先生とお兄ちゃん(その1)


「せんせー! おはようございまーす」

 

 校門で生徒たちの登校を見守る俺。おー、朝からみんな元気がいいねー。

 川本さん、おはよう! いつも礼儀正しいね、感心、感心。

 おはよう! ソフィアさん、隣のサイボーグみたいなお兄さんだれかな? SPさん? ちょーにらまれてますけど。

 こら、藤堂ー! お前、また遅刻か? てへっ、じゃないよ。


 俺、山田霊人れいとは、サイコ学園の教師だ。二年生のクラスの担任をしている。あ、あと合唱部の顧問もやらせてもらってる。

 生徒からの人気は、そこそこって感じかな。元気で前向きだけど、たまに失敗しちゃうキャラをし、慎重に行動してるから、誰にも怪しまれてないと思う。


 何で怪しまれるのかって? 

 

 悪魔だから……


 へへ、びびった? そうでもないって? そうなの? ん? 厨二病? ちがうって、本当に悪魔なんだって! はいはい、って信じてないじゃんか。

瞳の色? いや、今は日本人になってるから黒いよ。悪魔にしては、オーラがない? 普段から出さないよね、オーラなんか。モテなさそう? ああ、モテないよ! 悪魔だったらモテるのかよ! もういいわ。


 めんどくさいから、簡単に説明するよ。今、悪魔界は、大まかに言って2つの勢力に別れているわけ。ひとつは堕天使ルシファー派、もうひとつは、大悪魔アスタロト派。

 まあ、もともとはどちらの勢力も仲良くやってたんだけど、この間の天使との戦争で、アスタロト様と大天使ミカエルが相討ちになってどちらも封印されちゃった。

 悪魔界の均衡が崩れて、ルシファー派は一気に世界を支配しようとしてるし、アスタロト派は、主君を復活させようと頑張ってる。


 そこで、アスタロト様の右腕であるこの俺、メフィストフェレスが、復活の方法を探すため、人間界に派遣されたってわけだ。

 

 いろいろと調べた結果、このサイコ学園の生徒のひとりに封印されている可能性があることがわかった。俺も先生としてさっそく潜入捜査を開始した。やっかいなのは、学園にもう一人エージェントが紛れ込んでいるってことだ。ルシファー派のエヴァトレーネ、養護教諭「白姫蛇子」として活動しているメドゥーサだ。

 

 前の戦争の時、エヴァと俺は一緒に戦った仲間だった。

 いやー、ほら、あいつすげえ天然だろ、なんだかほっとけないって言うか、目が離せないって言うかさ。いや、誤解しないで欲しいんだけど、決して恋愛感情があったわけじゃない。どっちかって言うと出来の悪い妹っていうか、そんな感じだった。あいつが、俺の事兄貴みたいに思ってたかどうかはわかんないけど。

 

 もちろん、見た目は人間になってるけど、お互いの正体はわかってる。常に監視されてるから大っぴらに話は出来ない。

 

 捜査はなかなか進まなかったけど、ある時事件が起こった。俺のクラスで使い魔召喚の授業をしてたときだ。小さなサラマンダー炎の精霊を呼び出す授業だったんだが、どういう訳か巨大なドラゴン、リントブルムを呼び出しちまった生徒がいた。

 並みの魔法力じゃ呼び出せない怪物だ。正直、あせったね。ドラゴンが吐き出した火の玉が生徒に向かって飛んでってさ、あわや大事故になるとこだった。生徒を救ってくれたのはエヴァだったよ。自分の身を盾にしてね。

 

 いや、人間の小娘が自分のミスで怪我したり、最悪死んじゃったとしても俺たちは悪魔なんだから、悲しんだり責任感じたりするわけない、って思ってたんだけど、人間の体になっているせいか、一緒に暮らしているせいかはわからないんだけど、助かって嬉しかったんだよね。

 あいつが、どんな気持ちで人間を助けたのかは俺にはわからない。一つだけ言えるのは、襲われたのが誰であろうと、あいつは同じように助けただろうと言うことだ。あいつはそういう奴なんだ。

 

 どちらにしろ、ドラゴンを呼び出す力をもつ川本かすみが監視対象の有力候補となった。もうひとりの候補は、俺が顧問をしてる合唱部の部長、ソフィア= グレヴィリウスだ。もともとの魔法力もなかなかのものだが、なんだか異様な圧を感じる。特に怒られると本気でびびってしまう。最近は条件反射的に「ごめんなさい」と謝ってしまうぐらいだ。

 

 のんびりやってた俺だったけど、とうとう上層部から指令が来ちまった。

 

 『川本かすみとソフィアの魔法力を直接対決させ、ついでにルシファー派のエージェントも排除せよ』

 

 ルシファー派のエージェントってエヴァのことだよなー、気が進まねー。とは思ったものの指令に従わないと俺が粛清されちまうから、選択の余地はなかった。

 

 まずは、慎重に計画をたてる。俺たち悪魔の行動を監視している天使どもやルシファー派の悪魔に気付かれないように、もちろん、本人たちにも怪しまれないように事を進める必要がある。自然な形で二人を呼び出すにはどうしたらいい?

 あの二人の共通の知人で怪しまれにくい人物と言えば…… 藤堂一花か。藤堂がソフィアのことを追いかけまわしていたことは知っていた。

 俺が合唱部のコンクール申込書を探して川本さんに会ったときも、ソフィアは藤堂に呼び出されて行ったと言ってたな。その後、川本さんと藤堂がふたりで歩いているところも目撃されているらしい。つまり、ソフィアの後輩である藤堂が最近はソフィアの親友である川本さんに接近しているという事だ。

 

 あとは、藤堂一花、本人に聞くとするか。

 

 音楽室に部活の件だと言って藤堂を呼び出す。

 

「せんせー、来ましたー」


「藤堂、この指を見ろ」


「ゆびー?」


 パチンと指を鳴らすと、はい精神乗っ取り完了。悪いが記憶を読み取らせてもらうぞ。

ふんふん、あちゃー、藤堂お前、行動が単純すぎるだろー。ほー、うんん? なんじゃこりゃ? 肝心なところはプロテクトが掛かってよく見えんが、知ってはいかんことを知ってしまったようだ。これが女子高の実態か、うらやましい、いや、なげかわしい。


 情報を整理してみよう。俺はノートに箇条書きすることにした。

 

 ・藤堂はソフィアが好きなので、呼び出して告白した

 ・藤堂はソフィアに振られた

 ・ソフィアには他に好きな人がいる(だれかは不明)

 ・エヴァのことをじゃこるんと呼んでいる

 ・エヴァの魔法実験で川本さんと、いちゃいちゃした。

 ・最近は川本さんがお気に入り

 

 ふう、まあこんなところか。一部どうでもいい情報も混じっているが。次は情報をもとに行動計画をたてる。またまた、箇条書きにしてみる。

 

 ・藤堂のスマホから、川本さん、ソフィアのふたりに保健室へ呼び出すメールを送る

 ・白姫先生(エヴァ)を職員室へ呼び出す。

 ・藤堂に変身して、保健室で待機

 ・やってきた、川本さんとソフィアを魔法の鎖で拘束する

 ・ふたりに魔法の呪文を唱えさせる

 ・ソフィアにマジックアローの呪文を使わせる

 ・エヴァに当たる前にマジックアローを無効化

 

 この計画で重要なのは、エヴァを攻撃したと見せかけてわざと失敗するというところだ。ばれないギリギリの線でやらないと監視の目は誤魔化せない。親友のふたりに悪趣味な魔法を使うのはどうかと思うが、俺、悪魔だから。恋愛感情を揺さぶるのが一番効果的というのが悪魔界の常識なのだ。

 

 さあ、準備は整った。このミッションが終わったらエヴァと少し話ができるかも。なに話そう。そうだ、壁を通り抜けようとしてエヴァの服が破れちゃったことあったな、ちょードキドキしたんだっけ。ゴー! メフィスト! ファイト! メフィスト。 

 


 

 

 

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