お礼の大きさ(タペストリー、遊園地、曇り)


 生き生きクマちゃん&渋渋ウサギちゃんというキャラクターがいる。何でも楽しそうにやるクマと仕方がないが嫌そうにやるウサギだ。そんなキャラクターが一体どうしたのかというと、遊園地とのコラボでグッズがでるらしい。彼女が騒いでいる。現在進行形で。


「クマウサグッズ欲しいー! 遊園地行くのー。一緒に明日行こうよ」


 僕が断ってもずっとこの調子だ。


「人混みなんて嫌だよ。遊園地なんて子供だらけだし。第一僕も行く必要なんてないでしょ」


 彼女は首を横にブンブン振る。


「一人一つ、限定品。抽選のもあるの。だからお願いだよー」


 今にも泣きそうな顔でそう言った。よっぽど欲しいらしい。僕にはあのクマとウサギがそんなに人気なのかと疑問ではある。抽選なんてしなくてもみんな買えそう。


「一生のお願い。ね?」


 ここで一生のお願いを使ってしまうのか。そこまでなのか。それにしても「ね?」が可愛い。


「分かった分かった。明日ね」


 可愛さに負けてしまった。


 行ったとしても一つ二つアトラクション乗って帰ってくればいいや。物買うのもすぐだろう。




「起きて起きてー。朝だよ、気持ちのいい朝だよー」


 まだ六時前だ。しかも、カーテンの隙間から見える空は曇っている。どこも気持ちよくない。


 本当ならここで「面倒、行きたくない」と言うのだけれど彼女の目が輝いているのに気付いてしまいそんなことも言えず。いそいそ支度する彼女の隣で僕もだらだらと支度をするのであった。



 私はいっぱい買うんだという彼女のことを考え車で行くことになった。どんだけ買う気だろう。


 開園してまだ三十分と経っていない園内にはたくさんの人がいた。クマとウサギの効果だとしたら恐ろしい。


「ではまずグッズを買いに行きます」


 彼女に連れられ、大人も子供もひしめく建物へ。買い物カゴをぱんぱんにした大人と一つ二つを握りしめている子供。財力の差である。彼女はというと、ボールペン三種を二つずつカゴに入れている。そんなにいる?


「どうせ使うものだから」


 彼女はそう言った。


 次にシャープペンシル、メモ帳、消しゴムなどの文房具。リップクリームまであるのか。あぁ、プリントクッキーとかもあるのね。カゴいっぱいにした彼女はレジへと向かっていった。


 るんるんで帰ってくるかと思ったが、なぜか気合いをいれていた。


「まだ何かあるの?」

「これからアトラクションを十五個乗ります。行きますよ!」


 ふぁっ。一体なぜ。


「これは遊びではありません。クマちゃんウサギちゃんタペストリーのための戦いです」


 まだあるのかグッズ。


「乗るともらえる券を十五種集めて、ようやく抽選が出来るのです」


 あまりに鬼のような条件ではないだろうか。


「二人なので二回は抽選出来ますね。さあ、行きましょう」


 敬語なのは気合いが入っている証拠だろうか。


 この後、鏡の部屋、メリーゴーランド、お化け屋敷×二、パイレーツ、ティーカップ、トロッコ、ジェットコースター、ゴーカート(一人用、二人用)、スワンボート、観覧車、迷路とこなしていく。どこも並んでいるため時間がかかってしまった。


「あと二つだよ。頑張ろう。ね」


 悩んだ結果、違う種類のトロッコとジェットコースターに乗ることになった。最後にハードだなぁ。


 券が集まった。急いで抽選所に走る彼女。流石に無くなることはないと思う。大変すぎるよ。子供がいたら難しいだろうなぁ。


 いざ抽選、クジ引きだ。緊張している様子だ。一つ引く、中を確認する。ハズレ。半泣きの彼女はこっちを向いて僕に引けと目で訴える。荷が重い。仕方なく引く。中を見ると当たりの文字がある。彼女は心配そうに僕を見つめている。当たりの紙を店員さんに渡す。リーンリーンと鐘が鳴る。「当たりでーす。おめでとうございます」と言われる。当たってもお金は払うんだよなぁと思う僕。彼女は飛んで喜んでる。


 タペストリーと初めに買ったグッズを大事に抱え、遊園地をあとにする。長かった、お昼ご飯休憩してて本当によかった。帰るまでにおやつを食べにお店に寄り、家に帰った。


 帰ってきた瞬間、袋を開けようとした彼女に手洗いうがいを先にするように促した。すごい早さで終わらせた彼女は袋を開ける。とんでもなく楽しそうだ。タペストリーも早速飾っている。そしてふと思い出したかのように僕にこう言った。


「しょうがないね。クッキーは二つ分けてあげる」


 クッキーは十二枚入りである。


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