プログラム

エンダ

第1話インシデント

「朝です。起きてください」

機械的だが涼しげな女性の声が聞こえる。

「本日は4月7日土曜日です。現在午前8時となります。本日のスケジュールは12時からカフェにていつもの業務です」


「あぁ、わかった。おはようイリア」


カーテンから暖かい太陽の光がこぼれる。

「さて、起きるか」


2058年

時代は量子コンピューターとAIの登場により一変した。

人類が火を利用しはじめてから急激に人間の社会化的進化は早まったといわれているが、まるでその頃と同じことが起きている。

使い方によっては人を豊かにもし、不幸にもできる。

今から13年前の2045年、AIによる技術的特異点、つまりシンギュラリティと言われる問題が起きた。人工知能が人類を越えてしまい、制御不能になったのである。

しかし翌年2046年に世界の優秀なエンジニアたちにより、なんとか抑え込む事ができた。


吉岡は子供の頃だったので状況がいまいちよくわかっていなかったが、家庭支援型ロボットのイリアが故障したことだけは記憶にあった。


あれから13年経ち、吉岡は今20歳でカフェで働いている。

働いているといってもほとんど機械がやってくれるので自分は常連客の話相手や、テーブルを拭く程度であった。

世の中が便利になりすぎ、仕事は趣味でやるものになり、人々は自分が好きなことを思うままにやるようになった。

そんな便利な反面、AIを悪用しない人間を多く育てるため、皆が安心して暮らせるために小中高という義務教育では道徳的な部分や精神衛生管理の面を徹底していた。


「さてと、今日も朝はチョコパンにしよう」

昨日ご近所のパン屋で買ったチョコパンを食べながらイリスに今日のニュースなどを聞いた。

「イリス、なんか世界であったこと教えて、面白そうなこと!」

「承知しました。本日閲覧の多い情報はこちらです」

イリスの目から光が照射された先で映像が流れてきた。

「エストニアの特殊なAIが人類のDNAを調べていた結果、興味深い仮説を立てた。それは人口がある一定数増えると、特殊なDNAを持った人類が2種類産まれる。男と女でそれらのDNAは異なる。彼らは互いに惹かれあう。それをトリガーに、あたかも世界が一つのプログラムであるかのように人口を減らす事件が起きている」

というものだった。

衝撃的な内容だが、信じがたいものでもあった。

人工知能は万能ではあるが、今ではフェイクニュースのようなものも出回っている。

結局人類が制御できてしまうという事はそれだけAIが自由に成長できるという点が阻害されてしまっているからだ。

しかし今回はエストニアの国家に絡むニュースだったので、信頼できるかもなぁ。

そんな物思いにふけ、チョコパンを食べ終えると身支度を整えることにした。

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