第10話 青と黄色
コンクリート壁に打ち付けられた。
頭ごと、自動車のガラスに突っ込まれた。
鉄パイプのようなモノで滅多打ちにされた。
「にょー」「にょー」言う連中に。
僕は必死に頭を守る。声は出せなかった。喉元をむんずと掴まれていたからだ。
黒集団が刃物を取り出した。街灯にそれは冷酷な光を発していた。
次々と連中は切りかかった。服の繊維が切裂かれる音を聞いた。
僕はもう耐えられそうにない。それどころか、命を落とすだろう。
意味不明の黒集団から、一方的で不条理な暴力を受けながら。
僕は無力だ。何もできない。足下がおぼつかない。全身に激痛が走っている。口の中が砂塗れだ。
こんな僕がヒーローだって?
笑わせるな。僕はおそらく命を落とすだろう。こんな頭のネジが吹き飛んだ連中の玩具となって、ぐちゃぐちゃにされて終わりだ。
僕は何もできない。黄色にすらなれない。跳んだお笑い草だ。
いよいよ最期と自分を自嘲的に笑ったときだった。
異変が起きた。
「にょ!?」「にょん!?」「にょー!?」
黒集団の攻撃の手が止まっていく。
僕の朧げな視界からはすべてが見えていた訳ではない。
だが、それでも僕は見た。すさまじい速さで、黒タイツを吹き飛ばしていく青い影を。
黒タイツの反撃すら許さず、圧倒的反射速度でカウンターを決めていく姿を。電撃的なスピードで連中の背後に回り、その首をこきりとねじ曲げていく技を。
あっという間だった。
駐車場には、黒タイツの骸の山ができていた。
「……大丈夫ですか?」
その人の言葉に安堵したのか、僕はへたりと座り込んだ。
「あ、ありがとうございます」
「礼などはいりません。見かけはひどいですが、命に別状はないようです。もし心配なら病院へどうぞ」
街灯の逆光で、その人の顔が見えない。命の恩人なのに。それどころか目の焦点が定まらない。命の恩人なのに、青っぽい服装の印象しかわからない。
「これらは、悪の手先でただのロボットに過ぎないません。おそらくキミは何かの手違いで襲われたのでしょう。その内、悪の組織が回収にやってきます。早くここから立ち去りなさい。そして、今日のことは忘れてください」
その人は、そう言うと足早に踵を返した。僕は慌てて引き止めようとする。
「あ、あの! もしかしてヒーローの方ですか? 戦隊ヒーローの」
その人は答えた。振り向きもせずに。
「……妻が待っていましてね。失礼いたします」
僕は黙ってその人を見送る。彼の持つ、スーパーのレジ袋からネギが飛び出ている。
ヒーローはいた。戦隊ヒーローは間違いなく存在する。僕みたいなまがい物じゃない、本物の戦隊ヒーローだ。
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