命の証

「残り1年、今までやれなかったこと全部やってさ、思い出にしようよ。"俺はここで生きた"っていう証を残そう!」

私はユウタに提案した。今は、自分の記憶よりユウタのことが1番大事だって思う。

時間は限られている。だからこそ、その時間を精一杯生きて欲しい。

それが私のユウタへの願いだった。

「今までやれなかったこと、か。俺…、鐘巡りをしてみたい」

「鐘巡り?」

「そ。文字通り、鐘のある場所を巡ってくだけ。映画でいう聖地巡礼みたいなやつ。

夢守町の神社に、"9つの鐘巡りしとき、幸賜るであろう"って言い伝えがあるんだ。その9つの鐘は全国に散らばっているらしい。それもあって叶わぬ夢になってた。この際だから、全部巡ってやりたい。

あと、雪も触れてみたい。今まで、この地方に雪が降ったことが無ぇんだよな…」

「それじゃ、2つとも叶えよう!今は春。まだ時間はあるけど、余裕を持っておきたいから…毎月土曜日に巡りに行こう。ってもう明日土曜だった!

ユウタ…、どう?」

ユウタは、呆れたような顔をした。

「それ…。ほとんど俺に拒否権ないやつだろ?俺が嫌だって言っても決行しそうだし。まぁ、構わないけど。お前のそういうところも、この前の"鬼レベルの登山"でよーく分かった」

今度は、私が呆れた。

「ユウタに体力が無いんでしょうが…。それに、鐘巡りって平坦な道だけじゃ無いと思うんだけど?また山登るかもよ?」

嘘だろ…と、ぼやくユウタの隣で私は1つ気になることがあった。

「9つの鐘って、どれ?」

場所的に知っておきたかった。

「1つ目はここ、アリエス地区。夢守町にある"夢の鐘"。

2つ目。ここから少し離れたタウロス地区、その海の近くに絆の鐘。

3つ目。その海の反対側に位置する霊山、双子山に、"記憶の鐘"。

4つ目。レオン地区、夕日の丘にある"太陽の鐘"。

5つ目。レオ地区の真西にある、ヴァーゴ地区。そこの夜明けの丘にある"月の鐘"。

6つ目。太陽の鐘と月の鐘から等距離にある…ここ、リブラ地区。その真南にある星の鐘"。

7つ目。スコーピオ海の近くにあるサジタリアス地区の、"命の鐘"。

8つ目。命の鐘の真西に位置するカプリコーン地区のアクエリアス湖にある"不死の鐘"。

最後、9つ目。パイシーズ地区、思守町。そこの夢思丘にある、"思いの鐘"。

これら全てを鳴らすと、自分の願いが叶うと言われている」

「本当に叶ったらいいね。すっごく楽しみ!」

と言ってみたけど、本当は楽しみなんかではなかった。思い出づくりによって、ユウタがどんどん消えていきそうで怖かった。

不安な顔をしていたら、感づかれてしまう。

だから、不の感情は投げ捨てて、少し笑った。


こういうときに嘘をつくのって、あまり罪悪感が無いんだな、と静かに感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る