第34話 赤と黄色

 学校近くのコンビニで百田は彼氏? と待ち合わせていたらしく、


「それじゃ、暮内くれうち先輩にカル君、またねぇ」


 と意外なまでに、あっさりと去っていった。途中、一度だけ振り返って、レツさんに頭を下げていた。で、そのまま、ペチャクチャ話ながらコンビニの中に。


「あのー、レツさん」


「なんだい、牛乳?」


「ローちゃ……百田の悩みって、彼氏に相談した方が早くないっすか?」


「言うな、牛乳。考えたら負けだよ」


 僕らは再び、二人で登校を開始する。さっきと異なるのは、レツさんに僕の制服の後ろ裾を握らせたこと。


 急に、緊張が解けたのか、目を離すとどっかに消えちゃうから。現に二回も消失しかけたしな。


「それにしても、レツさんて勉強できたんすね」


「ん? んまあ、テストくらいなら、教科書見とけば大丈夫だろ? あんたは違うのかい?」


「教科書なんて、なんつーか、黙示録みたいなもんすよ。意味がわかんないす。数学なんて、それこそ、梵字がうねっているような」


「そうなのか? あたしは数学の証明を読んでいると音楽が聞こえてくるけどな。どいつもこいつも、いい音、鳴らしてんぜ」


「音楽ですか、証明で?」


「そうさ、ポアンカレ予想の証明なんて鳥肌たって三回も読んじまった。その点、フェルマーの最終定理は、うまくねえな。あたしの方が善いメロディ、弾けそうな気がする」


「……レツさん」


「おいさ、牛乳。なんだい?」


「ちょっと僕の制服、放してもらっていいですか。……はい、ここで三回。回ってください。それじゃ、学園はどこでしょう?」


「馬鹿にしてもらっちゃ困るねえ。こっちに決まってる……」


「そこはパチンコ屋だっての。そんなとこ並んでどうすんすか!」


「たぁー」


「白々しい反省はわかったから、僕の制服つかんでください。行きますよ」


「す、すまん、牛乳」


「いっすよ、ヒーロー仲間でしょ。赤なんだし、頑張りましょ」


「うぃー」


 こいつ、絶対、聞いてねえ。と思った。でも、まあ、いいか。それがレツさんだ。戦隊ヒーローの赤で、トンデモない攻撃力と天才的な頭脳? を持っている一方、ただのヤンキーで、一人の少女で、巨乳だ。それでいいじゃないか。


 そして、僕は黄色。それでいいじゃないか。


 なんて、自分のことまで悟れるほど、人間はできてねえ。ヒーロー事は全部、他の四人に押し付けてやる。で、どっか遠くでのんびり暮らしてやる。


 いいか、覚えとけよ。誰か知んないけど。

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