第2話 考察の時間


 人間が猫になるわけがない。

 そんなこと、もちろん知っている。けれど、未希帆みきほのメッセージが腑に落ちてしまった自分がいた。

 これが他の動物なら、一蹴できる。よりにもよって何で猫なんだ。


 よくあるだろ。○○さん(くん)の事を動物に例えるとみたいな質問。

 澤原さわはら 未希帆は、それで言うところの猫だ。猫以外何があると言おうか。

 自由気ままで、わがままで、気分屋。おまけに、浮雲の様に掴みどころがない。

 そんな彼女なら、まかり間違って猫になっているのかもしれない。長年の付き合いから、俺はそう思わずにはいられなかった。

 窓よりのフローリングで、くつろぐ猫を引き上げ、俺はそいつを抱きかかえて座る。

 ラグマット半分、フローリング半分に体を預け、紫色に染まった空を見上げた。

 ……逃げない。

 それどころか、胡坐をかいたパンツに座り込んだ猫は、またいそいそと、身体を丸め日向ぼっこの体勢を取り始めたのだ。


 猫の事はよく知らないが、普通の猫ならこういうことされるの嫌がるもんじゃないのか?

 俺の中でますます、澤原猫説の確信が深まっていく。


 だとすれば、この状況もいろいろ説明がついてしまうからだ。


 唐突に俺を呼び出したことも。玄関に鍵が掛かっていなかったことも。部屋に猫だけがいたことも。スマフォが置き去りにされていたことも。猫がこんなにも大人しいことも。全部。

 納得がいってしまうじゃないか。


「……アホらし、」

 頭の中に巡った仮説を、声を出して否定した。

 この世の中、そんな摩訶不思議なことが、起こるわけないのだ。もっと現実的に考えよう。

「なぁー」

 俺の思考を遮るように、猫が声を上げた。

「なんだよ」

「なぁー」

 平坦な。少なくとも、俺にはそう聞こえる声で、猫はもう一度鳴く。

 それにつられたように、俺のお腹もなった。そういえば夕飯まだだったか。夕方に未希帆の家に来て、猫と戯れていたらすっかり空腹を忘れていたんだ。

「ちょっと待ってろよ」

 猫を床に下ろし、俺は台所へ向かった。

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