先生を監視します

 私は、グレヴィリウス家の一人娘、ソフィア= グレヴィリウス。

  魔法少女養成学校「サイコ学園」の二年生だ。

 父ガイウスはヨーロッパの名門貴族。ビジネスで世界中を飛び回りなかなか日本に帰って来ない。普段は日本人の母と執事、大勢の使用人たちと一緒に大きなお屋敷で暮らしている。

 現在、私の最大の悩みは、親友のかすみのこと。もともと天然ボケがひどい子なんだけど、最近様子が変なのだ。 

 使い魔召喚の授業で、超強力なドラゴン「リントブルム」を呼び出したり、スコップを魔法の矢に変えて意地悪な同級生を射ようとしたり、とにかく危なっかしい。私が付いていてあげないと大変なことになっちゃうよ。まったく!

 

 それもこれも、あの養護教諭 ――白姫蛇子が来てから始まったことだ。かすみは蛇子になついちゃって、たびたび保健室に行ってるみたい。

 あの子ほんとに騙されやすいから心配だわ。


 だいたい、「蛇子」ってなに? 名前からして怪しすぎるから! 式神の夜刀やとって言う大蛇を操ってたけど、あれって邪神じゃない? 私、見ただけで鳥肌たっちゃった。

 ドラゴンの吐いた火の玉ファイヤーボールを生身で受けてたわよね、あれつっこむとこだから! 不死身かっ? てね。  

 

 まあ、かすみを助けてくれたのは感謝してるけど。 

 とにかく、白姫蛇子は普通じゃない。何か隠してるに違いない。もしかして、かすみの体が目当てなんじゃ…… かすみに、ありとあらゆる変態行為をしようと計画してるのかも。

 私の好きな、かすみのさらさら髪の匂いをくんくん嗅いだり、私の好きな、かすみのほっぺに何度もチューしたり、私の好きなかすみの細い足首を思いっきりつかんだり


――させないよっ! あーっ、先生だろうが関係ないから! 我が家の私設特殊部隊「ソフィアのための騎士団」送り込むから。殲滅せよ! 焼き払え! ふはははははは!


 は、は、はあ、はあ……ぜいぜい


 えっ? 取り乱したって? 私が?


 忘れなさい、今すぐに。


 なんとかしっぽをつかもうと思って、蛇子を監視することにした。

 渡り廊下を歩いている蛇子を発見! なんかぎこちないわね、あっ! けた! ヒールが引っ掛ったのかしら? 近くにいた生徒に笑われてるし、だっせー。

 

 芝生広場にいる蛇子を発見! きょろきょろして周りの様子を伺っている、怪しい、絶対怪しい。何か良からぬことを計画しているに決まってる。ん、手に持ってるビニール袋から手のひらサイズの紙包みを取り出した。袋の上半分を剥がしてパクリ。ってコンビニチキンかい! 

 

「おいしー、幸せー」


 ふん、安っぽい幸せね。ていうか、あんたこの間、保健室でもチキン食ってただろ!

 匂いですぐわかっるつーの。

 

 美術室にいる蛇子を発見! 美術部の生徒に何か話しかけているようね。

 また、新しい獲物を発見したの? かすみだけじゃなくて他の子にまで! あんたの毒牙にかかる前に止めてやる。


「立花さん、クレヨン貸して!」


「子供用のクレヨンで良ければ、これどうぞ、先生、絵描くんですか?」


「……壁画を……ちょっと」


「はー、壁画ですかー、頑張ってくださいね」


 壁画じゃなくて落書きでしょ、どうせ。

 

 あーつまんね、やってらんね。

 

 あ、そうだ! かすみを家に呼んで一緒に勉強しよ。

 

「ねえ、かすみ、かすみってば」


 どうしたのぼーっとして、私のこと考えてた?

 私の家で勉強会しようって誘ったらすんなりOK、テンションあがるわー

 

 さ、急いで、急いで、早く行こうよ。

 

「せんぱーい! ソフィア先輩!」


 は、だれ? 邪魔するのは? 誰かと思ったら合唱部の後輩の藤堂か。

 おい、藤堂、空気よみなさい。私は急いでるのだ。

 

 話したいことがある? しかもここじゃダメって?

 かすみ、どうする? 行ってあげなさいって? 優しい子ね、かすみは。

 正直、あんまり気が進まないんだけれど……

 

 うん、わかった、ちょっと待ってて、すぐ済ませるわ。それで、どこに行くの? 藤堂。談話室か、少し遠いわね。

 

 談話室で向かい合う私と藤堂、なんか変な雰囲気だな。

 

「先輩! 私、先輩のことが好きです! 付き合ってください」

 

 おおっ、いきなりかい? 困るぞ、そういうのは。

 

「藤堂ごめん、私は他に好きな人がいるの」


 まあ、はっきり言ったほうお互いのためよね。

 

「納得できません、先輩に好きな人がいるなんて! ううっ、ぐす」


 あー、泣かせちゃった。そんなつもりはなかったのに。

 

 ガラガラと談話室の引き戸を開けると藤堂は出て行ってしまった。

 ふー、こういうのは苦手なのよねー。スマホのアルバムを開いてお気に入りの写真を呼び出す。

 私とかすみが頬を寄せ合っている笑顔の写真。鈍感なあの子にこの気持ちが伝わることはあるのかな?

 

 トントンと扉がノックされた。入り口にかすみが立っている。やばっ、見られた?

 かすみの説明によると山田先生に頼まれて呼びに来たようだ。心配してくれた? だといいけどね。

 

 かすみには、藤堂に告白されたことを正直に話した。


「そ、それでっ?」


ふふ、焦ってる、焦ってる。


大丈夫だよ、断ったからきっぱりとね。


勉強中も、時々ぼっーとしてるかすみ。まさか、蛇子のこと考えてるんじゃないでしょうね? 

 あいつヤバイから! ヒールでこけたり、コンビニチキン食べたり、クレヨン借りたり……まあ、そのうちしっぽをつかんでやるわ。


そういえば、最近、変な声が聞こえるのよねー


あ、そうそう、かすみがスコップを魔法の矢に変えちゃったときも、(止めるのです!)って聞こえたし


蛇子を監視してるときも、(もっとよく見なさい!)

って聞こえたような…


疲れてんのかなー、こんな時は、写真を見て癒されよう。スマホで隠し撮りした、かすみの写真コレクション。ふあー、かわいいー、ニヤニヤしちゃうよ。


(アホか)


ん、今なんて? 気のせい……よね。

 



 


 

 


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