女子大生から見る現代社会の考察

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①僕が留学をしてみたい理由


 わたしの後輩に、留学を強く希望する男がいる。

 はっきりとした顔立ちと、会話をしていて分かる頭の回転の速さ。ダンスを習っているせいか身のこなしも軽い。そんな彼は中学生の頃、こんなことを言っていた。


 男友達は少ない方だ。


 理由は、友達の彼女をいつも奪ってしまうから、らしい。

 とんだナルシスト野郎だと思っていたが、そんな彼も今は高校三年生になっていた。希望する大学は、外国語学部のある大学だった。偏差値だけでいうと、俗にいうFラン大学。留学がしたいらしい。


 Fラン大学の外国語学部、と聞いたときのわたしの感想といえば、


 っぽい。


 派手な見た目と、わいわいと楽に生きることをモットーとした彼にはお似合いだと思ったのだ。


 だってそうだろう。


 パリピの最前列を進むような人間が、大学へ行って留学したいと言うのだ。ガムをくちゃくちゃと噛みながら。

 わざわざ海を渡って、何を学ぶと言うのだ。

 この時のわたしは、半分あざ笑うように彼にそれを訊ねてみた。

 一呼吸も置かずに帰って来た答えは、


 差別を受けてみたい


 だった。


 この答えを、世の人は批判するかもしれない。

 その言葉自体を不謹慎だと言うかもしれない。


 驚いた。

 彼の言葉に、思わず言葉が詰まってしまった。


 今は差別とか少なくなっているのでは?


 そう頭に浮かんできた言葉を、声には出せなかった。

 だってそれは、誰がわたしに教えた知識なのだろう。

 どこかで聞いただけ。学校でそう習っただけ。その知識を彼に披露することなどできなかった。


 ソースは?


 以前、こんな言葉が流行した。

 得体のしれないネットサイトからの引用であれば嘘っぽいと批判され、五大新聞社や通信社であれば信用された。

 だがよく考えなくても、その情報は誰かが作っているものだろう。誰かの目が現場を見、誰かの手によって書かれた文章を、また別の誰かが編集する。発信する個人や団体にとって都合の悪い部分は排除し、決められた文字数に当てはまるように。

 そうしてようやく発信されるその情報は、現状を正しくわたしたちに伝えていると言っていいのか。


 もちろん、自分にとって不都合なことを公にしないことが悪いことだとは思わない。女性なら化粧でシミやそばかすを隠すだろう。それと同じだからだ。

 ただ、受け手がそれを鵜呑みにしてしまう、そのことこそが問題なのだ。


 世にある媒体で、どうしてか新聞が一番正しいと思っていたのはわたしだけではないと思う。ネットニュースを軽視してしまうのも、わたしだけではなかったと思う。

 情報を世に伝える一番古いメディアが新聞で、そのような新聞を作る新聞社がテレビ局を作った。ネットニュースはよく見ればどこかの新聞社や通信社からの情報を引用し、読みやすいように簡略化してあるだけだ。

 だからといって、新聞が正しい理由にはならない。

 わたしたちが何かを通じて情報を知るとき、必ず誰かの手が加わっているのだ。


 実際に自分の目で確認した事実は、いくつあるだろう。


 留学へ行く理由に、差別を受けてみたい、と言った男は間違っていないと思う。

 正しいとは言えないが、わたしは彼を否定できる人間ではなかった。


 知らないのだ。


 彼にはぜひとも留学へ行ってもらいたい。

 そして、その感性を大事にしてもらいたい。


 何かに疑問を持って、自分の目で見て、体験してみる。そうして初めて考えることができる。

 わたしはつい最近そのことに気が付きはじめたのだが、彼は十代にしてとっくに分かっていた。彼の性格から考えても、その理由は単なる思いつきで、無意識だったのかもしれない。けれど、その感覚を素晴らしいとわたしは思う。


 彼に対して、随分偉そうなことを思ってきたわたしだが、人は見かけでも、頭の能力を数値で測れるものでもないと実感した瞬間だった。


 実感すると、考え方が変わる。

 考え方が変わると、行動が変わる。


 それを繰り返して、素敵なレディになりたい。


 そんなわたしが書くエッセイを今後もどうぞよろしくお願い致します。

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