先生、チーム会議です!


 「みんな、聞いてくれ! 残念なお知らせだ。クラスメートの常闇りりすさんだが、お父さんの仕事の都合で転校することになった。急遽、引っ越しすることになり、みんなに挨拶も出来ないので『お世話になりました』と伝えてほしいそうだ」


 ざわざわとするクラス。確かにちょっと無理がある。真相を知ってる私、川本かすみとソフィアは先生の苦しい説明を聞いて思わず顔を見合わせてしまった。


 リリスドリームから脱出した私達は、保健室で目を覚ました。魔法力が無くなって衰弱していた白姫先生は、応急措置としてみんなが少しずつ魔法力を提供したあと、ソフィア家の系列病院に入院してもらった。


 山田先生に、常闇さんの正体について聞いてみたが、納得のいく答えはもらえなかった。ただ、知り合いだったことは間違いなさそうだ。一番問題なのは、一花だ。仮想現実の世界にはまってしまった一花は、現実世界との区別がつかなくなってしまい、しばらく様子がおかしかった。

 

 私とソフィアは久しぶりに学校の芝生広場で、二人きりの時間を過ごしていた。

 

 「ねえ、ソフィア。今回の事で改めて分かったわ。やっぱりソフィアはすごいや。自分の力でみんなを助けちゃうんだもん。それに比べて私は何も出来なかった、だめね」

 

 「あのね、かすみ。常闇さんに勝てたのはみんなが力を合わせたからだよ。山田先生はサポートしてくれたし、カルラだってかすみが生み出した使い魔なんだよ。それに白姫先生もすごく頑張ってたんでしょ」

 

 「そうだね、みんなとっても頑張ってた。でもやっぱりソフィアはすごいと思う。自慢の親友だよ」

 

 ふうーっ、と息を吐き出すソフィア。

 

 「私が頑張れるのは……」

 

 「せんぱーい!」

 

 ソフィアの言葉はこちらに向けて駆けてくる一花の声でさえぎられた。

 

 「どうした? 藤堂、もう大丈夫なのか?」

 

 「ええ、完全復活ですよ! ソフィア先輩。それよりこれを見て下さい」

 

 一花がスマホで動画を再生して見せてくる。

 

 「えっ! なんだこれ? どういう事だ!」

 

 動画を見たソフィアが思わず声を上げる。動画は三十秒ほどの短いもので動画投稿サイトに最近投稿されたものらしい。投稿者は匿名で、コメントも何もない。映っているのはたくさんの蛇のような首と恐竜のような胴体を持った生物――ヒュドラだ。画面中央のヒュドラに向かって赤色の矢のようなものが飛んでいき命中する。ぼおっと炎が上がったところで終わっている。

 

 「おい、藤堂! なに勝手に投稿してるんだよ! 騒ぎになるだろ」

 

 「違いますってばー、自分じゃないですよー! だいたい、自分、この場面見てないですからー」

 

 慌てて、胸の前で両手をパタパタ振る一花。よかった! いつもの一花だ。

 

 「そう言えば、この間もビルに雷が落ちた動画が投稿されて騒ぎになったよね」

 

 私の言葉に、「あー」と思い出した様子の二人。

 

 一花は、あの廃ビルで起こった事件について知らないので、単に学校の近くで起こった怪異現象と思っているだろう。私とソフィアにとっては、少し苦い思い出とつながっている動画なのだ。

 

 「じゃあ、一体だれなんだ? こんな動画を投稿したのは」

 

 「常闇さんかなあ?」

 

 「なんのために? 動機がないよ」

 

 「うーん」と考え込む三人。

 

 「そうだ! チームの次のミッションは、この動画の謎を解くっていうのはどうですか?」

 

 どや顔になる一花にあきれたような視線を送るソフィア。

 

 「おいおい、藤堂。お前はすぐ調子に乗って人に迷惑をかけるんだから、気を付けろよ。そもそも、今回のリリスドリーム事件だって、もっと早く相談してれば、ここまで大ごとにはならなかったんじゃないのか?」

 

 「ううっ、それは……」

 

 「まあまあ、ソフィア。せっかく一花も元気になったんだし、そのくらいにしてあげて」

 

 「かすみせんぱーい。やさしーよー」

 

 私の体にすりすりしてくる一花。ちょっとくすぐったい。

 

 「こらこらこら、藤堂! やめろ! かすみに近づくな」

 

 「てへっ!」

 

 「可愛くない!」

 

 なんかいいなー。ソフィアがいて、一花がいて。私はとっても幸せだ。なんでもできる自慢の親友に、可愛らしい能天気な後輩、そして――

 

 ――先生。白姫先生。

 

 先生は、私を助けるために命をかけてくれた。魔法力を失って、弱々しく微笑む先生の顔が頭からはなれない。それなのに私は先生のために何も出来なかった。情けない。先生のために、先生を助けることが出来る魔法少女にならなきゃ。

 

 「かすみ先輩、どうしたんですか? ぼーっとして」

 

 一花の言葉に、はっと我に返る。

 

 「ううん、ごめん、なんでもない」

 

 「じゃ、放課後、保健室に集合してチーム会議ですよ! じゃこるんには自分から言っときますね」

 

 放課後、第二回チーム会議が保健室で開催された。メンバーは、白姫先生、ソフィア、一花、私の四名だ。

 

 「最初に、私からみんなにお礼を言うわ。本当にありがとう。みんなの協力のおかげで全員無事に帰ってくることが出来たわ」

 

 「いやー、それほどでも」

 

 「藤堂、お前、何もしてないだろ」

 

  一花にソフィアの鋭いツッコミが入る。

  

 「藤堂さん、チームメンバーに隠し事はよくないわ。これからは何でも相談すること!わかったわね! ただ、リリスドリーム中毒になった生徒のことを最初に取り上げて事件解決のきっかけを作ったのは、あなたよ。お礼を言うわ」

 

 「てへっ!」

 

 「可愛くない」

 

 先生は、ちょっとやつれた感じだけど、よかった、元気そうだ。

 

 「先生、常闇さんの正体について、何か知ってますか?」


 ソフィアが、核心に迫る質問を投げ掛ける。


 「それがねー、わからないの。私もポーカー勝負の時に聞いたんだけど。でも常闇さんは私の過去を知ってるって言ってたわねー、……はっ! 余計なこと言っちゃった」


 「先生の過去?」


 私は気になって思わず聞き返してしまった。まさか、過去の恋愛話とかあるのかな?


 「あー、えっとー、昔ちょっと、危ない仕事してたことあってさー、まーその辺についてはまた今度と言うことで、本題に入りましょう」


 「わかります、じゃこるんがやりそうな仕事。盗撮ですよねー、私の写真も、そのノートパソコンに入ってました」


 「だからー、それは盗撮じゃなくて念写だから! 人聞きの悪いこと言わないで」


 これでは、全然話が進まない。困ったものだ。


 改めて、みんなで一花が見つけた動画を見る。既に再生回数が35,000に達している。あの時、リリスドリームにいた、もしくはアクセス出来たのは、限られた人数だけだ。


 「念のために確認するけど、動画についてはみんな知らないのよね?」


 先生の質問に、全員が首を横に振った。


 「正直、どういう風に調べていいのか分からないわね、何かいいアイデアある?」


 いつものように、先生がさじを投げたところでソフィアが発言した。


 「山田先生と常闇さんには、何か因縁があるようです。まず、山田先生に話を聞いてみます。その上で、どうするか話し合いましょう」


 さすが、ソフィア、説得力ありありだ。


 「前回のこともあるので、みんな勝手に動かないように! 十分注意しましょう」


 「それ、先生のセリフ……」


 白姫先生の悲しそうな顔が、とても可愛かった。

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