


 死した瞬間、気付くと私はこの何もない空間に居たのだ。


 冥界、というにはあまりにも無機質な場所。

 人を裁く者も、人を赦す者も一切いない、救いのない世界。


 それが自分には、何よりも相応しい罰に思えた。


 何もない。身体も魂も。


 この闇の中にただ浮かぶ。それを繰り返すことのみが、自分に赦されたただ一つの行為だ。

 もはや、思考することすら億劫。そのはずだった。


 ―――なのに、何故私は今、意識を甦らせた?


 そんなことを考えていたその時。


 ―――遠くに、一筋の光が見えた気がした。


 それはとても小さく、朧気な淡い光。

 だが、今の自分にはそれが、何か救いのように思えた。


 光へ、向かおうとする。


 徐々にそこに近付くにつれ、極々小さな声が聴こえてきた気がする。


『た…………た…け………たすけ………』


 助けて。

 自分に救いを求めている何者かの声。


 ―――だが、自分は既に死した身だ。

 生者に、自分の過ちが引き起こした結果に対して干渉することは、自らのせいで死んでいった人々に対する侮辱のように思えた。


 これでは、マッチポンプのようではないか。


 ―――そう言い残し、自嘲と共に光から目を背けようとした。

 誰かの命乞いに答える資格等、今の自分には存在しないのだ。


『―――たす……ら……を……………』



 ―――違う。


 この声は、彼女は命乞いなどしていない。


『―――……………』


 これはきっと、もっと崇高な―――




 それに気付いた瞬間、光を手に取った。

 


 それが後に、自分にとって何より大切な出逢いになるだなんて、思いもしなかった。




 ―――願わくば、向かったその先に、自身を罰してくれる者が居ますように。


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