20話

「母さんが1度、息子の面倒を見ている人顔くらいは見ておくべきだと」

アキの母親のその言い草に少しいらだちを覚えた。

(どの口が言うんだよ)

私はその言葉を飲み込み話を続けた。

「でもどうしてこんなに急なの?」

「僕も最近はほとんど母親と連絡を取ってないので、何とも・・・」

色々と腑に落ちないところはある。

でも1度アキの母親とは直接話をした方がいいと思った。

「分かった、話に行くよ。それで、そっちはいつに来いって言ってるの?」

「あー、それが・・・」


「はぁ・・・」

月曜日の朝、私は集中こそしているものの、大きなため息がつい出てしまう。

「どうしたの?いくら魔の月曜日だからってそんな大きくため息ついて」

魔の月曜日、東先輩はそう表現していたが、私とっては今週に限ってそう言えなかった。

「なんか悩みでもあるなら、相談に乗るよ?」

あまりにも東先輩が深刻に受け止めてしまったので、思い切って相談してみることにした。

「なるほどね。それで、アキくんのお母さんにはいつ会いに行くの?」

「・・・今週の土曜日です」

「本当に?やけにあっち側せっかちだね」

アキの母親の仕事が忙しいらしいが、それにしたって早い気がする。

「下手すると、アキくんを家に戻らせるのかもね」

私には、あまりに話が急で頭の中には、不安しか残ってなかった。

「私、どうしたらいいか分からなくて・・・」

「でも白石、これは私の意見を参考にするものでは無いでしょ」

東先輩のその一言に私は俯き気味だった顔を上げた。

「白石はアキくんとどうなりたいの?

ずっと守ってあげたいの?

そばに置いておきたいの?

それとも、結婚したいの?」

「それは・・・」

「きっとアキくんは白石が決めたことだったら納得すると思うよ」

だからこそ私は悩んでいた。

「白石は、アキくんにどうなってもらいたいの?そして白石自身はどうなりたいの?」

「私は・・・アキに幸せになって欲しい」

どんな形であれ、今までの分アキには幸せになる資格がある。

「ありがとうございました。なんとなく私の中で答えが出た気がします」

そう言うと東先輩はいつものハツラツとした顔に戻った。

「お礼は焼肉でいいから」

「払いますよ、どんなのだって」

私はそう言って休憩場所を後にした。

「東のくせに、珍しいことするんだな」

白石が席を立ったのを見計らって峰山が近づいてきた。

「いい先輩ってのは、珍しいことして後輩を励ますんだよ」

「お前にとっては、奇行の方が普通だもんな」


「白石さん。早くしないと電車出ちゃいますよ」

東先輩やたくさんの人に励まされながら、毎日のように仕事をしていればいつしかこの日が来る。そんなことは私にもわかっていた。

「行きたくない・・・」

「いつまで言うんですか。一昨日までは僕以上に気合い入ってたじゃないですか」

確かにたくさんの人に励まされ、自分の言いたいことは、はっきりと言うと気合いづいていたが結局答えは出ないままだ。

「私、やっぱり自信ないよ・・・」

私の口からもいつもなら出ない弱音が出てしまった。

「白石さんなら、大丈夫です!」

「アキ・・・?」

たまに怒られて帰ってくる私を見ては、自信をくれる、アキにしてはなんだか曖昧な言い方だった。

「どうして私なら大丈夫って言いきれるの?」

するとアキは、普段の何倍もの優しそうな笑顔で言った。

「だって僕が好きになった人は、優しくて面倒見が良くて。それでいて、自分の言いたいことが言えるかっこいい人ですから」

「アキ?それって・・・」

「何してるんですか?早く行きましょ」

なんだかとても大事な事も言われたけど、私にはそれ以上に、自分自身の何かに繋がった気がした。

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