先生救出作戦!(その5)


 山田先生の指示に従い、私、ソフィアは藤堂のとなりのベッドに横たわった。先生の説明によると、藤堂の意識をマジカルサイバースペースから切り離すには、誰かが潜入して切り離す作業をしないといけないそうだ。

 

 なんで先生そんなに詳しいのっ? て聞いたら昔大学で仮想空間の研究をしてたそうだ。

 へー結構役に立つのね。先生が潜入ダイブしちゃうとコントロール不能になっちゃうので、私がダイブして先生が外から指示を出すことになった。白姫先生の机に置いてあったデジカメに気になる画像が残っていた。ドレスを着たかすみ似の少女とひざまずく三人のメイド。先生によると藤堂がいる仮想空間の映像なのだそうだ。


 「よし、これでスペース内の映像が見られるはずだ」


 先生はベッドに向けて三脚でカメラを固定し、ケーブルでノートパソコンに繋いだ。通信用の魔法を起動させ、思考で会話できるようにセッティングする。


 「いいかい、俺とコンタクトをとっていることは悟られないように気を付けてね」


 「わかった! 気を付けるよ」


 「じゃあ、いくぞ! 無理するなよ」


 目を閉じて深呼吸する。


 「インフィルトレシャン、ダイブせよ!」


 先生が呪文を唱えると、フワッと体が浮いた感覚を覚える。さーっと風が吹き抜けたかと思うと、地面に足がついた。ゆっくりと目を開ける。


 目の前に円形のテーブルが見える。辺りを見回すと洋風の装飾が施された広間にいることがわかる。少し離れた場所に鉄格子のあるおりが置かれており、中に人がいる。囚われているのは、かすみと白姫先生だ。二人とも肌を露出した服を着ている。


 そして私は、メイドの衣装を身に付けて、手にはトランプを握りしめている。


 なんなんだ! この世界は?


 つかつかとおりに歩み寄る黒髪の女性――常闇さんだ。

 ノースリーブのワンピース姿でなんだかエロい。


 「さあ、川本さん、白姫先生、私と一緒に来てもらいますわ」


 「どこへつれていくつもりなの?」


 檻の中の白姫先生が、かすれた声で聞く。かなり弱っているように見える。大丈夫だろうか?

 

 (山田先生! 聞こえる?)


 (ああ、聞こえる)


 現実世界にいる山田先生との通信は良好だ。


 (いったい、何が起こってるの? 状況を教えて!)


 (檻に囚われてるのは、見ての通り白姫先生と、川本さんだ。君は元々配置されていたメイドと入れ替わったようだな)


 デジカメに接続したノートパソコンに映し出される映像を先生が解析してコメントをくれる。


 (常闇さんが、今回の黒幕と言うことで間違いないな。白姫先生と常闇さんの魔法力が異常値を示している。白姫先生がほぼゼロ、常闇さんは1,000万と非常に高い)


 (1,000万ってそんなに高いの?)


 (ああ、魔王や大天使並みだよ、まともにやり合うとマズいな)

 

 「カルケル、フィラキ、セグン、ボルタ」

 

 常闇さんが呪文を唱える。ブンと音がして檻の後ろに黒い穴のような空間が現れた。

 

 (くそっ、ポータルを出しやがった! 二人が異世界へ送られちまう。ソフィアさん、ポータルと檻を消すぞ。プログラム魔法を送るから起動を頼む)

 

 (ソフィアでいいよ。起動のタイミングは?)

 

 (OK! ソフィア。タイミングは俺が指示する。起動の方法はさっき説明した通りだ)

 

 檻がガタガタと揺れたと思うと地面から離れ浮き上がった。ゆっくりとポータルの方へ移動していく。私の目の前に透明なボールが現れた。ちょうどゴルフボールぐらいの大きさで、内部を様々な模様がぐるぐると回っている。すばやくつかみ取ると手のひらに隠し持った。

 

 檻の中では、かすみが鉄格子の棒を掴み必死で揺さぶっている。鉄の棒はビクともしない。先生はぐったりした様子で座っているようだ。失敗は許されない。かすみを助けるのだ。

 

 檻はポータルの手前まで移動すると一旦停止した。檻を飲み込むようにぐぐっと大きくなる。

 

 (いまだ! 起動しろ!)

 

 手に隠し持っていたボールに、ちゅっと口づけする。なんか恥ずかしい。ボールが光の花火のように飛び散って拡散していく。文字や数字が帯となって移動していき、ポータルと檻の周囲をグルグルと回転しだした。プログラム魔法が起動したのだ。

 

 「なんなの? これは?」

 

 常闇さんも突然の出来事に戸惑っているようだ。

 

 砂が風に飛ばされるように、ポータルと檻が細かい粒子となって消えていく。予め起動していた浮遊魔法によって、かすみと白姫先生がフワフワと浮かびながらゆっくりと地面に降りていった。

 

 「これは……、プログラム魔法! だれですの? 邪魔するのは」

 

 「私よ! 常闇さん。二人を返して!」

 

 思わず、名乗り出てしまった。

 

 「メイド? いや、ソフィアさん? いつの間に入れ替わったのかしら?」

 

 私は、ゆっくりと常闇さんへ近づいていく。

 

 「ソフィア―、ありがとう! 来てくれたのね」

 

 かすみが顔をくしゃくしゃにしている。白姫先生はぐったりと座ったままだが、こちらを見て弱弱しく微笑んだ。急がないと。

 

 「私の邪魔をされると言うなら、決着をつけるしかありませんわね。ふさわしい舞台を用意しましょう」

 

 常闇さんが、指をパチンとならすと今までの広間は消え失せ、見渡しの良い平原に変化した。見渡す限り何もないただの平原。確かにこれなら邪魔は入りそうにない。

 

 (戦うつもりなのか? ソフィア。相当手ごわいぞ)

 

 (逃げるのは嫌なの、サポートをお願い、先生)

 

 「そうですね、最後の対戦は使い魔対決にしましょうか、じゃあ行きますよ。出てきなさい! ヒュドラ」

 

 赤黒い煙が立ち上り、巨大な生き物が姿を現した。恐竜のような胴体に沢山の長い首と蛇の頭が付いている。それぞれの頭がグネグネと動きとても気持ち悪い。頭は数えてみると九つもある。ギリシャ神話の怪物ヒュドラが常闇さんの使い魔なのだ。

 

 「いでよ! フェンリル」

 

 私の使い魔である灰色狼が傍らに姿を現した。フェンリルとヒュドラが対峙する。フェンリルも巨大なのだが、ヒュドラの巨大さの前では小さく見える。

 

 「先手必勝よ! 行けフェンリル」

 

 素早く接近した灰色狼がヒュドラの首の一つに爪で攻撃を加える。鋭い爪が首をざっくりと切り裂いた。赤い血が傷口から勢いよく吹きだす。怒りの咆哮をあげるヒュドラ。

 

 「連続攻撃!」

 

 左右から飛び掛かり、次々と首を切り裂いていくフェンリル。ヒュドラはスピードについて行けないようだ。三つの首が切り裂かれ動かなくなった。これならいけるかもしれない。

 

 (よく見ろ、ソフィア! 傷が……)

 

 信じられない。みるみるうちに切り裂いた傷が塞がっていく。ほんの三分も経たないうちに完全に元通りとなった。再生能力のある使い魔は確かにいる、だが早すぎる。これでは確実なダメージを与えられない。

 

 「フフフッ、残念でしたわね、ソフィアさん。今度は、こちらから行きますわ」

 

 ヒュドラの頭が口を開けたと思うと、火の玉ファイアーボールを吐き出す。九つの頭が連続して吐き出した火の玉が次々とフェンリルを襲う。左右に素早く飛び跳ね火の玉をかわす灰色狼のすぐ側で炎がはじけ飛ぶ。一つが至近弾となってフェンリルが弾き飛ばされた。素早く立ち上がったが毛のあちこちが焦げて痛々しい。

 

 「フェンリル下がれ」

 

 (だから言っただろ、手ごわいって。待ってろ、次の魔法プログラムを送る、それを川本さんに渡すんだ!)

 

 (かすみに? いったい何なの)

 

 ブンという音と共に透明なボールが再び目の前に現れたので、素早くつかみ取った。

 

 「かすみ、受け取って!」

 

 きらきらと光を反射させてボールが宙を舞った。

 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る