22話

「そう、すっかり仲直りしたのね」

アキからの電話を受け取りながら、私は1人安堵した。

泊まっていたホテルから出ると、すぐにアキの家へと向かった。

「おじゃましまーす」

「あっ、白石さん」

「どうだった?」

私がアキに問いかけるとアキは何も言わなかったが、眩しいまでの笑顔だった。

「白石さん帰る前に少しだけお話してもいいかしら」

アキの後ろに立っていたお母さんが聞いてきた。

「構いませんよ」

私は前のようにリビングに通された。

「この前はお気遣いありがとうございます」

「いえ、私の方こそ首突っ込んですみません」

少しだけ柔らかくなったお母さんに安堵していると、本題を切り出された。

「アキとの同居どうされるおつもりですか?」

(やっぱりその話題だよね)

「それは・・・」

色々と考えてきたつもりだった、でも言葉が詰まって何も出ない。

「私としてはこの家に戻ってきて欲しいのですけど、アキは白石さんに一任するそうで」

その言葉から、私は追い詰められてしまった。

(私は・・・私は・・・)

いつだって言いたいことを言える。

そんな私の数少ない特技が発揮できない。

(頭の中まで真っ白になってきた)

「・・・・・・」

するとアキが机の下でそっと私の左手を握った。

(アキ・・・?)

アキの方を見ると、アキは私の顔を見つめながら笑顔を向けてくれた。

「僕は白石さんがどんな答えを出しても何も言いません。だから白石さんはいつも僕に言ってるみたいに言いたいこと言えばいいんですよ」

(いつも言ってるは余計よ)

私はアキの手をギュッと握り返すとお母さんの目を見ながら言った。

「私は・・・!」


アキの家を訪ねてから1週間が経った。

「白石はそれで良かったの?」

休日返上出勤の合間に東先輩とコーヒーを飲んでいると、アキの話題になった。

「わかんないです。今でも」

「わかんないです、ねぇ。私は白石がそれで良かったなら良いんだけど」

「私は正直いいとは思いませんでしたよ。でも、あれが一番だと思ったんです」

あの日、私はアキにこの家に戻って欲しいことを伝えた。

アキ、そしてアキのお母さんも驚いた表情をしたが二人とも何も言わなかった。

「白石は好きな人と離れちゃうことに何も感じなかったの?」

「ちょっ!べっ別に好きとかそんなことは・・・わかんないです」

もちろん私はめちゃくちゃ寂しかった。

実際にアキが私の家を出ていく日、私は泣いてしまった。

「でも約束したので」

「約束?」

私はあの日、泣きながらアキを見送ろうとすると、アキはある約束をしてくれた。


「アキ・・・行っちゃうんだね」

「はい。本当にお世話になりました」

アキは正座しながら小さく頭を下げた。

「アキ・・・本当に大丈夫?」

アキがお母さんや新しいお父さんと仲良くしていけるのか、私も少し心配だった。

「白石さんこそ心配ですよ!」

「だっ大丈夫だよ!少しは料理覚えたもん!」

「それだけじゃないでしょ!洗濯物は溜め込まない!スーツはしっかり掛けておく!掃除はこまめにする!まだありますけど続けますか!?」

「ちょっとずつ覚えていく所存であります」

「うむ。よろしい」

私たちはいつものようによく分からないような会話をしばらくしていた。

「やっぱりアキ・・・私」

「白石さん。僕は大丈夫です!白石さんが思ってるよりも強いですから!」

「私が弱いのよ・・・」

「ちょ、泣かないでくださいよ」

「だって、アキと離れるの寂しいもん」

私がそう言うと、アキは顔を真っ赤にした。

「そう言うことを今言わないでくださいよ・・・」

「私だって!アキのこと好きだから!」

ここまでくると、もうヤケクソだった。

「僕も白石さんのこと女性として好きですよ。だから約束してください」

「約束?何よ」

「僕がまた白石さんに会いに来るまで恋愛しないで下さい」

「束縛したいの?」

「最後まで話を聞いてください。でも他の人は前よりも優しくしてください」

「どうしてそんな約束するの?」

全く話の意図が伝わってこなかった。

「だって僕が好きになったのは、誰にでも優しくて、他人だろうと助けてくれる、そんな白石さんだから」

少し間を開けてアキは言った。

「そこに愛や感情が無くたって」

(私はアキのこういう所に惚れたんだろうな)

「ばーか当然でしょ。私は誰にだって優しくする面倒見が良いお姉さんよ」

頭の中で考えたことが恥ずかしくなって、私は少し強がった。

「だから帰って来た時は・・・!」

私はアキの唇を自分の唇で塞いだ。

「そこから先は、次に会った時にとって置いて」

「・・・そうですね。次の楽しみが増えました」

「それじゃ、元気でね」

「白石さんもお元気で」


「何なのよ、その惚気は」

全部聞いていた東先輩は顔を赤くしながら呟いた。

「でも、アキくんと白石らしいね」

そんなことを思いながら、私はアキが私の元に帰ってくる日を待っている。

たくさんの人に優しくしながら。


たとえ愛がなくたって 〜完〜















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