先生、捕まりました

 

 季節は巡る。街の木々も緑が濃くなってきた。

 サイコ学園の芝生広場にも爽やかな風が吹き抜けている。

 私、川本かすみは親友のソフィアと二人並んで座っている。


「風がきもちいいねー、ソフィア」


「うん、こんな日は外をお散歩したいわね」


 お散歩かー、お弁当を持って公園に行くのも楽しそう。白姫先生にお弁当作ってあげようかな、コンビニチキンばっかりだと体に良くないし。ソフィアは、誰とお弁当食べたいのかな? やっぱり、例の好きな人だよ……ね?


 そう言えば、藤堂さんがソフィアのことあきらめないって言ってたけど、何かアプローチしてるのかな? あの魔法かなり強力だったし、あれ使われたらさすがのソフィアでも好きになっちゃうかも。ちょっと気になるな。

 

「藤堂さんとは、その後気まずくなってない?」


「藤堂? あーもうぜんぜん。あいつそう言うの気にしないんじゃないかな?」


 結構、気にしてたけどなー、まだ何も行動起こしてないようね。

 実は、保健室での魔法実験の後、白姫先生とお話してから家に帰ろうとしたら、もう一度藤堂さんとばったり出くわしたのだ。

 

「川本先輩、お願いがあります!」


 ってまたもや直球でお願いされたんだけど、話を聞いてみると私に相談相手になって欲しいってことらしかった。私、そういう方面は得意じゃないからって断ろうと思ったんだけど、どうしてもって言われて結局押し切られちゃった。

 ソフィアの気持ちも尊重して応援しようと思ったんだけど、藤堂さんのこともほっとけないし、あー、もうどうしよう?

 

 ピロン!

 

 あっ、メールだ。先生かな? ちょっとゴメンね、ソフィア。


『どうも、藤堂です。あ、一花いちかって呼んでください。この間のお礼がしたいので、放課後、保健室で待ってます、よろしく、てへっ』


 うわっ、自分勝手な内容だなー、てへっ、てなんなんだよ。

 

「ちょっと、かすみー、なにこそこそしてるの? 怪しー、まさか、白姫先生じゃないでしょうね?」


「違うよー」


 違うけど同じくらいヤバいかも。

 

 明らかに疑いの表情を浮かべるソフィア。

 

「かすみって、あの先生のところ行き過ぎじゃない?」


「そ、そんなに行ってるかな?」


「行ってるよ! いったいどんな話してるわけ?」


 どんどん、不機嫌になるソフィア。しまったメールなんか見るんじゃなかった。

 

「どんな話って、魔法の相談とか、いろいろだよ」


「いろいろってなに? 私に言えないこと?」


 うっ、違うと言えばうそになっちゃう、ごめんソフィア。

 

「やっぱり! 言えないんだ! 何かあったら私に相談してって言ったよね!」


 こうなったらソフィアはもう止まらない。

 

「かすみのばかっ」


「――ちょ、待って!」


 すくっと立ち上がるとソフィアは走り去ってしまった。追いかけようと私も立ち上がったが、ソフィアの姿はもう見えない。あいかわらず、足速いなー。

 

 一人残された芝生広場で立ち尽くしていると、さーっと風が吹き抜けた。うん、後でちゃんと謝ろう。それにしても、どうしてそんなに怒ったのかな? ソフィアだって、自分の好きな人のこと教えてくれないんだし、お互い様のような気もするけど。

 

 なんとなく消化できない気持ちが残ったものの、教室に戻ることにした。結局、ソフィアとは口をきくことなく、放課後を迎えた。

 

 ソフィアに謝んなきゃ……、ソフィアを探す。いない! 席は片付いている。教室の中を見渡すが、姿が見えない。

 

 あれ、どこに行ったんだろ? 周りの生徒に聞いてみても、誰も姿を見ていないという。

 

 帰っちゃったのかなあ。もしかしたら、結構怒ってるのかも。いや、好きな人に会いに行っちゃったっていう可能性もあるな。あーなんかもやもやする! ソフィアって勝手だよね。そばにいてスタンドバイミーって言ったくせに。

 

 とりあえず、保健室に行ってみよう。藤堂さんが待ってるかもしれないし。

 いつものように、保健室のドアをノックする。返事がない。


 ドアのノブを引いてみるとカギは掛かっていない。

 

「せんせー、藤堂さーん! いますかー?」


 カチャカチャ 保健室の中で何か音がした。なんだろう?

 

 ドアを開けて中に入ってみる。人の気配はない。もしかして誰か具合が悪くなってベッドに寝てるのかな?

 

 「誰かいますかー?」

 

 ベッドのカーテンは開け放たれており、やはり誰もいないようだ。おかしいなー、確かに音がしたような気がしたんだけど……

 

 ん? 自分が立っている保健室の床になにか線のようなものが見える。チョークかクレヨンで模様のようなものが書かれているようだ。

 

 これは…… もしかして、魔法陣!?

 

 そう思った瞬間、強烈な光が床から発せられる。うわっ、まぶしいっ! とても目を開けていられない。ゴゴゴゴといううなるような音がしたかとおもうとジャリジャリジャリと金属のこすれるような音が続く。

 

 えっ、何?

 

 ガシャン!、最初に両手首、次に両足首が冷たい金属の環で縛られる。まるで十字架にはりつけられたように自由を奪われてしまった。

 

 助けを呼ぶ声を上げようとした瞬間、口に柔らかい布が突っ込まれる。

 

「う、うぐぐ」


 布はしっかりと頭の後ろで縛られ声を出すことが出来ない。一体だれがこんなことを?

 何の目的で? 私どうなるの? いろいろな疑問が頭を駆け巡る。

 

 カチャ、保健室のドアが開く音がした。誰かが来た?

 

「かすみー? せんせー?」


 ソフィアの声だ! この状況は……ソフィアも危ない!

 

 一生懸命にもがくが全く身動きがとれない。

 

 「んんん、ぬぬう」

 

 ソフィア、来ちゃだめ、来ないで!

 

 「かすみ! 何これ――」

 

 遅かった……私に気付いたソフィアが驚きの声を上げる間もなく、恐ろしい速さで鎖がソフィアに襲い掛かった。瞬く間に私と同じようにはりつけにされるソフィア。

 

 「くそっ、だれだ? 離せー、ぐううっ、んん」

 

 ソフィアの口は布ではなくガムテープで塞がれた。ガムテープを持ってソフィアの後ろに立っているのは、藤堂さんだった。

 

 「もー、あんまり世話を焼かせないでくださいよ」

 

 淡々とした調子の藤堂さん。いつもと雰囲気が違うように感じる。

 

 「うぐぐぐっ、んんん」ガチャガチャ 

 

 藤堂さんを見たソフィアは、激しく暴れるが無駄な抵抗のようだ。

 

「もうお分かりだと思いますが、先輩おふたりをここに呼び出したのは、私でーす」


 ソフィアも藤堂さんに呼び出されたの!? いったい何の目的?

 

「いったい、何のためにこんなことしたのかって? そう思いましたか? いやね、ちょっとした実験ですよ。親友の二人が心の底では何を考えているのか、それを検証しようって訳ですよ」


 ソフィアと目があう。怒りに満ちた目をしているのがわかる。

 

「先日、ある呪文の存在を知ったんですよ。好きでも無い二人を好きにさせる呪文です。なかなか強力な呪文でした。それでピンと来ました。だれにでも欲望ってもんがあるんですね。だれかに好かれたい、相手を自分の思い通りにしたいっていう汚らしい欲望が。先輩たち二人の欲望を解放したらどうなるのでしょうか? 友情っていう綺麗ごとで包まれている本当の気持ちを私に見せてください」


 あわわわ、藤堂さんが何を言っているのか理解できない。ただ、恐ろしい実験をしようとしているのは、なんとなくわかるぞ。

 

「無駄話が過ぎました。論より証拠です」


 魔法陣が輝き始める。藤堂さんが、立っている部分に赤い文字が表示された。

 

「魔法力:100万オーバーにより計測不能――てへっ!」


 ああっ、神よ!

 

 

 

 

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