先生、チーム結成です!


 私、川本かすみは、とっても反省している。もっとソフィアのことを理解していれば、あんな事件は起こらなかったはずだ。白姫先生のことばかり考えてしまい、ソフィアを心配させてしまった。 

 今回の事で、白姫先生への誤解が解ければいいのだけれど。先生も、ソフィアが本気であんなことしたんじゃないって分かってくれると思う。先生の式神、夜刀やとの怪我も軽くて済んだし、本当に良かった。

 

 ただひとつだけ、最近話題になってる動画のことが気にかかる。先生とソフィアは、物凄く大きな雷が落ちたのでビルが壊れたって言ってるけど、私にはその瞬間の記憶がない。二人の戦いを見てるうちに気が遠くなって……


 あれって、普通の雷なんかじゃないよね。なんかもっと恐ろしい物のような気がする。あの時いったい何が起こったのだろう? 誰か教えてください。


 「よーし! みんなー! 注目」


 担任の山田先生が教室に入ってきた。


 あれ? 後ろから黒髪の少女がついてくる。


 「転校生を紹介するぞー!」


 なんの前置きもなくいきなり転校生? 

 

 「今日からこのクラスの一員になる、常闇とこやみりりす、さんだ! みんないろいろ教えてあげてくれよな」

 

 「常闇りりすと申します。父の仕事の関係でこの町に引っ越して来ました。分からないことだらけでご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願い致します」

 

 うわ、何だか礼儀正しいきちっとした子みたい。腰まで伸びたしなやかな黒髪、凛々しい眼もとにキリっと上がった細い眉が意志の強さを表しているようだ。

 

 「席は……、ちょうど川本さんの隣が空いているな、あそこに座ってもらえるかな、常闇さん」

 

 「はい、かしこまりました」

 

 あれ、私の隣の席空いてたっけ? 常闇さんが隣の席に座った。フワッと黒髪が私の顔の近くをかすめるといい香りがした。慣れない学校で心細いだろうから、後で校内を案内してあげよう。

 

 放課後、常闇とこやみさんに話しかけた。

 

 「常闇さん、お隣同士よろしくね。私、川本かすみっていいます」

 

 「川本さん、こちらこそよろしくお願いしますわ」

 

 落ち着いた感じの常闇さん。しっかりと目を見て話すし、姿勢もすごくいい。

 

 「それでね、よく分からないと思うから、もしよかったら学校の中を案内したいんだけど、いいかな?」

 

 「ぜひ、お願いしますわ、川本さん。ありがとう」

 

 常闇さんを連れて校舎や施設を案内する。そういえば、私もソフィアといっしょに校舎を見て回ったんだっけ。あれからいろいろな事があったなあ。思い出にひたっていると常闇さんがじっとこちらを見ているのに気付いた。

 

 「川本さん、どうされたの? 幸せそうな顔でしたわ」

 

 「ごめん、友達のことを思い出してたの。そんなに幸せそうだったかな」

 

 ちょっと照れ臭い。

 

 「ふふ、とっても大事なお友達ですのね。ぜひ今度紹介して頂きたいわ」

 

 悪戯いたずらっぽい表情を浮かべる常闇さん。その瞬間、夕日と常闇さんが重なりシルエットとなった。

 

 えっ? 一瞬、ほんの一瞬だが、何かが見えた。……蛇? 白姫先生の式神「夜刀やと」とは違う、そうもっと黒い闇のような蛇が見えたような気がした。

 

 「どうかなさったの?」

 

 もう一度よく見てみるが何も見えない。

 

 「ううん、何でもない、行こ」

 

 常闇さんは、自分のことはあまり話してくれなかった。物憂ものうげな表情で窓の外を眺めていることが多い。魔法の実力はずば抜けていて、あのソフィアに勝るとも劣らないという感じだった。ミステリアスな雰囲気が一部の生徒を引き付けるらしくじわじわと人気が高まっているようだった。

 

 しばらくして、ソフィアが久しぶりに登校してきた。退院後も少しの間、自宅でリハビリしていたのだ。常闇さんにソフィアを紹介しなきゃね。

 

 「ソフィア! 紹介するね。新しく友達になった常闇さんだよ」

 

 「ソフィア= グレヴィリウスです。よろしくね!」

 

 明るく自己紹介するソフィア。

 

 「常闇りりす、です。よろしくお願いしますわ」

 

 洋風美少女と和風美少女の邂逅かいこう、絵になるなー。

 

 放課後、白姫先生の提案で保健室に集まることになった。メンバーは私、ソフィア、一花いちかの三人。いろいろあったからちゃんと話しておくのはいいことだと思う。

 

 先生を中心に、三人が並んで椅子に座る。とっても嬉しそうな先生。

 

 「ジャーン! 発表します。今日新しいチームが誕生しまーす!」

 

 突然、訳の分からない事を言い出す先生。唖然あぜんとする三人。


 「突然でびっくりした? 先生考えたんだけど、ここにいる三人は最高のメンバーだと思うの。そこで三人の力を合わせると何か凄いことが出来るんじゃないかなあって、どうかな?」


 「凄いことって、具体的には何ですか?」


 一花が、あきれた調子でたずねる。


 「ほ、ほら、最近学校や近所でおかしなことが色々起こってるじゃない。なんかそう言うの調査したりさー」


 おかしなこと起こしてるのは私達だったりして。


 「確かに、少し気になることがあるのは事実ですし、そう言ったことを調べることについては賛成です。チームを作る必要があるのかはなんとも言えませんが」


 さすがソフィア、説得力があるぞ。


 「私は賛成だなー、三人でいろいろ出来たら楽しそうだし。魔法の勉強にも役立つんじゃないかな」


 二人の説得に乗り出す私。本当は先生が、私とソフィアの関係を修復しようと努力してくれてるんだと思う。みんなのことを考えてわざとおかしな提案をしてくれてるんだよね、先生。


 「まあ、先輩お二人が賛成って言うならやってもいいですけど」


 「まだ、賛成とは言ってないぞ! 藤堂」


 うん、ソフィアと一花もいい感じだ。


 「よし、話もまとまったみたいだから決定ね! はい、拍手ー」


 強引にチーム結成を宣言する先生。ぶーぶーと文句を言いつつ楽しそうな、ソフィアと一花。これだよ、私が求めていたのは。ありがとう、みんな。


 「さて、当面の活動方針なんだけど、誰か意見あるかしら?」

 

 先生の丸投げに、うーんと考え込む。

 

 「これは、噂なんですけど……」

 

 一花が何か思いついたようだ。

 

 「少し前から、突然魔法が使えなくなる生徒が増えているそうなんです、調べても理由が分からなくって困ってるらしくて、じゃこるん知ってますか?」

 

 「ええっ? そう言えば職員会議でそんな話があったような……気がする」

 

 先生のポンコツっぷりはほっとくとして、それは由々ゆゆしき問題だ。魔法が使えなくなった魔法少女ほど悲しいものはない。なんとかしなくっちゃ。

 

 「でも、それって病気とか体調とかその人の個人的な問題ってことない?」

 

 ソフィアの言うことももっともだ。個人的な問題だとしたら私たちの出る幕じゃない。

 

 「わかりません、少なくとも身体的な原因は見つからなかったようです。ただ、その人達に共通しているのが、何かよくわからないものを見たんですけど、それが何だったか思い出せないと言うことらしくて」

 

 一花の話でどんどん謎が深まっていく感じだ。私もよくわからない声なら聞こえるけどね。

 

 「よしっ、それで行こう! 私達で謎を解くのよ」

 

 なんだかノリノリになる先生。

 

 「私達って、まさかじゃこるんも入ってるんですか?」

 

 うう、一花、それ言っちゃあ可哀そうだから。

 

 「あ、入れてください……、私も」

 

 こうして、チーム三名の、いや四名のミッションがスタートしたのだった。

 

 

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