第36話 婚活未遂、黄色

 レツさんをスーパー理系の教室に置いてきてから、自分の教室。


 昨日は昼休みの乱痴気騒動の上に早退扱いだし、今朝は正門前での、衆人環視の元、風紀委員長ご一行のお出迎え。派手なことです。


 とはいえ、昼休みのことは風紀委員長の箝口令が効いているらしく、本庄の耳にまですら入っていないらしい。


 もっぱら、今朝の挨拶合戦が本庄、及びヨシクニの興味の中心だったので、適当に流す。いわゆる、無視をして、昨夜ネットで見つけたキュートなにゃんこ動画を魅せる。秘技、にゃんこ返し。


 しばらくすると、義朝くんが来たので、礼を言いに行く。本庄とヨシクニは放置。


「昨日から、いろいろとありがとね、義朝くん。ご迷惑かけました」


「いいんだよ。これも風紀委員の仕事だしね。それに、僕みたいな人間が風紀委員長と直接お話しできる機会なんてそうそうないし」


「あ、そうなの。ヨシクニが風紀委員長の連絡先をゲットしたとか言ってたけど」


「あれは、フェイクアドレスだよ。一種のマルウェアと言うか、風紀委員で生徒を監視するためにね」


 さらっと、おっかねえことを……。ヨシクニには黙っていよう。風紀委員長にせいぜい監視されるがいい。


「と言っても、僕みたいな下っ端じゃ信憑性もないから安心してよ。家路いえじくん達だって秘密があるようだけど、僕個人は気にしてないからね。……もし、また昨日みたいに悪級劣ワルキューレが暴れるようだったら、いつでも相談して。僕じゃ役に立てないけど、風紀委員長なら何とかしてくれる。僕、この風紀委員、すっごく誇りに思ってるんだ」


「うん、わかった。頼りにするよ、風紀委員さん。……そういや、昨日の抜き打ち検査に来てた中等部の子はどうしたの? 今朝、見なかった気がする」


「林木くんのこと? 彼なら中等部の方に行っているよ。いくら優秀でもまだ十四歳で中学二年生、義務教育とか手続きがいろいろ複雑みたいだね。僕の予想だと、きっと彼女は近い内に高等部に正式に飛び級すると思う」


「へえ、未来の風紀委員長様ってことか」


「可能性は高いよ」


 僕には、本庄やヨシクニごときにビクついていた彼女が、現風紀委員長くらいの貫録が持てるとは想像できないが、男子三日会わざれば刮目して見よ、女子なら注目して見よ、だ。未来のことはわからん。


 そうだ。自分の五分後のことだってわからなかったからな。


 HR中に、高山さんからいい香りのする小手紙をいただいちゃうんだもん。


 しかも、連絡先載ってるし。そんな未来予想してませんわ。


『スマホでメッセ送った方が早いよね? もし良かったら』


 いいですとも。


 即送ったね。フリック操作バリバリで。


 高山さんも自分のスマホを確認すると、僕ににっこり微笑んでくれたし。


 ひゃほう。結婚しよう。これはもう結婚したってことでいいんだよな! な! 民法的にも問題ないよな!


『昨日、悪級劣から酷い目に遭ったね。ごめんね。私がもっと早く暮内先輩を呼んでくれば、あんなことにならなかったのに』


『滅相もございません 高山さんの機転で 命拾いしました』


『あれからずっと気になっててね。風紀委員からは口止めされてるけど、聞いていい?』


『どうぞどうぞ』


『昨日、家路君、屋上から落ちたよね? 大丈夫なの?』


『全然 平気でした たぶん 打ち所が良かったのでしょう』


『怪我がなかったことは幸運だけど、でも、ちょっと不思議に思っちゃって』


『何でしょう』


『だって二十メートル以上の高さから落ちたんだよ。それに暮内先輩だって人間とは思えない怪力だったし。ひょっとして家路君、私達に何か隠してない?』


 ありゃま。こいつは返答に困ったぞ。


 君のような勘のいい子は大好きだけど、ことに僕の黄色のボディについては話したくない。話せない。レツさんについても。


 ええい、ままよ。


 秘技にゃんこ返し!!


 良かった、高山さんが笑ってくれてる。これで結婚したってことにしてください。お願いします。

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